日本地理学会発表要旨集
2017年度日本地理学会秋季学術大会
選択された号の論文の204件中1~50を表示しています
発表要旨
  • 秋山 千亜紀
    セッションID: S501
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/26
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    近年,「地域再生」,「地方創生」などに代表されるように「地域」に関する取り組みが活発になる中で,これまで以上に「地域」というものが着目されている.それと同時に,学術的な研究成果による「地域」の課題解決または解決につながるような社会貢献が期待されている.「地域」に関する調査研究は地理学の主たる研究分野といえるが,地理学では地表面に現れた事象の発生に至ったメカニズムの解明に主軸がおかれることが多く,必ずしも地理学の研究成果が地域の課題解決に直結しているとは言い難い.そこで本シンポジウムでは,地理学とその隣接分野において「地域」の課題発見から解決に向けた活動に関わってきた方々をお招きし,地域課題の発見から解決までのアプローチについて議論することを目的とする
  • 野上 道男
    セッションID: 307
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/26
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    洛陽付近で行われた1寸千里法による日影長測定値を中国正史の天文志などからリストアップして考察した.1寸千里法の原理から見て、そのままでは距離測量法としては使えない.その距離千里は緯度によって変わるからである.しかし日影長・表長から太陽仰角を計算することが可能であり、それから容易に緯度がわかる.つまり史書に既知のA点からB点が南千里とあれば、日影長が1寸短い点という意味であるから、それを通じてB点の緯度を知ることができる. 受命改制によって、その都度1尺の長さは長くなるが、尺度の名称は変わらない.同じ対象を測った場合は数値だけが小さくなる.洛陽付近で夏至南中時に測った場合、太陽仰角、すなわち、日影長/表長は一定である.時代を通じて行われた日影長の測定値から尺度の歴史的変遷を文献によって知ることができる.古代中国では日影長を測ることで、それを緯度に代わる指標として南北位置を認識していた.
  • 辻 貴志
    セッションID: P064
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/26
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    1. はじめに
      本発表は、フィリピン・ラグナ州で行われている、スイギュウの伝統的チーズ加工と流通について報告する。ラグナ州ではスペインの統治が始まって以来、伝統的なスイギュウのチーズ加工が行われてきた。加工されるチーズはフレッシュチーズ(kesong puti)であり、酢やレンネットが発酵酵素として用いられ、塩味が効いている(塩には殺菌作用や脱水作用もある)。加工者はチーズを作ると、家のそばの売店で売るか、行商に出て売る。  本発表では特に、どこでスイギュウのチーズが販売され、行商人がどこにチーズを行商するのかという地理学的情報を提示し、チーズ加工の実態と併せて報告する。  

    2. 調査地と調査の概要
      調査は、ルソン島のラグナ湖周辺のラグナ州の州都サンタクルスのバゴンバヤン集落で行った。ラグナ州は、国際イネ研究所(IRRI)やフィリピン大学ロスバニョス校で有名な土地柄である。主な生業はラグナ湖の内水面養殖やパイナップルの栽培である。調査は、スイギュウの乳をチーズに加工し、行商を行う男性のチーズ加工技術と行商の様子について参与観察および定量的調査を実施した。2016年と2017年に行ったフィールドワークの結果をもとに報告を行う。
       
    3. 結果
      スイギュウの乳のチーズは、乳は別の地域から運ばれ、それを加工していることが明らかとなった。チーズ加工とスイギュウの搾乳は分離している。チーズ加工は各家庭の秘儀とされる。チーズは加熱式方法で、ヤシの酢を擬乳酵素として作成する。チーズは道路沿いの売店で売る人もいるが、行商に出る人もいる。道路沿いでチーズを売る人は観光客などを相手にしていると思われる。行商に出る人は売店を構える余裕がないと考えられる。チーズは地元の市場に並ばないが、一般の人びとの購買力が弱いためとされる。チーズの行商人はより強い購買力のある地域にチーズを運ぶ戦略をとっている。行商の範囲は、ラグナ州および隣接する州、そしてマニラにも行商に出ることがある。

