日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P1019
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発表要旨
多時期の高精細地形情報に基づく地形変化の追跡
平成27年9月関東・東北豪雨による鬼怒川破堤地形での事例
*泉田 温人内山 庄一郎須貝 俊彦
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抄録

複数時期に取得された数値表層モデル(DSM: Digital Surface Model)を比較することで地形変化を定量的に把握できる.平成27年9月関東・東北豪雨で形成された鬼怒川の破堤地形のDSMをSfM多視点ステレオ写真測量(SfM-MVS: Structure from Motion and Multi View Stereo)と航空レーザ測量(ALS: Airborne Laser Scanning)データから異なる時期に作成し,さらに発災前のALSによるDSMを合わせた3時期の高精細地形情報の差分を計算することにより破堤洪水による地形変化を定量的に追跡した.
上流域での豪雨を受け2015年9月10日に常総市三坂町で南流する鬼怒川の堤防が幅200 mに渡り決壊し,氾濫原の微高地上にクレバススプレーが形成された.地形変化は堤防から300-500 m離れた地点まで著しく,堤防の直近では最大深さ2 m以上の数条のおっ掘が形成され,東-東南東向きに帯状の侵食領域が分布した.その南北側にはおっ掘の先に鬼怒川河床の砂からなる数本のサンドスプレーが堆積した.サンドスプレーの縁辺部は急傾斜をなし,比高は30-40 cmだった.その他の領域は洪水による泥質または砂質堆積物に覆われたものの,地形変化量は比較的小さかった.
前者二時期のDSMは,ALSの計測点群から生成された不整三角モデル(TIN: Triangulated Irregular Network)から標高を線形内挿補間して作成した.点群密度はそれぞれ0.6-0.7 点/m2,5.4 点/m2であり,DSMの解像度はそれぞれ2.0 m,1.0 mに指定した.解像度がそれぞれ0.5 m,0.25 mの正射画像が付随する.また,小型UAVで撮影した597枚の垂直写真をAgiSoft Photoscan Pro (ver)で解析し,解像度0.38 mのDSMと正射画像を得た.
計測データの差分計算に先立ち,計測方法や用いた地上基準点の形態・数などに起因し得るDSM間の系統的な誤差を慎重に除去する必要がある.前二時期(H19/H27-1)と後二時期(H27-1/H27-2)の二組に対してそれぞれ11点と15点の比較点を設けた.設置箇所はDSMセル内の高度が均一である道路などの地表平坦面から選定し,計測時期の差による高度変化が存在する地点は避けた.SfM-MVSのDSMについては解像度が突出して大きいため,周囲10×10セルの平均値を比較点における標高値とし,DSMに歪みが生じていると考えられる縁辺部には比較点を設置しなかった.比較点の平均標高差からH19はH27-1より0.38 m高くH27-1はH27-2より0.21 m低いという系統的誤差を得た.この誤差を補正したDSMの差分ラスタをESRI ArcGIS 10.2.2 for Desktop Advancedのラスタ演算ツールで標高の内挿処理を行わず計算した.出力ラスタの解像度・配置はそれぞれ高解像度の方のDSMに一致させた.
破堤前・直後の差分ラスタから侵食・堆積量の分布を得た.破堤堤防からおよそ300 m離れた地点では,幅65 m,長さ90 mのサンドスプレーの形成により地表面高度が最大約80 cm上昇した.洪水による地形変化の他に作物や樹木の成長による地表高度の嵩上げも確認された.また,破堤後二時期の差分ラスタは洪水後3ヶ月間における自然や人為による地形改変を表している.例えば,サンドスプレー外縁が緩傾斜化したこと,撤去された家屋などが顕著な高度低下点として現れたことが読み取れた.さらに,3時期のDSMの組み合わせで地形情報の定量的な変化を追跡できた例を示す.破堤堤防南端から伸びるおっ掘の先端部は破堤から3日後には湛水しており,破堤前の地盤高と水面の比高は約100 cmだった.水が引いた12月にUAVにより計測を行うことでおっ掘の侵食量130 cmを得て,同時に湛水深が約30 cmだったことがわかった.このことは,UAV写真測量により必要な時系列データを追加取得でき,地形情報を部分的に高時間解像度化できることを示す.

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