日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P006
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要旨
高密度観測により示される夏季首都圏の地上気温・気圧の時空間的特徴(その3)
ヒートアイランド現象と都心周辺の低圧の関係
*大和 広明森島 済赤坂 郁美三上 岳彦
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抄録

はじめに
ヒートアイランド現象と気圧の関係を明らかにするために、首都圏に気圧計を多数設置し、都市内外での気圧観測を実施した。前報(大和ほか、2015;森島ほか、2015)では、得られた気圧データの補正および気温と気圧のそれぞれに対して主成分分析を実施し、卓越する時空間パターンについて報告した。その結果、①観測された気圧は器差補正、高度補正を経て海面更正気圧(SLP)に補正された気圧は、気象庁のSLPに対して±0.2hPaの精度を持つこと、②気圧の第一主成分(P-PC1)は、北西側内陸部と南部沿岸部との気圧変動、第二主成分(P-PC2)は、都心周辺と領域周囲の気圧変動、第三主成分(P-PC3)は、鹿島灘から西方へ伸びるくさび状の気圧変動を示す成分が抽出されること、③気温の第一主成分(T-PC1)から、第三主成分(T-PC3)まで、気圧の主成分と類似の空間パターンが抽出されること、④気圧と気温のPC1同士は日周期が卓越し位相もほぼ同じである、PC2同士の日周期成分は、位相が一致しているわけではないが、都心を中心にヒートアイランド現象が顕著なときに気圧低下が顕著にみられる事例が存在する、PC3同士の日周期成分も位相が一致しているが、日周期というよりはむしろ北東気流に対応して顕著になること、⑤気圧と気温のPC1~3同士の主成分得点には有意な相関関係があること、が明らかとなった。 本報では、ヒートアイランド現象による高温および都心周辺の低圧を表していると考えられる、気圧と気温の第二主成分に着目して解析を行った結果について報告する。  
ヒートアイランド現象と都心周辺の低圧の関係
P-PC2の主成分得点が負であると、都心周辺で周囲よりも低い気圧が観測されている。極端に負の絶対値が大きい場合には、寒冷前線が接近している事例が見られたため、主成分得点の標準偏差σを基準に、都心周辺で周囲よりも低い気圧が観測されている事例を以下の条件で抽出した。条件は、①P-PC2の主成分得点が-2σ以上-σ以下、②P-PC1およびP-PC3の主成分得点がそれぞれ±σ以内の2点である。この条件で、13,248ケース中1,094ケース抽出された。抽出された気温および気圧の領域偏差のコンポジットが図1である。気圧の分布には、低圧部が神奈川県県央から都区部を経由して埼玉県南東部にかけての地域で見られる一方で、気圧が高い地域が周辺部に見られる。対応する気温の分布には、都心を中心とした明瞭なヒートアイランドが見られる。低圧部の中心は高温の中心よりやや内陸へずれてはいるが、都心周辺の高温により、都心周辺の低圧部が形成されていると考えられる。 気温の主成分得点(T-PC2)を用いて、気圧と同様の条件で抽出したコンポジットを図2に示す。この条件で、13,248ケース中980ケース抽出された。図1とほぼ同様の気圧、気温の分布を示すが、気圧の図1と比べて、高温の領域がやや北部まで広がっており、それに対応して低圧の領域も北方へ広がっている。 図1と図2のコンポジットと同じケースにおける中部日本のSLPのコンポジットを図3に示す。両者とも愛知県から長野県南部のリッジおよび関東平野にトラフが存在し、関東平野、特に都市部では気圧傾度が緩やかである。このことから、関東平野が気圧の谷になり、風が収束しやすい気象条件の時に、ヒートアイランド現象が顕著となり、それに伴い都心周辺で周囲より低い気圧が生じることが示唆される。

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