    4. おわりに-まとめと考察
      ラグナ州では、伝統的なスイギュウのフレッシュチーズが加工され、行商されていることが明らかとなった。チーズは、行商人によって広く販売されている。  伝統的チーズは今日、国内4地点のみで加工されているが、ラグナ州でこの文化が残ってきたのは、スイギュウの乳生産者と加工者、そして行商人のネットワークが密に構築されてきたからであると考えられる。他の伝統的チーズ加工地帯でも。同じことが言えるか、今後の調査で比較検証していく計画である。
  • 杜 国慶
    セッションID: S604
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/26
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    米国における外国人旅行者の行動パターンを研究したHwang, Gretzel and Fesenmaier(2006)は、出発地の違いが行動空間の差異に影響を及ぼしていること指摘する。したがって、出発国・地域によって日本での行動と訪問地が異なると予想できる。しかし、観光者とくにインバウンド観光者においては、どの国も統計データが少ないことが研究の支障となり、早くから指摘されてきた問題でもあるが、解決策が少なかった(Pearce、1995)。 近年、スマートフォンの普及とアプリケーション(APP)の発達に伴い、より数多くの利用者の行動を迅速かつ正確に把握することが可能となる。本研究は、株式会社ナビタイムジャパンの日本観光APPにより利用者の同意のもと取得したGPSデータを利用し、国籍・地域による差異と都道府県間流動、市町村間移動ネットワークに着目して外国人訪問者の空間構造を解明する。 本研究に使用するデータは2015年4月1日から30日までの間に測定されたものである。調査協力者数は5,868人で、有効回答者数は5,826人となる。調査協力者全体の5%に満たない国は国籍が公表されず,大陸や地理的まとまりで集計されている。
  • 榊原 保志, 森 康洋
    セッションID: 712
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/26
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    •長野県飯田市においてヒートアイランドを調べた。自動車による移動観測により市街地内外の地上気温分布、そして火の見櫓8ヶ所と建物1ヶ所の2高度に設置した自動気温観測装置による上空気温分布や温位勾配分布が調べられた。その結果、果樹園や水田など逆転層が発達している地域では気温が低くなっており、上空ほど気温分布が単純になっている。また、夜間都市と郊外における逆転層の発達の程度の違いにより都市内外の気温差を生じさせ、ヒートアイランド形成の一因となっている。
  • 黒木 貴一
    セッションID: 622
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/26
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    学校現場での自然災害理解と防災・減災の取り組みの効果を高めるには,教員志望の学生に対する防災教育が必要である。そこで小専社会に初歩的なフィールドワークを組み込む防災教育を実践した。今日多様なハザードマップが整備されており,発災時には教員・児童生徒がマップを読みながら安全な場所に移動する場面が想定される。本実践では,自然災害を想定した読図を伴う避難行動から,地図情報から得た景観イメージと現実空間との相違を確認させ,また防災に関わる地理内容を深め,さらに教員志望者として防災意識を向上させ避難訓練の「訓練」の必要性を認識させることを目的とした。
  • 1980年代以降の大阪を事例に
    福本 拓
    セッションID: 403
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/26
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    Ⅰ導入
    エスニック集団にみられる自営業者層への集中は,しばしば明瞭な経済サブシステムとして機能するエスニック経済の最重要の特徴の一つと捉えられている。エスニックな自営業者は往々にして空間的集中を伴うゆえに,空間的な観点からの分析も数多く蓄積されてきた。自営業者の空間的偏在は,取引関係を通じたリンケージ形成に代表される経済地理的要因や,資金・労働力の由来となるエスニック・ネットワークの介在といった社会的要因によって生成すると捉えられる。加えて,既存研究では,資金・労働力や顧客の供給源として,集住地区の存在がエスニック経済に不可欠な役割を果たす点も指摘されてきた。 しかし,エスニック経済と集住地区との結び付きについて,それが変化する背景要因の検討は必ずしも進んでいない。例えば集住地区からの転出を促しうるエスニック集団の社会経済的地位の上昇や,経済リストラクチャリングに伴うエスニック経済の縮減が居住分布に与える影響など,こうした結び付きに変化をもたらしうる集団内外の要因が存在しうる。本研究では,職住近接を特徴とする在日朝鮮人のエスニック経済と集住地区との関係を事例に,両者の動態的な連関性の分析を試みたい。
    Ⅱ用いる資料
    本研究では,大阪市とその隣接市を対象地域とし,時期の異なる二つの資料から,在日朝鮮人自営業者の分布を比較して集住地区との関係を分析する。具体的には,『在日韓国人名録』(1981)と『在日韓国人会社名鑑』(1997)をもとに,分布の地図化や業種等の属性に基づく差異を検討する。前者については1,865件,後者は1,029件が分析対象となる。
    Ⅲ在日朝鮮人自営業者の分布(1980年)
    自営業者の業種別構成としては,製造業が過半数を占め,卸売・小売業(特に金属スクラップ),建設業の順で多い。経営者の本籍ごとに集計したところ,プラスチック製造や履物製造で済州島が,建設業で慶尚北・南道が,金属スクラップでは忠清南道・全羅南道の特化係数が高いという特徴がみられた。ここからは,一部業種において,地縁に基づいたリクルートが存在した可能性がうかがえる。 分布を集住地区との関係からみると,製造業,特にプラスチック製造(212中133, 62.7%)や履物製造(85中69, 81.2%)は集住地区内にその多くが立地するのに対し,建設業(174中12, 6.9%)や金属スクラップ(119中24, 20.2%)は分散立地の傾向にある(図参照)。集住地区で特徴的な職住近接傾向の背景として,同胞労働力への依存度合の高さのほか,フレキシブルな生産を可能にする事業所間リンケージの必要性が影響していると考えられる。
    Ⅳ在日朝鮮人自営業者の分布(1997年)
    この時点では製造業が最多であるものの,その割合は約3分の1にまで低下した。1980-97年に創業した事業所の業種をみると,プラスチック製造を除き製造業は少なく,代わりに建設業・不動産業・生活サービス業(パチンコホール含む)が多くを占める。こうした業種別の動向は,国勢調査の結果からも確認でき,外国人事業主の減少率は,製造業で36.1%,卸売・小売業で14.6%にのぼった。業種ごとの分布傾向に大きな違いはないものの,製造業の割合の低下により,特に集住地区への集中傾向が弱まったといえる。
    Ⅴ考察
    集住地区における職住近接の不明瞭化の要因として,以下の二点が想定される。第一に,対象時期の製造業の減少は,在日朝鮮人事業者に限らず,対象地域において広範にみられた。ここには,労働集約的性格の強い業種の低迷が反映されている。職住近接を特徴とする在日朝鮮人の製造業事業所は,概して零細規模で,家族労働者の多さというコスト面の優位性を有していた。しかし製造業の退潮は,特に規模の小さい事業所の存立を難しくしたと考えられる。第二に,人的資本と職業階層のズレの縮小という集団内部の影響が推測される。かつては自営業者層に占める高学歴者の割合が大きかったが,次第に職業階層の上昇が顕著となった結果,低コストという優位性を維持できる労働力プールが縮小した。これらのエスニック集団内外の要因は,集住地区における自営業者を中心とした職住近接傾向を弱めるように作用したと考えられる。以上の考察は,集住地区内外での在日朝鮮人の社会経済的地位の相違や,集住地区での人口の社会減からも,部分的に裏付けられる。
  • 山田 周二
    セッションID: P028
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/26
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    かつて,扇状地では,多くの礫が石垣等に利用され,特徴的な景観が見られたことが知られている.現在でも,地形によって石利用の特徴が異なるか,大阪平野の周縁部に位置する扇状地とその周辺の低地,丘陵地において石垣の分布を調査することによって,検証した. 大阪平野の周縁部に位置する,北摂山地南麓,枚方丘陵西麓,生駒山地西麓を対象として,石垣の高さと石垣を構成する石の種類を調査した.対象地域の地形は,扇状地(1.3 km2),丘陵地(1.2 km2),低地(2.5 km2)で,大部分は住宅地として利用されている.対象とした石垣のほとんどは,住居の地盤や塀の土台としてつくられたものである.石垣の高さは, レーザー距離計で計測した.石の種類は,円礫,角礫,間知石,割石の4種類に区分した.円礫と角礫は自然石で,間知石と割石はどちらも整形されたものである.表面が一辺30 cm程度の長方形に整形されたものを間知石として,それ以外のものを割石とした. 調査対象地域には,1821と多数の石垣がみられた.扇状地には,659あったが,低地にも482あり,丘陵地にも680あった.したがって,石垣の有無だけでは扇状地を特徴づけることはできない.このため,石垣の高さと石の種類について,地形との関係を検討した. 石垣の高さは,地形と関係があり,低地,扇状地,丘陵地の順に高くなる傾向がある.調査対象地域全域で見ると,低地では,高さが2 m以上の石垣は,低地全体の0.4%とほとんどみられない.これに対して,扇状地では,それは5.2%あり,丘陵地では15.7%を占める.また,高さが3 m以上の石垣は,低地および扇状地では,それぞれ,0.2%,0.5%と,ほとんどみられないのに対して,丘陵地では,5.4%ある. 以上のような石垣の高さと地形との関係は,傾斜の違いに起因していると考えられる.低地はほとんど平坦であるのに対して,扇状地および丘陵地では数度程度の傾斜があり,丘陵地の方がより急な傾斜地を含んでいる.傾斜が急であるほど,平坦地をつくるための石垣は高くなるため,高い石垣は丘陵地に多く,低地にはほとんどないのであろう. 石垣を構成する石の種類は,地形によっても異なるが,地域差も大きい.地形による違いを見ると,扇状地と丘陵地とでは,ある程度異なる.扇状地では,角礫の石垣は,全体の85%を占めるのに対して,丘陵地では,38%に過ぎない.一方,間知石は,扇状地では4%に過ぎないのに対して,丘陵地では,24%を占める.これは,間知石が,高い石垣に,よく用いられていることを反映したものと考えられる. 石の種類の地域差を見ると,北摂山地南麓では,円礫が,低地でも扇状地でも丘陵地でも14%以上を占めるのに対して,他の地域では,いずれの地形においても,1%以下と,ほとんどみられなかった.また,間知石は,枚方丘陵西麓では,丘陵地でも低地でも,26%以上を占めるのに対して,他地域では,いずれの地形でも3~9%である.以上から,石の種類の分布には,このような地域差をもたらす,地形以外の要因もあると思われる.
  • 宇都宮 陽二朗
    セッションID: 305
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/26
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    1.米大統領のホ゜ートレートに見る地球儀
    初代から45代までの大統領のホ゜ートレートを通覧し、執務室に同一地球儀のないことや、それを傍にホ゜ース゛の政治家の存在を知った。Pobanz氏は地球儀を従えたHitlerの写真は皆無と答えている (Kimmelman, 2007)。ホ゜ートレートや報道写真の構図を、モテ゛ル数、相対位置、注目度、意義理解度等に着目し整理した。地球儀を伴う肖像が皆無や複数、単なるインテリアなど様々であるが、その中でTheodore Rooseveltは特異である。
    2. Teddyと地球儀
    1)
    立ち姿のTeddy
    LOC他のweb画像に大地球儀を従える立ち姿や椅子に腰掛けホ゜ース゛を決めたTeddyがいる。立ち姿では、地球儀を右脇にしたTeddy㋐と、左脇にしたTeddy㋑が正面を見据えている。その地平環と地平環支持枠接続部には四分円の補強飾りがある。Teddyの身長178cmから比例計算すると、地球儀の球径は80cm、高さは130~150cmとなる。画像㋐をトリミンク゛し、サイン入りでKansas City Starの一文の抜粋を加えた画像もある。 西海岸に達したこの国は19世紀後半、ハワイ、ハ゜ナマやフィリヒ゜ンを手中へと画策し、帝国主義国へ仲間入りを試みており、棍棒外交の彼のWWI参戦の論調はその延長上にある。大地球儀を従え、正面を見据えるホ゜ース゛は、他のいずれの大統領にもなく、彼が大地球儀の意義を十分に知り、引立役としたことを示す。
     2) 椅子に腰掛けたTeddy
    腰掛けた彼の写真はLOCの横向きと書物を左手に正面を向くホ゜ース゛、さらにFine art の2枚及びphactual.comの1枚がある。撮影日は立ち姿と異なり、3本の曲がり脚と中央支柱に縦の筋が認められる。Fine art画像のTeddyは椅子に腰掛け、事務机に左肘を、肘受けに右腕を預け、カメラ/正面を見据える。後方の地球儀に子午環と地軸、地図模様が見え、四分円の補強飾から立ち姿のそれと同地球儀と推定される。他のphactual.comの写真ではTeddyは縫いぐるみの熊を抱いている。
    .  NY Police Commissioner時代
    spiritualpilgrim.netの写真はNY市警視総監時代(1895–1897)のOfficeで、Teddyの左手は机の引出しを掴む。事務机後方で半円が椅子の肘掛けに隠れるが、来客用椅子の背もたれ頂部飾り横材ではなく、Harvard大の回答で地球儀と確認できた。 机高、80cmとの比率から椅子の背横木の高さは121cm、背もたれの横木は114cmと算出さきる。地球儀の高さはこの横木に匹敵し、子午環の直径は52cm, 球体のそれは46cmと算出される。ただし、半円を暖炉のアーチ状焚口の枠とすれば、球体の直径は46cm以下となる。立ち姿の別写真では地球儀の高さは右肘付近にあり、身体比から、115cmとなる。これから、彼は、一地方都市のNY市警視総監職でも、相当の地球儀マニアで、執務室の肖像写真の原風景であろう。 大島大使、井上公使との総統執務室での会談やBerghofでのHelga Goebbelsや、数人と討議するHitler後方に大地球儀が写るが、筆者の捜索でも、Hitlerには地球儀を横にしたホ゜ース゛の写真はなく、地球儀を権威づけに用いなかったことが知られる。これに対し、四半世紀以上前にその意義を知り、活用したTeddyは地球儀に関する限り、メカ゛ロマニア)と見なせる。
    4.
    木工屋の修理した地球儀
     donsbarn.comのwebpageに副大統領公式オフィスのTheodore Rooseveltの地球儀の修復記事があった。画家のJ. L. G. Ferrisが1904年に、Teddyが、床置き地球儀球面のカリフ゛海からヘ゛ネス゛エラ付近を拡げた5本指で押さえながら、フ゜ロイセン国王に抗議する様を描いている。 彼の描く地球儀の架台部分は木工屋の修復地球儀に酷似し、脚の形はほぼ一致するが、これを従えたTeddyの写真はない。絵画中の地球儀の高さと直径は彼の身長から各々、109~115cm、75~79cmと算出される。
    5.まとめ

