日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 820
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要旨
肘折火山における天然ダム形成とその決壊
*高田 裕哉
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抄録

はじめに
出羽山地に位置する肘折火山では,カルデラ内に湖盆底が離水した地形面が残されており,カルデラ湖の形成が指摘されてきた.一方で,上流に十分な集水域を持つ銅山川がカルデラ内に南東から流入して,北東へ流出している.よって,肘折火山では単なるカルデラ湖の形成ではなく,銅山川等の河川の流入が重合した天然ダム形成の可能性がある.天然ダムやカルデラ湖の形成および決壊は,地形発達史を編む上で重要なイベントである.肘折火山周辺の地形発達史を解明するためには,この天然ダムの古地理変化を明らかにする必要があると考え,肘折火山における天然ダム形成とその決壊に関して検討した.
調査地および手法の概要
肘折火山の最新の噴火年代は約12,000 年前であり,既存の火山体が無い場所で新期に噴火し,火砕流の噴出,カルデラの形成などの噴火様式を伴い,短期間で活動の終息を迎えている.すなわち,銅山川の流域中で初生的に火山活動が行われたといえる.地形面の成因や天然ダムの湖水位を検討するために,地形判読や露頭記載を行った.
結果と考察
カルデラおよびその上流 離水した湖盆底であり,カルデラ内を広く占めている地形面をM面とした.さらに,M面の上位に1段(H面),下位に1段(L面)の地形面を認定した.H面は,背後に火山体を開析する沢を有し,標高450~410 mの地形面である.M面と比較すると,H面の分布は離散的である.L面はM面の縁辺かつ銅山川の左岸にのみ分布し,大礫や中礫を主体とした礫層で構成されている.カルデラの上流には,高度的にH面に対比でき,背後に沢を有する標高450~410 mの地形面が発達する.この面は,斜交葉理が発達する砂層や礫層で構成されている. これらの点から,H面は背後の沢から供給された土砂が湖水面付近に堆積した後,離水した地形面であり,カルデラ内およびその上流にも同高度の湖水面が形成されていた.よって,カルデラおよびその上流では,湖水位が最高で標高450 m付近まで上昇し,H面の構成層堆積後,水位が低下しH面,旧湖底面がM面として離水段丘化して,その後M面を侵食したことでL面が形成されたと考えられる.
カルデラ下流 カルデラの下流では,地すべり地形を伴う火砕流台地面が,両岸で対になって広く発達している.銅山川との比高は100 m以上であり,火山活動直後は火砕流堆積物が銅山川の谷を埋め湖水のはけ口となる河川の流路が閉塞され,天然ダムを形成する素因となっていた. さらに下流では火山噴出物が堆積段丘の構成層中に含まれており,決壊に伴って二次移動が生じて地形形成に寄与した可能性がある.
天然ダムの形成とその決壊 肘折火山では火山活動の後にカルデラとその上流に天然ダムを形成し,その天然ダムの水位は最高で標高450 mであったとすると,最大湛水量は約7.5×108 m3と見積もられる.一方で,カルデラ内に流入する銅山川の流量は,年間で約3.9×108 m3であることから,天然ダムは極めて短期間で湛水,越流,さらに決壊に至ったと考えられる.

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