日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 314
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発表要旨
企業間ネットワークに基づく経済圏域設定
*福田 崚
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抄録
1.目的
 産業集積や企業立地に関する議論は様々な側面から展開されており、それに対応して政策も実施されているが、どのような単位で立地を集計し政策を展開することが妥当であるかについては広く合意された手法があるとは言い難い。経済産業に着目した圏域はしばしば恣意的で全国統一の基準を欠いており、そうでなければ通勤流動の把握、交通や医療サービスの提供などの目的で設定されたものの流用になっており、産業経済の把握の観点から必ずしも妥当なものではない。そこで本研究では、企業間のネットワークデータを利用して圏域を確定することを試みる。産業政策のみならず持続可能な道州や市町村合併の枠組みを考える上でも意義があると考えられる。
2.データと手法
 本研究では、株式会社帝国データバンクが保有する企業間のネットワークデータ(取引・金融関係―メインバンクの利用)を用いる。当該企業は全国約140万企業について様々な情報を保有しており、網羅性と詳細性を両立している。ここでは2011年5月時点でのデータを用いる。
  取引や金融機関の利用といったリンクのうち事前に設定した一定割合(目標自給率)が圏域内に存在するように境界を画定する。プロセスは以下の通り。
[1]1㎞以内に立地する金融機関の連坦をまとめた中心点を設定。
[2] 各中心についてボロノイ図を描き、それによって画定される圏域を基礎単位とする。
[3]目標自給率に向かって基礎単位を統合する作業を繰り返す。
①人口最大の基礎単位を首位基礎単位と定める ②各基礎単位内に立地している企業の取引先・利用金融機関が当該基礎単位以外で最も多く立地している基礎単位の下に配置し、首位基礎単位を頂点としたツリーを作成する ③各基礎単位について、取引・金融自給率が目標に達しているか確認する ④目標に達していなければ、ツリーの一つ上の基礎単位と統合する ⑤あらゆる圏域が目標自給率に達するまで③~④の作業を繰り返す
3.圏域設定結果
 計算された圏域のうち、取引35%圏域と金融95%圏域の結果を図1に示す。取引の範囲は比較的広範であり、多くの地域で都道府県の結びつきの強さが明らかである。全般に金融機関の利用はより狭い圏域に留まっており、自給率95%の圏域でもより狭いスケールで展開されているが、東京圏の広がりは取引圏と大きな差がない。どちらの圏域でも条件不利地域において孤立した圏域が存在しており、経済圏域の広がりの地域間の格差の大きさがうかがえる。
4.圏域の評価
 上の取引圏と金融圏に関し市町村を基礎単位とし圏域数を200程度にそろえ、また地方圏における各都道府県で最低一つの圏域が成立するような加工をしたうえで、他の圏域と社会経済指標に対する説明力の比較を行った(表1)。持続可能な圏域設定の観点から、格差に関する指標を設けた。一人当たり税収の格差は静態的な経済の完結の度合いを、人口増加率や企業移転率は動態的な安定性を示していると期待される。その結果、一人当たり税収の格差についての変動係数による評価を除き、金融圏が最も格差の平準化に寄与するという結果になった。金融機関との結びつきが立地の継続性と地域の安定性につながっていると考えられる。また、取引圏もこれに準じて良好な結果を示している。
5.おわりに
 経済的結びつきに着目した圏域の設定を行った結果、取引のつながりにおける都道府県の重要性、金融圏域の安定性が明らかになった。今後は産業ごとの際に着目した分析や、時系列の変化のフォロー、政策提案に対応できるような圏域設定手法に発展させることが期待される。
付記
 本研究は発表者が株式会社帝国データバンクに所属している期間(2014年6月~2016年3月)に行った研究の成果である。
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© 2016 公益社団法人 日本地理学会
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