日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P003
会議情報

要旨
奈良盆地と京都盆地における熱収支と水収支の比較
*丸本 美紀山川 修治
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

1.  はじめに
地理学は「地域性(場所性)」や「ある地域間の比較」を行い、さらに複合的に地域の構造を理解する学問(西川1985;ショレー1967など)である。地理学における気候学は、地理学の一分野を担っている以上、気候の地域特性を明らかにする目的がある一方で、この気候特性がその地域の構造にどのような影響を及ぼしているのかについても考究する必要がある。
奈良盆地と京都盆地は隣接した盆地であり、両盆地とも同じ瀬戸内気候の東端に位置する。しかし、奈良盆地では古代より旱魃が多発し(奈良地方気象台、1997)、いわゆる溜池文化圏となっている。一方、京都盆地では古代より頻繁に洪水に見舞われ(片平2010)、かつ水が豊富なことにより水に関する多くの文化も残されている。
気候特性は従来、熱(気温)と水(降水量)の複合的な観点からケッペンやマルトンヌ、ラングらによって表現されてきた。本研究では、気候の根本ともいえる熱収支と水収支に着目し、上記に挙げた気候風土の違いがみられる奈良盆地と京都盆地について両者の比較を試みた。
2.  研究方法
はじめに、両地域における可能蒸発散量(P.E.)をThornthwaite(1948)により算出し、水収支計算を行った。そのうえで、流出量(水過剰)が最も多かった年(1921年)と少なかった年(1947年)を抽出し、以上の2ヵ年と平均値について、新井(2004)、Budyko(2010)を基に、短波放射、長波放射、正味放射量,顕熱、潜熱を月別に算出し、両地域の比較を行った。解析期間は地表面温度の観測が行われていた1987~1952年とし、奈良については八木(橿原)測候所、京都は京都測候所のデータを用いた。
3.  結果と考察
水収支における平年値の比較では、P.E.については奈良と京都で大きな違いが見られなかったが、Run offは、10、12月を除いて京都が奈良を上回り、特に4~6月にかけて30㎜/月以上の差が見られた。熱収支における平年値の比較では、正味放射量は夏季において奈良がわずかに京都を上回るだけで、両地域に大きな違いは見られなかった。潜熱については、梅雨期を除き京都が奈良を上回り最大で13W/m2・月の差が見られた。一方、顕熱については年間を通して奈良が京都を約10W/m2・月上回る傾向が見られた。以上のことから京都よりも流出量が少ない奈良では、潜熱が京都を下回り、顕熱が大きくなることが分かった。

著者関連情報
© 2016 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top