    米国歴代大頭領のホ゜ートレートを見ると、執務室の主人毎に地球儀が異なり、皆無や複数の存在も明らかとなった。その中で、Teddy Rooseveltの地球儀の意義を知悉したホ゜ース゛は他の誰にも見られない。チャッフ゜リンのThe Great Dictatorで洗脳された我らの常識にも拘わらず、彼はHitlerのお株を奪った、元祖メカ゛ロマニアと言えよう。(注:メカ゛ロマニアは意味を限定して使用)
  • 生川 貴司
    セッションID: S103
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/26
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    わが国は、戦後復興から高度経済成長を成し遂げる過程で、様々な公害問題に直面しました。本市では、国の政策のもと、1960年代に石油化学コンビナートが本格的に稼働すると、大気汚染を原因とする呼吸器系疾患の急激な増加、四日市港地先海域でとれる魚が油くさいなどの四日市公害と言われる深刻な公害問題が発生しました。しかし、その後の市民、企業、行政が一体となった、努力の結果、現在の環境を取り戻すことができました。四日市公害と環境未来館は、こうした四日市公害の歴史と教訓を次世代へ伝えていくとともに、産業の発展と環境保全を両立したまちづくりや、環境改善の取り組みから得た、知識や経験を広く国内外に情報発信していく役割を担うべく、2015年(平成27年)3月21日に市立博物館・プラネタリウムに併設される形で開館しました。これら全体を「そらんぽ四日市」と総称しています。開館以来、公害学習で来館する小学5年生をはじめ多くの研修、視察を受け入れるとともに、一般市民の方々も多数来館しています。展示の中心には、「四日市公害裁判シアター」を設け、裁判の経過やその後の公害対策に与えた影響などについて、当時の関係者のインタビューなどを交えてわかりやすく解説した映像をご覧いただけます。また、「情報検索コーナー」を始めとして、随所に公害健康被害者の方々や、司法関係者、当時の企業・行政の担当者など50名以上の証言映像をご覧いただけ、さらに、子ども達にも理解しやすいように絵本解説や映像などを設けるとともに、海外からの来館者に対応するため、英語、中国語に対応したタブレット端末による解説なども用意しています。そして、これらに加えて、ボランティアによる解説員をお願いして、来館者の皆様への展示内容のわかりやすい解説に努めています。展示以外では、公害発生当時の四日市の様子を知る「語り部」による体験談を聞くことのできる場を提供するとともに、環境について、学び、体験するためのエリアとして、研修・実習室を設け、多くの環境・公害学習講座を開講し、次世代を担う人々への啓発を行っています。さらに、環境活動を行う市民や団体と協働するために、エコパートナー制度を創設するとともに、これらエコパートナーの活動や交流の場を提供しています。環境改善に継続的に取り組んできた四日市市だからこそ伝えられることがあります。世界に、そして次の世代に向けて、その経験を発信していくことが、公害の被害に苦しんだ、また今なお苦しまれている方々への、私たちの責任であり使命でもあります。未来へより良い環境を引き継ぐために、ともに学び、考え、活動する拠点として、役割を果たしていきたいと考えています。
  • 細井 將右
    セッションID: 306
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/26
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    南米北部では、19世紀初め頃フンボルトがクロノメーターと天文観測で経緯度を定め学術目的で独立に地図を作成したが、アグスチン・コダッシは1826-1859年に南米北部に滞在し、独立後間もない地元政府の委託を受けてフンボルトの成果を活用し補測して全国的な地誌資料と小縮尺地図作成を行った。
    彼は1793年7月イタリア北部ルゴで生まれた。1810年7月イタリア王国軍に志願、パヴィアの砲兵理論実習学校で学んだ。この学校は1803年設立、砲兵術工兵術及びその基礎科目、数学、測量学、設計製図を教育訓練した。
    1826年南米北部グラン・コロンビアにわたり、マラカイボの州の砲兵隊長として海岸防衛のため地図を作成提出した。
    1830年グラン・コロンビアはベネズエラ、ヌエバグラナダ、エクアドルに分裂。ベネズエラ政府は全国地図作成を決定、その作業をコダッシに委託。1839年コダッシによる『ベネズエラ共和国自然政治アトラス』完成、説明文に人口94.5万と記載。翌年パリで印刷。パリ地理学協会、フランス科学アカデミーで好評。
    1849年ヌエバグラナダ大統領からの招きありボゴタに亡命。政府は全国の州ごとの地誌地図作成をコダッシに委託。1850年政府はこの作業の支援のため地誌委員会設置。地誌委員会はコダッシ委員長の下に1850年から1859年まで10回の測量調査遠征を実施。コダッシの地誌図が残されているが、10回目の遠征中、1859年2月未完のまま病没した。地誌委員会はコダッシの作業を継承編集し『コロンビア合衆国アトラス1865』にまとめた。
    人口、居住高度ほか自然人文条件が大いに異なるが、彼の活動は政府機関による全国的な地形図作成に先立つ個人指導によるものとして伊能忠敬と役割が似ているところがある。
  • 谷本 涼
    セッションID: 308
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/26
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    深刻な財政悪化の中で高齢化と人口減少局面を迎えた日本では,それらの諸課題に対処するために,人口推計などの手段を用いて,将来の地域の見通しや目指すべき姿を描くことが重要である。特に,人々の生活の質を構成する重要な一要素であるアクセシビリティの将来推計を通して,将来の地域の様相を総合的に,かつより正確に検討する必要がある。これは過疎地域だけの問題ではなく,近年では大都市においても,特に医療・介護サービスへのアクセシビリティの改善に向けた活発な政策的議論が展開されている。しかし,アクセシビリティに関する多くの既往研究は,人口構造の変化や諸政策の実施などによる,アクセシビリティの将来的な変容の具体的分析には至っていない。 そこで本報告では,GISと二段階需給圏浮動分析法(two-step floating catchment area method)によるアクセシビリティ分析と,都市政策の事例の検討を通じて,大阪都市圏北部における病床へのアクセシビリティの変容やその問題点を考察する。具体的には,2010年・2025年人口と,病床供給や交通体系に関するシナリオを想定し,病床や,その不足を補完するものとしての介護施設への,需給バランスを考慮したアクセシビリティを推計する。次に,アクセシビリティの向上を意図した都市政策の事例(大阪府箕面市の立地適正化計画)を紹介し,本政策の妥当性と課題を,アクセシビリティの推計結果を用いて考察する。その知見は,以下のように要約される。
    (1) 現状の病床へのアクセシビリティには,供給総量の不足と,移動手段間・地域間での格差という二つの問題が存在する。
    (2) 公共交通の改善と病床機能別の病床数調整を想定した2025年のアクセシビリティの将来推計から,「不足と格差」の現実的な解決には,地域の既存の資源を効率的に活用するための,多面的なアプローチが必要になると考えられる。加えて,国と都道府県の医療政策による入院患者の削減には,受け皿としての介護施設の容量が大きな問題になる可能性がある。
    (3) 医療・介護へのアクセシビリティの確保には,各自治体の都市計画と専門的・広域的な医療・保健政策の連携の実現と,各自治体による自らの都市計画の妥当性の柔軟かつ批判的な検討が必要であると考えられる。
  • 瀧本 家康, 重田 祥範
    セッションID: 711
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/26
