日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 110
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発表要旨
高知県梼原町における地域包括ケアの地理的多様性
*中村 努
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抄録

Ⅰ.はじめに
日本では,ベビーブーム世代が後期高齢者(75歳以上)に到達する2025年を念頭に置いて,住み慣れた地域で人生の最期まで暮らし続けられるよう,住まい,医療,介護,予防,生活支援が一体的に提供される地域包括ケアシステムの構築が目指されている。
高知県では,4つの二次医療圏(中央,安芸,高幡,幡多)を構想区域とした地域包括ケアシステムの構築が目指されている。しかしながら,医療資源は高知市を中心とする中央医療圏に偏在しており,周辺医療圏に居住する入院患者が中央医療圏の医療機関を受療するといった,圏域をまたいだ患者の移動がみられる。今後,保健,医療,福祉サービスが相対的に不足する縁辺地域において,関連する事業者や住民が協力することで,地域のニーズを充足することが課題とされる。本発表は,長年にわたって地域包括ケアを推進してきた高知県梼原町を事例に,縁辺地域でありながら多様な地域包括ケアシステムが構築されてきた経緯から,ケアの地理的多様性の要因を考察する。

Ⅱ.梼原町における地域包括ケアシステムの構築過程
梼原町は高幡医療圏の北西部の愛媛県境に位置している。森林が町域面積の91%を占める一方,宅地面積は0.4%に過ぎない。梼原町は1889(明治22)年の市町村制の実施によって,旧6カ村が西津野村として発足した。その後,梼原村と村名が改められ,1966年に町制を施行して梼原町と改称されて現在に至る。旧村単位で梼原東・梼原西・越智面・四万川・初瀬・松原の6区と53の字に分けられている。2015年の国勢調査における人口は3,608人,総世帯数は1,560世帯と5年前と比べていずれも約1割減少した。2014年現在の高齢化率は43.2%で年々上昇傾向にある。2015年度の要介護認定者数は290人で,うち要介護度3以上の割合は47.9%(139人)を占める。
梼原町は1971年に医師の不在を経験しており,医師確保に苦慮した。また,1960年前後に赤痢が集団発生したことから,安定した医師確保に加えて,疾病予防や健康づくりに向けて,行政が住民と連携して地域保健,地域福祉の推進,月1回の地域ケア会議(2000年4月~)や週1回のケアプラン会(2008年度~)の実施などを進めてきた。ハード面においては,1996年に国保梼原病院(東区)と保健福祉支援センター(介護医療係,福祉係,健康増進係,地域包括支援センター,居宅介護支援事業所等),高齢者生活ハウス,社会福祉協議会が併設された。職種間の円滑な情報共有が図られるとともに,物理的,時間的な移動を伴うことなく,保健,医療,福祉,介護の各ニーズが充足されるうえに,各種行政手続きや相談がワンストップでできる。組織体制においても,梼原病院長が,保健福祉支援センターのゼネラルマネージャーとして,業務全体を総括しており,一体的な組織運営が図られている。

Ⅲ.梼原町における地域包括ケアの地理的多様性
梼原町では,住民の健康づくりを積極的に推進するため,1958年に衛生組織連合会が発足した。同連合会は町内全戸で組織され,6区の自治組織ごとに衛生委員長が選出される。連合会には1977年から始まった町独自の健康推進員制度によって,住民同士が話し合って,3年任期の保健衛生推進員(現健康文化の里づくり推進員)が, 20戸に1人の割合で推薦される。選ばれた住民は講習会などに参加して病気の知識を蓄え,医療者と町民の間をつなぐ役割として、特定健診やがん検診への参加を住民に呼び掛ける活動などを行っている。その結果,特定健診率は県内で1位となっている。しかし,人口減少の進展により,集落によって推進員を担当できる者が限定されるなど,推進員にかかる負担に地域差が生じている。
医療サービスについて,東区に国保梼原病院(30床)および国保歯科診療所が1施設,松原区と四万川区に町立診療所がそれぞれ1施設立地している。診療所には週2回内科医師が派遣されている。介護サービスについて,社会福祉法人が西区で特別養護老人ホーム1施設(80床)とショートステイ(15床),デイサービスを運営している。加えて,同法人は障碍者支援施設(80床)を運営するほか,株式会社1社が訪問介護を実施しており,いずれも公設民営方式である。デイサービスは,2001年以前に社会福祉協議会が運営していた事業と一元化された経緯がある。社会福祉協議会はいったん解散されたが,老老介護に対する町や住民のマンパワー不足から,2014年度に再法人化された。現在,協議会職員6人が地域福祉を目的として,各地区の全戸を見守る活動を行っている。また,NPO法人によって,周辺部(初瀬区,松原区)の要介護高齢者への移送,配送サービスが実施されているが,担い手の減少と高齢化によってサービスの存続が危惧される。

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© 2016 公益社団法人 日本地理学会
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