抄録
夜間に山麓より山腹の方が気温が高くなる現象である斜面温暖帯の存在は古くから知られており、数多くの研究が行われている(e.g.,吉野1986)。近年ではKobayashi et al.(1994)が夜間の斜面上の複数地点の鉛直気温分布や斜面付近における流線を明らかにする実測的研究を行っている。また、斜面冷気流、斜面温暖帯、冷気湖が動的相互作用を示すため、斜面温暖帯のみを単独では考えられないことが指摘されている(Mori and Kobayashi 1996)。さらに、これらに関して理論的な研究もされており、近年ではShapiro (2012)により斜面冷気流・斜面温暖帯の解析解が示されている。しかしながら、斜面温暖帯の形成位置や時間的な変化についての議論は十分ではなく、数値シミュレーションを用いた詳細な物理メカニズムは明らかになっていない。本研究では数値シミュレーションと理論解、観測というアプローチから斜面温暖帯の形成メカニズムについて再評価することを目的とする。
斜面温暖帯の一晩の間での上昇は、前回の発表(2013年春季学術大会)以降の観測(ex. 2013年12月13日~14日)においても確認された。12月13日20:00時の観測結果では標高200~400m付近に帯状に気温の極大値が出現し、斜面温暖帯が確認された。一方、14日4時では全体の気温は相対的に低下しているものの、気温の極大値は450~600mに上昇しており、相対的な温暖帯の位置が上昇している様子が示された。
斜面温暖帯再現のため、斜面冷気流や地上での冷気層を計算可能な数値モデルを構築し、数値シミュレーションを 行った。日没後から斜面上には斜面冷気流が形成されると同時に、地上付近には冷気層が徐々に堆積される様子が再現された。また、基本場の気温逓減率のために冷気層上端の斜面上には、相対的に気温が高くなる斜面温暖帯が形成された。また、その後の時刻の鉛直気温分布のシミュレーション結果から、全体の気温は徐々に低下するものの、気温の極大域はより上空に移動している様子が再現された。斜面温暖帯の出現高度は冷気流の流入が活発になる高度と常に対応関係にあり、夜間の冷気層の発達により、上昇する様子が確認された。このような結果はMori and Kobayashi(1996)の観測結果と合致する。斜面下降流に対する補償流は、主に山地上部の水平方向から供給されており、山地上部での上空の高温位空気の流入がシミュレーション結果及びShapiro(2012)に基づく理論解の結果より確認された。しかしながら、これらの熱的影響は斜面の最上部付近のみにとどまり、中腹域に形成される相対的な斜面温暖帯とは本質的に異なるものであると考えられる。