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    2014年秋季における晴天静穏日(15日)の中から典型的な晴天静穏日(10月18日)を対象として神戸市域における局地風系と気温日変化について解析を行った.  これまでの研究においては,神戸市域においては熱的局地循環が発達し,時間とともに大阪湾と大阪平野の大きなスケールの海陸風の影響を受けた風向の変化が見られることが明らかとなっていた.また,六甲山地からの冷涼な山風が夜間における市街地の気温に影響を与えていることも指摘されていた.しかし,これらの研究は平均値を用いた議論であったり,市街地域の一部に限った解析,もしくはシミュレーションに基づく解析であった.特に神戸市域内における多地点の気温観測はほとんど実施されておらず,気温日変化に関する十分な知見は得られていない.  そこで,本研究では神戸市域33ヶ所に独自に気温観測器を設置し,典型的な晴天静穏日における気温日変化の特性を明らかにし,局地風系との関係を調査した.  その結果,以下6点が明らかとなった.  ①     各地点の気温日変化の特徴から,神戸市域を5つの地域(山麓,西部,中央部,東部,人工島)に区分することができる  ②     5つの地域ごとに平均した気温の日変化の比較から,山麓では16時以降における気温の急激な低下が顕著に見られた.この気温低下は北寄りの風向への変化と対応していることから六甲山地からの冷涼な山風によって生じている可能性がある  ③     冷気流による気温低下効果の影響範囲は概ね山麓から1km前後であるが,影響範囲が小さい領域もあることが示唆された.  ④     西部,中央部,東部の比較から,西部においては09時頃から気温上昇率が低下し,日中には西部の気温が低く,中央部,東部の順に気温が高くなっており,夜間においては中央部が高温傾向を示していた.  ⑤     人工島上においては,気温日変化の振幅が小さい傾向があり,16時以降の一定の気温低下と21~22時における気温の再上昇が特徴的であった.気温の再上昇は,東寄りへの風向変化と対応していることから,大阪平野を吹走した相対的に高温な大きなスケールの陸風の影響を受けている可能性がある  ⑥     市街地中心部の3地点の気温日変化の比較から,最中心部における気温は夜間において高温傾向を示すが,日中は反対に低温傾向を示した   本研究では,晴天静穏日における局地風系と気温日変化の関係を典型的な抽出日について解析した.その結果,気温日変化における特徴的な変化が局地風系の風向変化と関係していることが示唆された
  • 岡田 登
    セッションID: 903
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/26
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    1.はじめに
    2010年に「地域資源を活用した農林漁業者等による新事業の創出等及び地域の農林水産物の利用促進に関する法律」(六次産業化・地産地消法)が制定され、政府は地域農業の発展と食料自給率の向上のために、地域の農林水産物を活用して六次産業化を図り、それをまずは地域内で消費し、場合によっては地域外に供給することを進めており、地産地消を六次産業化と結び付けて振興している。今後、農産物のローカル性による差別化を実現させるためには、地域で一体となって農産物の活用を推進することが必要であり、その一つとして近年ではバルイベントによる地産地消の取組があげられる。本研究では「かごしまバル街」を事例として、中心市街地の活性化策としての地産地消の取組が参加店舗とチケット売上の増加に与える影響を明らかにした。
    2.かごしまバル街の実施状況
    2011年に鹿児島バル街実行委員会により第1回目の「かごしまバル街」が開催された。「かごしまバル街」の目的は「バルイベントの円滑な運営を通じて、鹿児島県民や県外観光客が中心市街地で食べ歩き・飲み歩きしながら鹿児島のまちを楽しみ、その魅力を再発見。鹿児島県内の中心市街地の活性化と観光客誘致に寄与すること」であり、鹿児島の食材を使用した料理を提供し、地域的特徴を発揮したイベントにすることをコンセプトにして、他地域のバルイベントとの差別化を図っている。2011年の第1回目には参加店舗数は33であり、チケット販売数は1,565枚であったが、その後は増加しつづけ2016年の第6回目に参加店舗数は76店舗とチケット販売数は3,802枚に増加している。
    3.実施範囲の設定と参加店舗の集積
    2016年のアンケート調査よれば、「かごしまバル街」では、まち歩きというイベントの性質と料理の質が参加店舗数とチケット販売数に影響を及ぼしている。まず、まち歩きというイベントの性質からみると、天文館の中心商店街との距離的関係が参加店舗数とその継続率に影響を及ぼしていた。「かごしまバル街」では中心商店街の天文館に位置する、いづろ・東千石町と山之口・千日町おいて参加店舗が集積する傾向にあり、エリア内部でも参加店舗は集積する傾向があった。一方、名山掘・本港新町と鹿児島中央駅の二つのエリアでは、参加店舗数はほとんど増加しておらず、エリア内部でも店舗の集積はみられない。とくに天文館から離れている鹿児島中央駅エリアでは参加店舗の継続率も低い。すなわち、バルイベントでは実施範囲の設定が重要であり、中心商店街から離れると参加店舗数も増加せず、継続率も上昇せず、エリア内部でも店舗は集積していない。
    4.地産地消の取組によるバルイベントへの効果
    料理の質から「かごしまバル街」をみると、エリアによって全参加店舗に占める地産地消の表記店舗数の割合に差異が生じているが、店舗が地産地消に取組むことで参加店舗数が増加しているわけではなく、地産地消に取組む店舗は立地条件に関わらず地産地消に取組みながら継続参加していた。これらの店舗は「かごしまバル街」に広告と宣伝のために参加しているが、ほとんどの店舗は中心市街地の活性化を目的としたこのイベントに賛同しており、コンセプトである地産地消にも取組んでいる。しかし、意識的に地産地消に協力している店舗も存在しているが、多くの店舗は通常の営業から鹿児島食材を使用しているため、このイベントのコンセプトを意識して地産地消に取組んではいない。
    5.おわりに
    「かごしまバル街」では地産地消の取組が参加店舗とチケット売上の増加に直接的に影響を与えているわけではない。これは県外客が少ないからであると考えられる。今後、「かごしまバル街」で各店舗が地域一体となって鹿児島食材を使用するようになるには、県外客を誘致して鹿児島食材を使用した料理の需要を増加させることが必要である。
  • 中川 清隆, 渡来 靖
    セッションID: 705
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/26
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      気象庁HPにアーカイブされているほぼ東経140度線に沿う稚内・館野・南鳥島の1988年元旦以降の高層気象観測資料を解析して,対流圏気温減率および圏界面高度・温度の年変化および経年変化を調査した.
    その結果,低緯度ほど圏界面高度が高く,いずれの地点でも圏界面高度が増加しているが,館野における増加率は1.8m/100yearに達し,冬季に最高,夏季に最低となる明瞭な年変化を伴っていることが明らかになった.
     圏界面気温,対流圏平均気温および対流圏気温減率は逆位相の編変化を示すことが明らかとなった.圏界面気温は高緯度ほど低く,いずれの地点でも圏界面気温が低下しているが,圏界面気温の低下速度は低緯度ほど大きい.対流圏平均気温は,稚内で若干昇温しているが、他の2地点では降温している.対流圏気温減率は,館野において最小で,南鳥島にいて最大であり,いずれの地点においても増加傾向にあるが,館野における増加速度が最も大きい.
  • 谷岡 能史
    セッションID: 707
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/26
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    1 はじめに
    「御用部屋日記」(以下「日記」とする.)は,兵庫県豊岡市にあった出石藩の公式記録である.日記のうち1815年(文化12)~1869年(明治2)の664冊は現存し,豊岡市立図書館のホームページで閲覧できる.今回の発表はここから天候記録を抽出した結果である.

