日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P1012
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発表要旨
小氷期における東アジアの気候災害とその出現の変動について
*田上 善夫
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抄録
Ⅰ はじめに

  歴史時代の気候変動の復元のために,気候災害などの記された文書史料は,時間的な精度や空間的広がりに十分なものがある。東アジア周辺の小氷期の気候変動の復元のため,日本のほかに中国も含めた,大気の動的状態を示す強風災害関係の史料を用いる。

Ⅱ 資料と方法

  資料として『日本気象資料』(中央気象台・海洋気象台編,1939),『中国三千年気象記録総集』(張徳二主編,2004)を主として用いる。また,中国暦による日付は『兩千年中西曆轉換』(中央研究院資訊服務處,2015)を使用してグレゴリオ暦に変換した。

  安政年間の1856年から1858年に那覇で気象観測を行った,P.L.Furetのデータから,沖縄地方に台風が来襲し,さらに本州また中国にも風災をおよぼしたもののあることが明らかである。

Ⅲ 19世紀の強風災害

  中国の強風災害は,19世紀には2565件が記録されるが,山東,広東,浙江,河北省ではとくに多い。その中で「颶風」によるものは391件が記録されるが,広東を中心に,浙江,海南,上海,福建などに限られる。なお「台風」とされるものは,台湾で9件あるほかは,福建,遼寧に限られる。

  中国の颶風災害,日本の暴風雨について,月別に出現数を比較すると,中国では9,8,7月,日本では9,8,10月に多くなる。中国に比べて日本では出現が遅れるが,これは現在でも太平洋高気圧の張り出しが台風のコースに影響することから説明される。

  19世紀に中国では,風災は世紀後半に急増するが,颶風は1840年頃に減少,1860年頃に増加,その後は減少していく。日本では暴風災害は反対に1840年頃に増大し,その後減少がみられる。すなわち中日間で出現の相反するが,夏季の太平洋高気圧とのかかわりから,1840年頃には太平洋高気圧が衰退していたのに対し,1860年頃には太平洋高気圧が発達していたことが考えられる。

Ⅳ おわりに

  日本では台風のような熱帯低気圧に伴う強風は,平安時代より「野分」とよばれたが,中国では「颶風」が代表的で,とくに中南部の沿岸部を中心にしており,北部では異なる。台湾では台風は颶風とほぼ同数が記録され,呼称に区別があるようだがそれらの関係は不明である。
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