日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S0407
会議情報

要旨
ジオパークの審査を通して見た科学者と社会の相互作用
*渡辺 真人
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

これまで世界ジオパークネットワークが推進してきた世界時パークは、昨年11月にユネスコの正式プログラムとなった。昨年までの仕組みでは、世界ジオパークネットワーク(GGN)のbureau memberと呼ばれる人たち(科学者を主なメンバーとする)が、各地からの新規申請認定と4年ごとに行われる再認定の審査を行い、その可否を最終決定する。審査は、各地から提出された申請書と所定の自己評価票、及び二人の現地審査員(科学者が中心であるがジオパークの運営に携わる実務者も含む)が行う3—4日の現地審査の報告書に基づき行われる。この仕組みは、基本的に今後も継続する。世界ジオパークと理念を共有する日本ジオパークの仕組みにおいてもこれまでほぼ同じことが行われてきた。現地調査には科学者とジオパークの実務者が携わり、最終決定は地球科学者を主なメンバーとする日本ジオパーク委員会によって行われてきた。  ジオパークという仕組み自体が、科学者と一般市民あるいは行政とのコミュニケーションを促進しようという意図を持った仕組みである。それに加えて、認定後も4年ごとに再認定審査を繰り返すという仕組みが、そうしたコミュニケーションを一層促進している。世界ジオパークネットワークや日本ジオパークネットワークの大会などにおいて、審査する側とされる側がどうすれば良いジオパークを作ることができる過密に議論を重ねるモチベーションの一つは、この4年ごとの審査をより良いものにしたい、あるいは審査をパスしたいという意志である。  審査を巡る議論の中で、科学者と行政担当者の考え方の違いが表面化することは多い。非常に単純化して図式化すれば、科学者は事実と論理で結論を得ようとし、行政担当者は法と先例を重視する。現実の社会の中では事実と論理に基づき最も良いと判断されたことが実行可能とは限らない。実行可能でないことは現実的には「最も良い」解決策ではない。一方、法と先例により導き出される施策は、ジオパークという新たな試みの中では積極的な意味を持たないことも多い。  こうした背景のもとの両者のコミュニケーションの中で、科学者はベストでないからダメ、ではなく少しだけでも良い方向へ向かう方法を行政担当者や市民と考えるようになる。一方行政担当者は、科学者とともに事実と論理に基づいてより良い方向を探す楽しみを見出す。ジオパークの審査という場が両者の変化をもたらしている。  著者は2008年5月から2015年3月まで日本ジオパーク委員会事務局として国内での審査の過程に深く関わるとともに、2011年から世界ジオパークの専門家として、世界ジオパークの現地調査にも参加した。その中で観察した、上に述べたような審査というしくみが加速する科学者と市民・行政のコミュニケーションと、そのコミュニケーションがもたらす両者の変化を、議論の材料として報告する。  

著者関連情報
© 2016 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top