    2 集計方法
    今回の発表では,日記において各日の記載の冒頭にある天候に関する記載を集計した.
    「雨」「小雨」「大雪」などが記され,降水があったと考えられる日の数を降水日数,そうでない日(天候に関する記載がない日を除く.)の数を無降水日数として集計した.
    また,降水日数のうち,「雪」「小雪」などの記載がある日の数を雪日数,「雨」を雨日数,雨と雪の両方が記載されている日をみぞれ日数とした.「霰」(あられ)と判読できた日もあり,便宜上「みぞれ」として集計したが,「霧」と見分けがつきにくかった.

    3 集計結果
    1815~1869年について集計したところ,降水日数は2774,無降水日数は5543,判読不能の日数が39であった.図1はこれを月ごとに示したもので,12~2月に降水日数が多く,5月と8月は少なかった.
    時系列でみると,天候記録は1810年代後半と1850年代に多く,1820年代後半と1860年代は少なかった.
    冬(前年12月~2月)について,図2に示した中で降雪率が最も高かったのは1845/46年で,1月26日(和暦では弘化2年12月29日)には積雪が5尺に達したという.また,積雪7尺の記載がある1849/50年冬も降雪率が高かった.
    7月の降水率について,図3に示した中では1823年・1853年・1861年が0.10を下回った.このうち,1823年は「因府年表」(鳥取)等にも干ばつが記載されていた.逆に,1840年は日記において降水率が0.44と高かったが,「因府年表」には干ばつの記載もあった。しかし,日記で降水率が高いのは7月前半であり,「因府年表」においても7月13日(和暦6月15日)までは雨が多かったと記され,両者はこの点で整合的であった.
    また,1850年10月8日(嘉永3年9月3日)には北東風を伴った水害の様子が書かれ,他地域との比較による台風進路の推定にも役立つと期待される.
  • 欧米系ツーリストの文化観光への意識に注目して
    市川 康夫
    セッションID: S605
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/26
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    1.インバウンド観光における歩くツーリズム  インバウンド・ツーリストの増加と訪日観光の多様化を背景に、日本の非都市部の自然や文化を目的とするインバウンド旅行者が増加している。なかでも観光者が増加している熊野古道や富士山、そして本研究が取り上げる中山道では、「歩く」という行為を通じて景観美や自然、あるいは精神的な体験を得ることがインバウンド・ツーリストに注目されている。これら「歩くツーリズム」における大きな特徴は、ヨーロッパや北米・オーストラリアなど欧米系ツーリストがその多くを占めている点である。ハイキングやランドネなど農山村地域を歩くことが文化的に受容されてきた欧米諸国のツーリストは、訪日観光でも日本独自の自然や文化に触れられる歩くツーリズムを求めるようになってきている。  本研究は、日本のインバウンド観光における歩くツーリズムの先駆的事例ともいえる中山道の文化観光を事例に、欧米系ツーリストの意識に注目しその背景にある観光需要や彼らの動機を明らかにすることを目的とする。 2.中山道を歩くインバウンド・ツーリストの台頭  本研究の対象は、中山道の長野県と岐阜県にまたがる木曽路の峠にあたる馬籠宿〜妻籠宿間にある山間部の街道である。元々、この地域は1980年代前後から欧米ツーリストには知られた存在であったが、ガイドブック「ロンリープラネット日本版」に中山道が上位にランキングされたことを契機に、現在では世界中から訪日者を集めるインバウンド観光地となっている。  インバウンド・ツーリストは名古屋や松本方面から中津川駅へとアクセスし、そこから徒歩をメインに落合宿を経て約8km離れた妻籠宿へと向かう。彼らは宿場町で1〜2泊し、妻籠宿と馬籠宿の間にある約7.3kmの山間街道を歩き馬籠宿へと向かう。この道中では江戸期の石畳の佇まいや峠の集落の街並みのほか、番所跡の茶屋、滝や森林の風情などが見所となっている。  馬籠〜妻籠宿を歩くツーリストは2015年で年間約4万人であり、その約47%が外国人である。特にバカンスシーズンの7〜9月になると外国人の割合は60%を超える。このインバウンド・ツーリストのうち全体の約92%は欧米系、うち全体の60%はヨーロッパからの観光者であり、アジア系は全体の5%と非常に少ない(番所跡でのハイカー調査2013年より)。馬籠宿は島崎藤村の故郷として、妻籠宿は全国に先駆けた集落・街並み保存運動の地として1970年代以降国内を中心に観光者を集めてきたが、両者ともに2000年代以降はその数を大きく減少させてきた。一方、減少する国内観光者と比例して増加してきたのが歩くツーリズムを目的とする欧米系ツーリストであり、2009年に峠を歩く外国人が5848人であったのが2015年には16,371人まで急増している。 4. 欧米系ツーリストが求めるもの  本研究では、観光ホスト側として宿泊施設、中津川市役所観光課、観光協会、妻籠宿の町並み保存会、住民に聞き取り調査を行い、さらにメインの調査として観光ゲストである欧米系ツーリスト55組(80人)にアンケート及び聞き取り調査を行った。観光者に対しては、国籍や観光行動といった基本的情報だけではなく、彼らがこの場所に求める要素をなるべく細かく収集しデータを整理した。その結果、以下なようなことが明らかになってきた。  まず欧米系ツーリストの職業に特徴があり、全体(80人)のうち①弁護士や医師、研究者や教員といった知識的な階層(26人)、そして②デザイナーや建築家、IT技術者などクリエイティブクラスの観光者(16人)が多い。彼らの意識をみると「普通と違う観光」、「典型的なインバウンド・ツーリズムに無いもの」を旅に求めて中山道を来訪していた。また中山道を歩く欧米系ツーリストは「静けさ」や「穏やかさ」、「都会からの逃避(都会と違う場所)」を求めており、彼らが典型的なインバウンド地である日本の都市型観光の喧騒に疲弊し、静かな環境や自然に身を置きたいという欲求を山間部の街道を歩くことへと向けていることがわかる。彼らが街道を歩く観光で高く評価した点をみると、①「山並み」、「木々(森林)」、「川・滝」といった比較的日本人にはありふれた山間部の自然的要素、そして②「棚田(水田)」、「農村景観」、「農村の生活」、「本物の農村(とその体験)」といった日本の農村部で一般的に見られるようないわば「普通の」景観に魅力を見出していた。そしてこれらは移動手段を歩くことに限定することで得られる体験であると多くの観光者は評価をしていた。欧米系ツーリストが過度に観光地化しておらずかつ典型的な訪日観光には無い場所、そして都会に無い静けさや自然を歩くツーリズムに求めたか観光形態が中山道における歩くツーリズムといえる。
  • 猪狩 彬寛, 小寺 浩二, 浅見 和希
    セッションID: P018
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/26
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    Ⅰ はじめに
    日本の国土の70%は山地で占められており、その中には火山も少なくない。火山体が有力な貯水能をもっているということは重要(山本 1970)で、本邦でも決定的な意味を持っている。当研究室では富士山周辺や伊豆諸島での研究も古くから継続されている。今日では2016年9月27日の噴火活動以前から調査を続けていた御嶽山を中心に活火山体周辺の水環境を研究している。浅間山では周辺の水質を把握し、地域特性を明らかにすることで、水環境形成の要因を考察することを試みる。

    Ⅱ 研究方法
    第1回目の調査を2015年6月20日および25日に行ない、以降約1ヶ月おきに調査を実施している。ここでは2017年5月26日の第22回までの調査の結果をまとめる。調査地点は調査を重ねていく中で徐々に増やしていき、現在は河川と降水採取地点と合わせて48地点である。現地ではAT、WT、pH、RpH、ECの測定を実施。また水のサンプリングをして研究室に持ち帰り、ろ過を済ませたのちTOCおよび溶存成分の分析を実施した。

    Ⅲ 結果と考察
    1.  河川(北麓)
    湯尻川や泉沢周辺では重炭酸カルシウム(Ca-HCO3)型の水質が分布し、水温・EC値共に周辺に比べ低いことが確認された。pHは7.0~7.5前後の地点が多いが、その変動は泉沢周辺で大きく、季節ごとの人為的影響が強く出ている。ECは湯尻川や泉沢で100µS/cm前後だが、東の地域では地点間の変動が激しく、高羽根沢と地蔵川で200µS/cm、小滝沢と濁沢で300µS/cmを超え、特に片蓋川では平均値が500µS/cmを超えている。
    2.  河川(南麓)
    地点による水質の差が北麓に比べ顕著であった。EC値の大きい地点では、Na+やMg2+などの陽イオン、HCO3-やSO42-などの陰イオンの比率が大きくなり、濃度も高く、pH・EC値共に高い傾向にある。
    3.降水
    山体の東側に位置する六里ヶ原および鬼押出し園の降水は、西側に位置する降水と比べpHが低くEC値が大きくなる傾向が見られた。東西でこの傾向が入れ替わる場合もあり、風向および風速の影響が示唆された。

    Ⅳ おわりに
    浅間山南斜面を流下する濁水や北麓の夏季に異常に低い水温を示す地点など、浅間山周辺河川の特色がつかめてきたと同時に、2年間の水質の変動についてもある程度把握することができた。今後は南麓を中心に、より上流域(山頂域)の地点を調査することを計画している。

