日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 303
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要旨
津波災害時の老人福祉施設における施設外避難の現状と課題
*松尾 敏孝
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抄録

本研究は,積雪寒冷地における津波災害時の老人福祉施設からの集団避難の現状と課題を明らかにする.そのために,橋本(2015)より,津波浸水想定人口をもとに,北海道内で最も津波災害時に人的被害が大きい釧路市を対象とする.次に,北海道総務部危機対策課が作成した津波浸水シミュレーション結果をもとに,老人福祉施設の浸水地域内の立地状況を明らかにする.その中で,建物の全壊率が8割を超える津波浸水深が6.0m以上の地域に立地する18施設のうち13施設に聞き取り調査とアンケート調査を行う.なお,調査は2015年10月から2016年1月にかけ行い,東日本大震災における対応や震災後の変化や,施設外への避難を遅延要因に注目して,避難時の課題を明らかにする.さらに,積雪寒冷期のみの課題についても検討を行う.浸水地域内の立地状況に関しては,全69施設中,建物の流出の可能性が高い浸水深4.0m以上の地域には,35施設が立地しており,建物の全壊率が8割を超える津波浸水が6.0m以上の地域には18施設が立地していた.東日本大震災の際には,13施設中2施設のみが施設外に避難し,残りは施設内待機をしていた.この震災以降の施設の防災に関する変更点として,津波避難マニュアルの作成や備蓄の増加があげられる.集団避難時の課題としては,徒歩移動の困難さ,待機先での体制不備が心配されている.また,標高が低く,河川に囲まれる鉄北・愛国地区では地形的制約による介助者不足や避難場所までの距離が問題となっている.防災面では,地域や行政との協力体制が整っていない事と夜間の職員数の少なさが共通の課題として挙げられた.積雪期間における課題として,待機面では,避難場所での高齢者の体調悪化が心配される.また移動面では,路面凍結により歩行や車椅子での移動が不可能になることが課題となっている.最後に,本研究の結果を最上・橋本(2015)と比較すると,非積雪期には,移動面に関して,徒歩での集団避難が困難であり,避難の際には自動車を使用しなければいけない点で保育施設とは異なる.また,積雪期には,介助者をつけても徒歩の移動が不可能になる.さらに,待機先の体制不備が,待機先での長期滞在を困難にすることに加え,安全な場所への避難を行わない可能性を高めてしまう要因になりえる.これらの違いにより,積雪期間の集団避難に関しては,特に移動面で,保育施設以上に深刻な課題を抱えていることが明らかになった.

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