日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 315
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発表要旨
国際競争下におけるプラスチック金型企業の存立条件
*山本 俊一郎
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抄録

Ⅰ 問題の所在

2000年代に入ると,大企業による新規工場建設の国内回帰とともに,産業集積地域内の基盤的技術の重要性が再認識された。なかでも,本研究が対象とする金型産業はものづくり大国を支えるサポーティングインダストリーの旗頭として,多くの関心が集まった。しかしながら,その後も当該産業は衰退傾向にあり,生産額では2000年に約1兆6千億円であったものが,リーマンショック以降,2010年には1兆8百億円まで急減している。その間,東アジアでは当該産業の急激な成長がみられ,1990年代後半からは小,中型の金型は大半の加工工程を韓国で行い,仕上げのみ日本で行う国際工程間分業がすすんだ。また,自動車産業の成長にともない,2000年代に入ると中国沿海部に金型産地が次々と形成され,量的拡大はもちろん,技術レベルについても飛躍的な発展がみられた。
以上のような経緯を踏まえ,本報告では我が国における金型製造企業の現状を把握するとともに,産地が急激に縮小したリーマンショック以降の金型産業の存立条件について明らかにすることを目的とする。本研究で用いた資料は,2015年に実施した西日本に立地する全プラスチック金型製造企業2,761社(有効回答数219社)と,北部九州に立地する金型製造企業の実態把握調査,ならびに中国浙江省台州市黄岩区(以下,中国)における金型製造企業へのヒアリング調査に基づく。

 

Ⅱ プラスチック金型企業に対するアンケート調査による現状分析

リーマンショックによる急激な市場縮小を機に,売り上げが増加する企業と減少する企業に二極化する傾向がある。大半の企業が電気機械用部品から自動車の機構部品へと最終製品を転換している。それにともない,発注先から送られてくる図面は3次元設計図が一般的となった。型締圧力から判断して,生産される金型は中型が大半で,大型は一部の企業に限定される。製品によるが,加工精度は0.01~0.05mmに集中している。また,金型単体の生産では受注を確保するのが困難となっており,売り上げ増加企業の多くが成型部品と金型生産をセットにした受注形態へと変化していることが明らかとなった。

 

Ⅲ 中国の急激な成長と日本企業の存立条件

金型生産の海外移転がすすむ一方で,品質に厳しい日系企業は一番型を日本で調達していることがヒアリング調査で明らかとなった。また,日本の金型のトータル品質(精度、作動性能、耐久性、メンテナンス対応性)は韓国や中国製より上位にあると考えられ,家電産業においても,最先端技術を要するマザー工場では,現在でも日本の金型が使われている。しかし,中国企業が発注時に見積もる価格は日本企業の価格を大きく下回り,初期コストの差は発注側の魅力となっている。また,近年では中国でも5軸切削加工機をはじめとする最新設備の導入が進み,精度など加工技術での日本の優位性は薄れてきている。
短納期によって付加価値を形成してきた試作用金型生産企業も,モデルチェンジや設計変更回数の減少にくわえ,3Dプリンターの登場によって,既存の生産量を維持していくことが厳しい状況にある。これに対して,中国では各工程における零細業者が高密度に林立しており,安価に試作用金型を成形できる分業構造が形成されている。つまり,水平的ネットワークを活用した迅速な生産体制が構築されている。さらに中国の大手企業では,ほぼ成型部品とのセット受注が一般化しており,自社の成型工場の建設が急速に進んでいる。
以上の結果を鑑みると,日本の金型産業は自動車向け部品用大型金型や冷鍛プレス部品用金型など高付加価値製品を生産する高度技術を要する一部企業の存続はみられるものの,産業全体でみれば,現在の生産規模を維持していくことは困難であると指摘できる。価格競争から脱却し,成型部品とのセット受注を進めていく提案型の営業がますます必要不可欠となっている。

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