    参考文献
    鈴木秀和・田瀬則雄(2007):浅間山北麓における湧水温の形成機構と地域特性, 日本水文科学会誌, 37(1), 9-20
    鈴木秀和・田瀬則雄(2010):浅間火山の湧水の水質形成における火山ガスの影響と地下水流動特性-硫黄同位体比を用いた検討-, 日本水文科学会誌, 40(4), 149-162.
    早川由紀夫(1995):浅間火山の地質見学案内, 地学雑誌, 104(4), 561-571
  • 桐村 喬
    セッションID: P030
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/26
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    I 研究の背景・目的
      日本においては,地名に由来する名字が8割を占めるとされている(丹羽, 2002).そのため,名字の分布は,由来となる地名の存在する地域と一定の関連性を備えたものになると考えられ,どの名字がどの地域に多いのかが電話帳や名簿データなどに基づき詳細に調査されてきた(矢野, 2007など)。一方,名字からは,様々な地理的情報を得ることができる.例えばMateos(2014)は,名字に基づき,主にロンドンにおける言語や民族別の人口分布を明らかにしている.どの名字がどの地域で多いのかという従来的な視点からではなく,出身地あるいは祖先が居住していた地域(以下,これらを「出身地等」と呼ぶ)を知るための手がかりとして名字を捉えることで,有用な知見を新たに得ることができるものと考えられる.
      そこで本研究では,地域ごとに特有の名字を求めるために名字の分類を行った上で,名字の類型別の構成比に基づいて地域を分類し,名字を通して観察できる出身地等別の人口構成に基づく地域間の結び付きを明らかにすることを試みる.出身地や出生地別の全国的な居住人口統計は,1950年の国勢調査結果以降作成されておらず,本研究で得られる知見は,一定の重要性を持つものと考えられる.
    II 名字の類型化
      名字に関するデータとして,東京大学空間情報科学研究センターとの共同研究により提供された2014年版の「テレポイント Pack!」(以下,電話帳データと呼ぶ)を用いる.電話帳データからは,2013年末時点の電話帳に掲載されている1,600万件の個人の名字を把握できる.分析対象とするのは,全国で100件以上のデータを持つ,9,985種類の名字である.
      名字の類型化のために,2013年末時点の市区町村単位でそれぞれの名字の件数を集計し,名字ごとに市区町村別の構成比を求める.この構成比を,SOM(自己組織化マップ)とWard法を用いて類型化し,名字に関する33類型を作成した(以下,名字類型と呼ぶ).名字類型は,主に分布する地域が類似している名字のまとまりである.例えば,名字類型のS33は沖縄県に分布が集中する名字の類型であり,S10は,関東地方が分布の中心であるものの全国で1万件以上のデータを持つ名字の40.8%が含まれるなど,分布範囲の集中傾向が弱い名字の類型である.
      地域ごとに名字類型別の名字件数の構成を求めることで,各類型の名字が主に分布する地域を出身地等とする人口の構成を推定できる.この推定の妥当性を検証するために,各類型の名字が主に分布する地域を都道府県単位で特定し,これらの都道府県を出生地とする1950年時点の人口を都道府県別に求めて出生地別人口比率を算出し,都道府県別の名字類型の構成比と比較した.これらの間には有意な一定の相関関係があることから,名字類型を通して,出身地等別の人口構成をある程度把握できると考えられる.
    III 名字類型別の構成比に基づく地域分類
      市区町村単位で名字類型別の構成比を求め,SOMおよびWard法を用いて類型化し,市区町村を分類する12類型(以下,地域類型と呼ぶ)を得た(図).大部分の地域類型は,複数の都道府県にまたがっており,北海道を除けば飛び地の少ない分布となっている.近畿および四国はおおむね同じ地域類型R08に含まれる一方で,東北および関東はそれぞれ3類型(東北:R01・R02・R04,関東:R02・R03・R06)に,九州は2類型(R10・R12)に分かれており,必ずしも地方単位の分類にはなっていない.沖縄については単独の地域類型R09を構成している.北海道は,道南を中心とする地域が北東北と同じ地域類型R04に含まれる一方,札幌市を含めた残る地域の大部分が北陸と同じ地域類型R05に含まれており,明治以来の開拓に伴う人口移動の結果が地域類型の分布に現れている.
      一方で,東京や大阪などの大都市圏では,12の地域類型としては,それ以外の地域からの大規模な人口移動の結果と考えられるような分布パターンを十分に認めることができなかった.名字類型の段階で,すでに2013年時点の名字の分布が反映されているためと考えられる.ただし,栃木・茨城県と福島県がR02に,群馬・埼玉県と山梨・長野県がR03にそれぞれ属するなど,大都市圏の一部とその後背地とも考えられる地域のまとまりが抽出されており,人口移動に基づく地域間の結び付きの一端を示している可能性が示唆される.
  • 北田 晃司
    セッションID: 201
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/26
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    近年、わが国を訪問する外国人観光客の数は急増している。特に2007年から2015年にかけては西日本の諸県において大きい。本発表においてはこのうち、近年の外国人観光客の延べ宿泊者数の増加率では全国でも有数の和歌山県と香川県を選び、外国人観光客の動向やその背景などについて分析する。まず和歌山県については観光客の国籍により訪問する観光地に大きな差が見られる。その中でも高野山は特に欧米からの観光客に人気があり、熊野本宮温泉郷でもアジアからの観光客を圧倒している。さらに欧米の観光客が和歌山県で行うショッピングで使用する金額も中国人観光客を上回っている。これに対してアジアからの観光客は宿泊客数では中国人観光客が最も多いが、その多くは関西空港に近いことや、近年、外国人観光客の増加のために宿泊の難しい大阪市を避けて和歌山市に 宿泊するためだけの目的で同市を訪問することも多い。また台湾や香港からの観光客も多いが、特に台湾人観光客にとってh和歌山県は必ずしも人気のある観光地ではなく、USJや京都などを訪問するついでに訪問する観光客が多い。しかし、猫の駅長で有名になった和歌山電鉄、春の桜や梅の花見などは一定の人気を得ている。また、和歌山県の国際観光をさらに活性化するためには、同県が日本有数の生産を誇るみかん、梅、柿、桃などの果物や、近年知名度が上昇しているマグロ、クエなどを使った日本料理をの紹介なども重要であると考えられる。一方、香川県における外国人観光客の宿泊者数の大半は台湾人によってもたらされた。特に栗林公園、金毘羅宮などの観光地と名物の讃岐うどんの人気が高い。かつて四国で最も多い外国人観光客は韓国人観光客であったが、2007年から2015年の間に台湾人観光客に首位の座を譲ることになった。台湾人観光客の急増の背景としては、遍路に象徴されるような、特に江戸時代以降現在に至るまで盛んな日本人の信仰への関心の高まり、香川県のみならず、しまなみ海道や厳島神社など、瀬戸内海に分布する観光地への関心の高まりを反映したものと考えられる。しかしその一方では、松山空港に発着する国際便数の減少など、国際観光をめぐる都道府県間の競争の激化も見られる。以上のように、今後の国際観光、特に地方における国際観光においては、食事や宗教活動といった日本の日常的な姿への関心の増大、その一方での外国人観光客の嗜好の多様化、和歌山県における中国人観光客の例が示すように、宿泊のみを目的とした訪問の増加、地方の国際観光をめぐる都道府県間の競争の激化など、これまで以上に多くの問題が錯綜することが予想され、特に県を超えたより広い範囲における都道府県間の利害の調整などがより重要になると考えられる。
  • 総括
    篠田 雅人
    セッションID: 609
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/26
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    学融合研究「乾燥地災害学の体系化」(略称、4Dプロジェクト)は科研費基盤研究(S)(2013-2017年、代表:篠田雅人)により、ユーラシア乾燥地における自然災害の発生機構の体系的理解と能動的(災害前の)対応の提言を行ってきた。本発表では、最終年度を残すところとなった時点までの研究成果を総括するとともに、(2)ではゾド早期警戒用に初めて開発された家畜体重モデルについて述べる。これらを踏まえた今年度以降の展開について、3つの連続したポスター発表で、(3)災害管理への展開、(4)周辺地域への展開、(5)人畜地健康学への展開について述べる。
  • サイド マルジュ ベン, 成子 春山
    セッションID: P022
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/26
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    本研究の目的は既往の巨大洪水(1988年、1998年、2004年)データを用いてダッカ首都圏の都市化に関わる土地利用変化との比較研究を行い同地域での治水施設設計とは異なる防災・減災に関わる地形からのアプローチを行うことに。さらに社会資本に関わるデータ解析、衛星リートセンシング、GISを用いて統合的アプローチでダッカ首都圏の洪水リスクを評価した。地価、所得水準の分析から対象地域での治水施設建設後における洪水認識の変化等についても分析を行った。
  • 人畜地健康学への展開
    篠田 雅人, 大谷 眞二, バタツェツェグ バドガル, 島田 章則, ダバルハム ダンバダルジャ, エルデネツェツェグ バサンダイ, 立入 ...
    セッションID: P027
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/26
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    われわれが取り組んできた学融合研究「乾燥地災害学の体系化」(略称、4Dプロジェクト)では、気候ハザードの影響が時差をもって家畜や人の健康に及ぶ現象が発見され、干ばつ時には、土壌水分・植生減少→家畜死→乳児死という地-畜-人の連関が示された。本研究の発展として、人・動物(家畜)の健康が植生・土壌・水を含む地生態系の健全性に支えられるものと捉え、それらが共存できる社会をめざした「人畜地健康学」を構想する。
  • 熊谷市の小・中学校を対象として
    澤田 康徳
    セッションID: 625
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/26
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    目的:環境認識は,地球的諸課題を中心に多数の研究がなされている.地球および都市規模の暑熱に関してもいくつか調査が行われ(福岡 2006など),関心程度,それと認識および行動程度との関連性が指摘されている.しかしながら,対象者は学校教育における学習者が中心で,幼少期からの記憶を含み関心の契機は明確でない.他方,地域・学校における暑熱対応は,養護教諭の医療・教育的判断が重要である.多様な地域における保健指導の方向性(長野ほか2015など)が検討される一方,これまで養護教諭の気候認識は把握されていない.本研究では,日本有数の暑熱地域である熊谷市(渡来 2011など)の小・中学校において,記憶の振り返りは最長でも初任時前後であることが想定される,養護教諭の職務上における暑熱に対する関心の契機を明らかにし,認識および指導実践との関係を示す.

