日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 205
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要旨
東京都渋谷区原宿地区における商業集積のプロセス
*牛島 庸介
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抄録

1.はじめに 大都市内部の商業集積地には,同業種の店舗や事業所が集積する地区が存在している.これらは同業種型商業集積地と呼ばれ,地理学では大阪の堀江地区を事例とした川口(2008)や東京の秋葉原地区を事例とした牛垣(2012),東京の裏原宿を事例とした矢部(2012),大阪の日本橋を事例とした和田(2014)や杉山ほか(2015)などの研究が挙げられる. 本研究では,同業種型商業集積地の中で国内最大規模のアパレル産業の集積地である原宿地区を取り上げ,商業集積のプロセスを捉える.原宿地区に関する研究は大村(2004),三田(2006;2007),関口(2012),矢部(2012),伊藤(2014)などがある.これらの研究はキーパーソンへのインタビューや,主要な商店の動向に着目しているものが多く,無数に存在する数多くの店舗を対象とした研究は行われていない.牛垣(2012)では東京・秋葉原地区において空間的な側面に着目し,実証的な方法で新たな業種の集積過程を明らかにしたが,単一の店舗が建物全体を占有する店舗のみを対象としており,本研究では大小規模の店舗を対象としているため,より詳細な分析が可能である.また,原宿地区にはアパレル関連の小売店だけでなく,来街者に向けたさまざまな業種の店舗が出店している.とくに美容室や飲食店がアパレル小売店に次いで多く,これらは商業集積地原宿地区を形成する重要な要素であるといえる. そこで本研究ではアパレル小売店,美容室・理容店,飲食店の集積を空間的に把握し,業種ごとの集積の特徴を踏まえて商業集積のプロセスを明らかにすることを目的とする. 2.研究方法 職業別電話帳と原宿ドアーズウェブサイトを用い,各業種の店舗の分布図を作成し,業種ごとの集積の特徴について分析した.その際1986年,1999年,2015年の3つの年代で,対象地区を表通りと裏通りの計18地区に区分し実証的な分析を行った.さらに開業年別の店舗の分布について,また路線価からみた地価変動について分析をした. 3.結果 アパレル関連小売店は,まず竹下通りや明治通りを中心に集積し,集積の中心を変えることなく裏原宿やキャットストリートなどの東部,渋谷方面の南部に向かって,高密度化をともないながら外延的に拡大した.飲食店は大通りを中心に集積し,アパレル関連小売店と類似した傾向を示すものの,外延的な拡大はみられず集積を維持していた.美容室・理容店は他の業種と同様,表通りから集積が始まるものの,時代の変化にともない集積の中心が表通りから裏通りへと変化し,原宿地区全体に拡大した.アパレル関連小売店と飲食店が集客を期待し,人通りの多い場所へ出店する傾向があるのに対し,美容室・理容店では事前に予定し来店する場合が多く,必ずしも人通りが多く地価も高い表通りに立地する必要がないことが,異なる集積のプロセスを生み出したと考えられる.また,2000年代以降のアパレル関連小売店の外延的な拡大には,大衆誘導施設としての表参道ヒルズの開業が影響を与えていると考えられる.回遊性の強化により表参道ヒルズの裏手や東側の青山方面にはアパレル関連小売店が出店し,地価の上昇もみられた.一方で集積の中心から遠方では集積の縮小がみられ,南部の渋谷,東部の青山など隣接商業地との回遊性も原宿地区の商業集積に影響を与えたと考えられる.

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