日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P033
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要旨
伊吹山系・池田山麓における土石流扇状地の段丘形成年代
*高場 智博吉田 英嗣須貝 俊彦
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抄録

伊吹山系・池田山麓には27の土石流扇状地が形成されている.これらの多くは複数の段丘面からなり,地形学的観点から段丘面の形成年代が検討されてきた.東郷(1980)は,山地崖麓を通る池田山断層の断層変位を見出し,その最新活動を明らかにする目的で,地形分類と現地観察によって段丘の形成年代を推定した.その結果,本研究地域の段丘面は3つに大別され,高位から10-20ka,4-10ka,2-4kaに形成された,とした.石村(2010)は,関ヶ原周辺の段丘面の形成年代と断層変位から活断層の平均変位速度を算出する過程で,本研究地域の段丘形成年代にふれた.関ヶ原周辺地域では火山灰の純層を用いた段丘面の対比や編年が難しいことから,被覆層中のクリプトテフラを対比し,火山ガラスの含有率から「テフラ降下層準」を認定して,段丘面を編年した.その結果,池田山麓地域に分布する段丘は5つに大別され,高位から90-130ka,50-70ka,20-30ka,15-20ka,10ka以降に形成された,とした.石村(2010)によるクリプトテフラを用いた段丘面の編年は,年代試料に乏しい本研究地域の地形発達を検討するうえで有意義である.しかし,その地形分類や段丘形成年代は東郷(1980)によるものと大きく離れている.また最近は,クリプトテフラには同一層準に複数の給源火山に由来するものが混在する場合や,風化によって火山ガラスが消失する場合があるため,テフラ降下層準を認定することは困難とみるべきである,との指摘もある(長橋・片岡,2015).
そこで,本研究ではテフラ以外の年代試料として腐植物を用い,本研究地域に発達する段丘形成年代を検討した.現地調査において,3地点で段丘礫層直上の腐植土層をそのほぼ最下部から厚さ10cm分採取し,さらに1地点(池田町藤代)では段丘礫層直上を覆う層厚20cmの一連の腐植土層のうち,上端5cm分と下端5cm分を採取した.計5点の腐植土層サンプルのAMS14C年代測定は,株式会社パレオ・ラボに依頼した.その結果,段丘礫層直上の暦年補正年代(2σ)は,池田町段における扇状地の高位面で17,592-17,246 cal BC,池田町藤代における扇状地の高位面で上端5cmが10,766-10,630 cal BC,下端5cmが14,403-14,049 cal BC,池田町宮地における扇状地の中位面で6,060-5,987 cal BC,揖斐川町白樫における扇状地の低位面で5,491-5,373 cal BCであった.これらにより本研究地域の段丘面は,やや幅をもたせて,高位面が約20,000年前から約17,000年前までに,中位面が約9,000年前までに,低位面が約8,000年前までにそれぞれ形成されたと推定された.すなわち,本研究地域の扇状地群を構成する段丘面は,最終氷期極相期以降完新世前半までの間に形成されたことがわかった.これらの段丘形成年代は,東郷(1980)による推定と近く,石村(2010)による推定とは一部異なる.本研究におけるAMS14C年代測定の結果は,腐植物の形成・堆積環境の違いによって誤差を含む可能性がある.しかし,池田町藤代における年代測定結果が上下で逆転していないことから,誤差は大きくとも数千年程度と考えられ,池田山麓の段丘面が最終氷期極相期以降に形成されたとの推定は妥当であろう.

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