日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P1020
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発表要旨
干渉SAR解析による石川県白山地域における斜面変位の検出事例
*村上 亘大丸 裕武
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抄録

はじめに
 干渉SAR解析は地震などの広域な地殻変動の抽出において有効な手法として広く活用されてきているが、地すべりのような比較的狭い範囲の斜面変動の抽出もできることが指摘されている(岡谷ほか、2012)。このため、治山・砂防分野においても斜面災害の予測・監視技術としての利用が期待されている。本報告では、2015年5月に大規模崩壊の発生が確認された石川県白山地域において、従来の空中写真判読に併せて、ALOS、ALOS2衛星によって計測されたPALSARデータを用いた干渉SAR解析から明らかとなった崩壊に至るまでの斜面変位の履歴について報告する。併せて、今回の解析によって変位が検出された周辺の山地斜面について報告するとともに、このうちの一つの山地斜面において実施されていたGPS計測との整合性についても報告する。
 
調査地および調査方法  
 2015年5月はじめに確認された崩壊は、石川県と岐阜県の県境に位置する白山の北側に位置する手取川水系上流の大汝川地区で発生した。崩壊が発生した斜面は周辺に道路などのアクセス手段がないこともあり、正確な発生時期は不明であるが、下流への土砂の流出が確認された4月下旬~5月はじめの融雪期であろうと推測されている。調査では、これまでに計測されたALOS、ALOS2のPALSARデータのうち、干渉させて差分を取ることができた4時期のペアをENVI SAR Scape 5.2を使用して解析し、崩壊が確認された斜面および周辺斜面の変位の有無を明らかにした。解析が可能なデータは2007年以降のデータであったため、それ以前の斜面の変位については空中写真を判読することで明らかにした。今回の解析の際に、周辺の山地斜面においても斜面変位が検出された。そのうちの一つは後述する治山事業が実施されていた地すべりであり、GPS計測が実施されていた。このため、解析時期中のGPS計測の結果と干渉SAR解析によって検出された斜面変位との比較を行った。

調査結果および考察
 崩壊が発生した斜面は、空中写真判読から1995年から2000年の間に変位の進行がはじまったことが明らかとなった。また、干渉SAR解析の結果と併せると、崩壊に至るまで恒常的に変位が進行していたことが判断された。干渉SAR解析では、崩壊前後も含め、干渉させて差分を取ることができた4時期(2007年7月6日~8月21日; 2008年7月8日~2009年7月11日; 2010年7月14日~8月29日; 2014年10月20日~2015年7月15日)すべてで、斜面の変位が認められた。このうち2007年の1か月間および2008~2009年の変位は、今回崩壊した斜面よりも南側で変位が大きく、崩壊斜面の変位は2009年~2010年以降に顕著になり、崩壊に至ったと判断された。さらに、崩壊前後の解析結果から、崩壊地より上部の緩斜面、および南側の斜面においても変位が認められ、今後の崩壊の拡大、あるいは新たな崩壊発生の可能性も示唆された。
 今回実施した干渉SAR解析により、周辺の山地斜面3か所においても斜面の変位が検出された。これらは2008年7月8日~2009年7月11日、および2014年10月20日~2015年7月15日の2時期の解析で変位が検出された。変位が検出された斜面のうち、2か所は「湯の谷地すべり」「甚之助谷地すべり」と呼ばれ、それぞれ治山、砂防事業においてGPS計測等による斜面監視が実施されている斜面であった。「湯の谷地すべり」については、2014年~2015年にGPS計測により計測された斜面の変位と該当する時期の干渉SAR解析により検出された斜面変位を比較した。その結果、干渉SAR解析により検出された斜面変位はGPS計測により計測された斜面の変位とおおむね傾向が一致する結果となった。

まとめと今後の課題
 干渉SAR解析は、広範囲なエリアから今後の崩壊の危険性のある斜面の特定および、特定された斜面の初動の監視が可能である点において、有効な手法であると考える。しかしながら、地すべりのような狭い範囲の斜面変動を抽出する場合、地震などによる広域な地殻変動や衛星の軌道方向等によっては判定できない場合があるため、注意が必要である。また、今回の解析結果は衛星に「近づく」か「離れる」で示されるように、実際の斜面の変動をとらえているわけではない。今回紹介したGPS計測などの現地調査結果と併用するなどして、実際の変動との整合性を明らかにすることが今後、必要である。

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