日本地理学会発表要旨集
2017年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: S103
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発表要旨
四日市公害と環境未来館の役割
*生川 貴司
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抄録
わが国は、戦後復興から高度経済成長を成し遂げる過程で、様々な公害問題に直面しました。本市では、国の政策のもと、1960年代に石油化学コンビナートが本格的に稼働すると、大気汚染を原因とする呼吸器系疾患の急激な増加、四日市港地先海域でとれる魚が油くさいなどの四日市公害と言われる深刻な公害問題が発生しました。しかし、その後の市民、企業、行政が一体となった、努力の結果、現在の環境を取り戻すことができました。四日市公害と環境未来館は、こうした四日市公害の歴史と教訓を次世代へ伝えていくとともに、産業の発展と環境保全を両立したまちづくりや、環境改善の取り組みから得た、知識や経験を広く国内外に情報発信していく役割を担うべく、2015年(平成27年)3月21日に市立博物館・プラネタリウムに併設される形で開館しました。これら全体を「そらんぽ四日市」と総称しています。開館以来、公害学習で来館する小学5年生をはじめ多くの研修、視察を受け入れるとともに、一般市民の方々も多数来館しています。展示の中心には、「四日市公害裁判シアター」を設け、裁判の経過やその後の公害対策に与えた影響などについて、当時の関係者のインタビューなどを交えてわかりやすく解説した映像をご覧いただけます。また、「情報検索コーナー」を始めとして、随所に公害健康被害者の方々や、司法関係者、当時の企業・行政の担当者など50名以上の証言映像をご覧いただけ、さらに、子ども達にも理解しやすいように絵本解説や映像などを設けるとともに、海外からの来館者に対応するため、英語、中国語に対応したタブレット端末による解説なども用意しています。そして、これらに加えて、ボランティアによる解説員をお願いして、来館者の皆様への展示内容のわかりやすい解説に努めています。展示以外では、公害発生当時の四日市の様子を知る「語り部」による体験談を聞くことのできる場を提供するとともに、環境について、学び、体験するためのエリアとして、研修・実習室を設け、多くの環境・公害学習講座を開講し、次世代を担う人々への啓発を行っています。さらに、環境活動を行う市民や団体と協働するために、エコパートナー制度を創設するとともに、これらエコパートナーの活動や交流の場を提供しています。環境改善に継続的に取り組んできた四日市市だからこそ伝えられることがあります。世界に、そして次の世代に向けて、その経験を発信していくことが、公害の被害に苦しんだ、また今なお苦しまれている方々への、私たちの責任であり使命でもあります。未来へより良い環境を引き継ぐために、ともに学び、考え、活動する拠点として、役割を果たしていきたいと考えています。
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© 2017 公益社団法人 日本地理学会
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