    方法2017年3月に埼玉県熊谷市における小(29校)・中学校(16校)の養護教諭に暑熱に対する関心の契機および認識に関してアンケート調査を行った(回答率98%).熊谷市は,2007年8月16日に当時の日本最高気温(40.9℃)を観測し,暑熱対応の教育的支援や施設整備に取り組み,熱中症や風邪の予防指標分布図を行政で提供している.質問内容は暑熱の関心に関わる契機,日常および職務における気候認識(5段階評価)と指導実践(記述)である.

    結果:職務上の暑熱に対する関心の契機(市・県・国の政策,研修会等,最高気温記録以降,部活担当,熊谷市への転入・着任,市内での異動)の得点(5~1点)に対してward法によるクラスター解析を施し3つの契機群に類型化した.契機群は,市や県および国の政策で得点が高いⅠ型(政策契機群),高温を記録した事実で得点が高いⅡ型(事実契機群),および市内での異動で得点が高いⅢ型(経験契機群)である(図1).情報獲得に関する職務と日常との得点差は,政策契機群(Ⅰ)は市提供の情報で大きく,職務上で市情報を活用している.事実契機群(Ⅱ)は公開情報を,経験契機群(Ⅲ)では同僚からの身近な情報を多用している(表1).なお,事実契機群(Ⅱ)で気候に対する自己認識の得点が高い.暑熱の認識箇所の全回答割合は43%程度で,おおよそ市提供の暑熱情報と対応しているものの,認識地点分布は都心および郊外南(Ⅰ),都心(Ⅱ),都心および郊外北(Ⅲ)と契機群で異なる(図2).さらに,認識理由は市情報の活用(Ⅰ),成因による推測(Ⅱ)および経験(Ⅲ)で認識プロセスも異なっている.実践指導に差異は認められないが,地域ごとに気候対応が求められる近年において,養護教諭の情報活用や気候認識を活かした実践指導の必要性を本研究結果は示している.
  • 栗栖 悠貴, 高桑 紀之, 関口 辰夫
    セッションID: P034
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/26
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    二次元の地図上に三次元の地形をわかりやすく表現するため古くから様々な手法が用いられてきた.その代表として地表の同じ高さのところを結んだ等高線による表現手法がある.しかし,等高線から斜面の緩急や地表の凸凹を読み取り視覚的に地形を捉えることは,大人でも容易なことではでなかった.
     一方で,陰影段彩図など数値標高モデル(以下「DEM」という.)を利用して,直感的に地形を理解できる表現方法が提案されている.国土地理院は,これらの表現手法である 「アナグリフ」 「傾斜量図」 「陰影起伏図」 などDEMを利用した全国を対象とした主題図を地理院地図から平成29年3月に公開した.
     本発表では,傾斜量を区分することで防災(雪崩関連)に資する地理空間情報について報告すると共に,様々な主題図を地形のよくわかる地図と合成することで地域の理解を深めるために活用する事例を報告する.
  • 国土交通省ハザードマップポータルサイトの事例
    上芝 卓也, 大角 光司, 髙桑 紀之, 山崎 航, 山本 洋一
    セッションID: P037
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/26
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    平成18年6月に策定された「国土交通省安全・安心のためのソフト対策推進大綱」に,全国の各種ハザードマップを一元的に検索・閲覧可能なポータルサイトを設置することが明記された.これを受け,国土地理院では,国土交通省水管理・国土保全局等と協力して,「国土交通省ハザードマップポータルサイト(以下「本サイト」という.)」<http://disaportal.gsi.go.jp>を平成19年4月から運用している.メインコンテンツとして,様々な災害リスク情報等を重ねて表示できる「重ねるハザードマップ(以下「重ねるHM」という.)」と,全国の各市区町村が作成したハザードマップへのリンク集である「わがまちハザードマップ(以下「わがまちHM」という.)」を公開している.
    平成27年度には,本サイトの認知度,活用状況,ニーズ,課題を把握するために,地方公共団体等に対してアンケート等を実施した(本嶋ほか,2016).これらの調査結果を踏まえ,任意の地点の各災害リスクをまとめて調べる機能や,スマートフォンによる閲覧を可能とするなどのサイトのリニューアルを実施し,平成28年6月6日に公開した.一方で,「入手した情報を正しく解釈するのが難しい」,「災害時にとるべき行動と結びつけられない」等の課題が残されていた(本嶋ほか,2016).
    そのため,災害リスク情報を国民に広く周知し防災・減災に資するため,本サイトの現状を分析し,再度改良を実施し,平成29年6月6日にサービスを開始したので内容を報告する.
  • スイス、シャフハウゼン州の事例
    山本 健兒
    セッションID: 901
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/26
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    大都市圏は、その内部の経済主体の多様性のゆえにイノベーションが実現しやすいという考え方が通念となっている。しかし中欧には、農村的色彩が強い人口小規模地域でありながら、イノベーション形成の伝統をもつ一方で、1990年頃からのグローバリゼーション進展の故に経済衰退の危機に瀕したにも拘らず、再活性化に成功した地域がある。スイスのシャフハウゼン州がその一例である。本報告は、この地域の産業史を概説したうえで、なぜ経済再活性化できたのか、その理由の解明を目的とする。
      シャフハウゼン州は1960年時点での人口が約66,000人でしかなく、同名の首都のそれは僅か約3万人だったが、スイスの平均を上回る1人当たり国民所得を1960年代に実現していた。この高い経済力は金属機械工業によっていた。その礎は、19世紀初めにJohann Conrad Fischerが築いた。
      シャフハウゼンの工業化が本格化するのは、1857年のヴィンタトゥーアへの鉄道開通、1866年のライン川モーザダム建設による水力活用を契機とする。これ以前、シャフハウゼンはチューリヒ、バーゼル、ザンクトガレンなどの諸都市や州だけでなく、東南に隣接するトゥールガウ州と比べても経済力の劣る地域だった。
      しかしダム建設後、各種の工場がシャフハウゼン市とその西に隣接するノイハウゼンに立地した。その中で現在も存続する最も著名な企業は武器・鉄道車両製造企業SIGと高級腕時計メーカーIWCである。金属機械工業のみならず繊維工業も続々と立地した。その中には、1889年に409人を雇用してシャフハウゼン最大企業となったKammgarnspinnerei Schoeller & Söhneもある。
      前述のJ.C. Fischer の企業は、その子息Georgが継承し、1890年代に可鍛鋼を素材とする水道管継ぎ手の開発によって世界的な成功を収めて急速に成長し、1896年にGeorg Fischer AG(GF AG)となった。これは、1000人規模のシャフハゼン工場の生産キャパシティ不足の故に、隣接するドイツのジンゲンに600人規模の工場を設立した。GF AGとSIGとが従業者数千人を超える大企業となったがゆえに、シャフハウゼンは金属機械工業特化地域となったかに見える。しかし、化学、電機、繊維、食品工業も立地存続したので、この州の工業は質的な多様性を維持した。
      1970年代以降、シャフハウゼン経済は停滞し、さらに衰退期に入った。特に1991~95年の雇用減少率が10%強となり、スイス26州の中で最悪を記録した。これは、シャフハウゼンがグローバリゼーションに伴う国内外の地域間立地競争に敗れたためである。
      そこで州経済を立て直すための戦略を策定すべく、州内の中小企業団体であるKantonale Gewerbeverband SchaffhausenのイニシャチブでプロジェクトグループWirtschaftsentwicklung Region Schaffhausen(WERS)が1995年夏に立ち上げられた。これにはIndustrievereinigung Schaffhausenが最初から関与し、いくつかの経営者団体もその活動を支援し、州政府国民経済局も協力した。
      WERSの活動には約150人が積極的に関与したが、そのなかで最も重要な役割を果たしたのは、州内に立地するコンサルティング企業Generis AGの代表Thomas Holensteinである。約2年間の活動を経てWERSは、州経済の再生のために州政府が重要な役割を果たすべきであり、「経済振興法」の制定、振興基金の設定、地域内外へのシャフハウゼンに関するマーケティングを行うべき等という提言を1997年10月に取りまとめた。
      この提言を受けて策定された「経済振興法」案がまず州議会を通過し、さらに州民投票を経て制定され、経済振興政策が実行に移された。その結果、例えば英語で授業を行うインターナショナルスクールが開設され、この効果もあって多国籍企業の欧州本部機能を持つ事業所の新規立地が進んだ。シャフハウゼン経済は、特に2010年前後以降に成長軌道を歩んでいる。
  • 堀内 雅生, 小寺 浩二, 浅見 和希, 猪狩 彬寛
    セッションID: P019
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/26
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    Ⅰ はじめに
    火山地域では水資源が豊富で、保全、利用のため には水環境問題の把握が重要となってくる。特に、 噴火による水環境汚染は火山噴出物から溶出した成 分により周辺の生活や農業に大きな影響を与えると 考えられる。これを踏まえ、2015 年 6 月 29 日に箱 根山の大涌谷で発生した噴火が周辺水環境へどのよ うな影響を与えているか研究を始めた。また、箱根 の河川には温泉排水が流れ込んでおり、それらが河 川水質に与える影響についても検討をしていきたい。

