日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P902
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発表要旨
岩手県三陸地域,東日本大震災の被災地における復興状況の変遷
2013~2016年に撮影した写真をもとに
*佐島 健菅澤 雄大
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抄録
2011年3月11日の東日本大震災から5年目を迎える.報道等でも5年目の特集を組むなど,節目の年として三陸地域の生活再建,産業復興について,語られてきている.しかし,まだまだ復興は途上にある.震災後,5年目が経過したということもあり,以前よりはメディアにのる機会も少なくなってきたが,さまざまな視点で,各分野からの研究,報告がなされることが,今後も期待されている.地理学においても同様であり,本調査・研究は震災後5年目において,三陸地域のいくつかの復興途上の景観を写真により提示する.現地が今どのような状況にあるということを知ることそのものに意義があると思われるからである.また,我々が最初に三陸を訪れた2013年3月と比べての変化も併せて提示する.この変化から,生活再建,産業復興が進められてきたことが分かると同時に,現地の人々の見方もさまざまであるということも提示するものである.ついては,本調査・研究における一つ一つのデータが今後の調査・研究に資するものであることを期待する.
岩手県の三陸地域において,陸前高田市・大船渡市・宮古市にかけての東日本大震災の被災地で写真撮影と聞き取り調査を中心とした現地調査を実施した.現地調査は,2013年から2016年にかけての計16日間で実施した.また,2015年と2016年の調査を中心に,被災地の復興状況とそこに暮らす人々の被災体験や震災後の生業・生活に関する聞き取り調査を行った.
2013年から2016年にかけて,およそ1年おき(2015年,2016年は4か月おき)に現地調査を実施した.その結果,2013年の時点では,震災の瓦礫や津波の被害から逃れた建物の一部残されている更地が多く見られた.2014年には瓦礫がほとんど撤去されて,更地も整備されていた.2015年以降に陸前高田市などを中心に盛り土工事が実施されていた.
2013年,陸前高田駅周辺の旧市街地では,津波の被害を免れたビルが1棟残るだけの更地が広がり,各所には瓦礫が積み上げられていた.2016年には,かつて張り巡らされていたベルトコンベアは撤去され,盛り土工事が進められていた.この復興の状況について「陸前高田未来商店街」の商店主の方によれば,主に以下の不安があるとの回答を得られた.現在の仮設店舗での営業期間の見通し,処分に関わる費用負担,また,市役所から盛り土造成でできる新市街地への出店要請があると同時に,場所も費用の見通しのつかないこと,最後に,新市街地に出店して採算が成り立つかわからないことである.
大船渡市魚市場周辺では,満潮時に海沿いの土地が冠水する状態が2013年に見られた.2014年には震災前から建設が進められていた新魚市場が完成し,その周辺には漁業関連施設も整備された.大船渡漁港魚市場株式会社でうかがったところ,2015年に水揚げ高は震災前の水準に戻りつつある一方で,漁獲件数は震災以降,減少しているとのことである.
宮古港周辺の鍬ヶ崎地区・日立浜町地区では,2013年には津波で流された家屋の基礎が残された更地が広がっていた.2015年から2016年にかけて土地の造成が行なわれ,震災復興集合住宅などが建設された.この地区で酒造業を営む酒蔵によれば,震災後,比較的早く出荷を再開したという.その一方で,同じ地区で漁業と民宿を営んでいた漁師によると,漁業は継続しているが,民宿業は廃業してしまった.
宮古市の田老地区では,防潮堤の一部を残して更地が2013年に広がっていた.2015年以降,震災復興住宅や漁業関連施設,野球場が建設された.現在,震災および津波により生じた被害状況やそれ以降の人々の生活について語り継ぐ「学ぶ防災」活動を実施し,観光業において振興を図っている.
以上のように,震災5年目を迎えて復興が進みつつある中で,そこに暮らす人々の苦労や葛藤も見られる.今後は,より詳細な聞き取り調査を実施しながら,景観からとらえられる地域の復興とそれと密接にかかわる人々の生活再建がどれほど進んできているかについても明らかにしていきたい.
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© 2016 公益社団法人 日本地理学会
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