    Ⅱ 研究方法
    調査は毎月 1 回の間隔で実施しており、河川・沢・ 雨水を中心に、現地で AT,WT,pH,RpH,EC などを測 定した。さらに採水したサンプルを持ち帰り、研究 室にて主要溶存成分等の分析を行っている。

    Ⅲ 結果・考察
    1.河川の濁り 大涌谷から流れる大涌沢が白濁し、大涌沢合流後 の早川も濁りがみられ、下流まで続いていた。長期 的に濁りは薄くなっているが、降雨があると河床に 堆積している物質が押し流され、濁りが強くなる。
    2.河川の EC・pH 早川では EC、pH が基本的に 200~400μS/cm、 7~8 で変動している。しかし、温泉排水が流れ込ん でいる影響で地点によっては変動が激しくなってい る。入仙橋では EC が最高で 1345μS/cm を観測し た。また、蛇骨川合流後の夢窓橋では上流部よりも EC が高くなる傾向にある。大涌沢では高 EC、低 pH を観測しており、特に噴火後は 6,780μS/cm、 pH2.4 であった。長期的には大涌沢の EC は低下し、 pH は上昇する傾向にある。
    3.主要溶存成分 大涌沢は陰イオンに Ca2+、陰イオンに Cl-、SO4 2- を多く含んでいる。早雲橋や湖尻橋では陰イオンの ほとんどを硫酸イオンが占めている。須沢や蛇骨川 では流下するにしたがって NaCl の割合が多くなっ ている。また、早川では夢窓橋で NaCl の占める割 合が大きくなっている。これは、蛇骨川の合流など の影響が考えられる。
    4.雨水 雨水は大涌沢に最も近い地点で、EC が最大で 210 μS/cm、pH が最小で 3.3 を観測し、陰イオンには 硫酸イオンが多かった。大涌谷周辺から離れるに従 い高 EC、低 pH がみられなくなる。
    Ⅳ おわりに
    今後も引き続き河川の溶存成分分析を進めていく。 また、雨水の分析、流量値を用いて汚濁負荷量につ いても検討していきたい。

    参 考 文 献
    菊川城司,板寺一洋,吉田明夫(2011):箱根強羅潜在カ ルデラ内に湧出する温泉の新しい分類,温泉科 学,60,445-458
  • 永迫 俊郎
    セッションID: 724
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/26
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    はじめに 本研究は真水の視点からの地域把握であり,シラス台地の崖脚からの典型的な湧水である「清水の湧水」(南九州市川辺町)と隆起サンゴ礁のカルスト台地から湧出する「ジッキョヌホー」(ジッキョ=瀬利覚,ヌ=の,ホー=川;大島郡知名町)の比較にもとづき,集落の中心として湧水が果たしている役割を明らかにする.2016年度中に川辺町清水で6回,知名町瀬利覚で4回,地域住民への聞き取りを主とした現地調査を実施した.
    昭和と平成の名水百選にそれぞれ選定されている清水の湧水とジッキョヌホーは,集落の象徴であり人々を結び付けてきたとみられる.シラスとカルスト,水稲と畑作,薩摩半島と沖永良部島という対比を意識しつつ,地域社会の中心・象徴としての湧水の役割について個別性と共通性を明らかにするとともに,水を基軸とした人間と自然の関係から地域を捉え直すことを目的とする.

    観察結果 1) 水道の普及を機に湧水やホーの重要性が低下していったことは清水,瀬利覚の両集落に共通するものの,瀬利覚がジッキョヌホーの地理的中心性を活かして字の象徴としてホーに光を当てているのに対して,清水では湧水の意義を次の世代に伝える人間集団の編成がみられず清水の湧水の存在感は風前の灯火である.
    2) 水は生命の源であり,集落の立地に不可欠である.シラス台地上は地表水に乏しい一方,低地では湧水が多く分布する.清水でもそうで,水量豊富な万之瀬川も流れており,水への渇望が低い.それに対し,カルスト台地からなる沖永良部島では河川がほとんどなく,ホーやクラゴーといった地下水系に依存する生活が長く続いてきた.表層を流れる真水の多寡が,シラス地域とカルスト地域に居住する人々の水への眼差し,切実性の差異を生み出していると考えられる.
    3) 清水の湧水のすぐ真横に水元神社が,境内の一角に昭和23年に建てられた清水公民館がある.背後のシラスの急崖での県による砂防事業(のり面工事)に伴い,平成29年度に一旦社殿が取り壊され,翌30年度に再建される予定である.急傾斜地に立地する公民館は,新築の許可が下りず改築で対処するが,そこで行われる催しに子どもたちやその親の世代の姿はほぼない.世代間交流がなく集落での行事が継承されない様は,沖永良部とは対照的で残念である.
    4) 42の字・集落からなる沖永良部島内での水取得の困難さは一様ではなく,和泊町国頭や知名町正名はとくに苦労したとされる.農林水産省農林水産祭のむらづくり部門の天皇杯を相次いで受賞(国頭:平成4年,正名:平成12年)した要因には,困難さをバネに集落で団結したことが挙げられる.他の字でも独自の取り組みがされており,地域住民により選出される区長に率いられる字の自治は,行政主導とは一線を画し,少子高齢化・人口減少時代に注目される有り様である.字とは別個に,名水のむらジッキョ自立・創造委員会(ファングル塾)を筆頭格にコミュニティに根ざした活動を展開する組織も少なくなく,沖永良部の島民の底力を痛感させられる.

    議論 地域はある環境に人間が居住することで生成される.清水の湧水とジッキョヌホーでは現在担っている役割が全く異なり,前者はほとんど顧みられず,後者は今でも集落の象徴として人々が集う場所である.住民と土地・故郷との結びつきの強さを考える上で,川辺の利便性(鹿児島市へのアクセスの良さ)や沖永良部の僻遠性および島民の多くが一度は島立ちしていることが重要である.沖永良部では島を一度離れることで故郷を客観視できてその素晴らしさを実感できるのに対して,川辺では鹿児島市に比べると不便などこにでもあるような田舎としてしか捉えられないことが,両者のコントラストを生んでいると考えられる.つまり,故郷を相対化できているかどうかが地域社会の結束を左右すると思われる.

    おわりに 湧水を突破口に集落にアプローチし,故郷を相対化できているかどうかがコミュニティの結束を左右するという結論に至ったが,新たな課題も見つかった.限界集落(滞在中のカンザス州でも多くのdying townを見た)のこの先や時代に即した地域の変貌といった大命題は諸賢に委ねることとして,今回聞き取りが叶わなかった幅広い世代や中心を担うわけではない静かな構成員の声を集めるなど,地道な地域把握を続けていきたい.
    本研究の遂行には,地(知)の拠点事業:火山と島嶼を有する鹿児島の地域再生プログラム(鹿児島大学)の平成28年度地域志向教育研究経費を使用した.
  • 箕田 友和, 永迫 俊郎
    セッションID: P006
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/26
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    はじめに 基本的に侵食の場である山地では,古環境の情報源たりうる堆積物が斜面更新により時折削除されるため,古環境変遷の把握が難しいのが一般的である.南九州の諸火山から多くのテフラが到達している大隅半島の高隈山地は,山地斜面の火山灰編年法(田村,2004など)を適用可能で,古環境にアプローチしうる優位性を持っている.ここでは,高隈山地を対象に山地斜面の地形分類を行ったうえで,火山灰編年にもとづき,地形的位置ごとの重力移動の様式および斜面安定性について議論を行う.こうした最終氷期最盛期から後氷期にかけての古環境変遷のなかに,高隈山地の特徴的な植生である日本列島南限のブナ林を位置づけ,山頂付近までどのように逃避したのか,ブナの根系と斜面安定性を組み合わせて,ブナ分布の変遷についても推察する.

    山地斜面の地形分類 国土地理院撮影の空中写真(縮尺約2万分の1,2008年撮影)の判読を行った結果,高隈山地の斜面は傾斜変換線(尾根筋から下方に向かって連続する3本の遷急線と1本の遷緩線)によって,下位から順に(a)谷壁斜面,(b)山腹急斜面,(c)山麓緩斜面,(d)山腹緩斜面,(e)山頂緩斜面の5つに分類できることが明らかになった.

    高隈山地の斜面安定性 (a)谷壁斜面では一次堆積のテフラがみられず,表層堆積物の平均層厚(約0-50cm)が薄い.(b)山腹急斜面では尾根上で一次堆積のテフラがみられ,谷壁斜面に比べて平均層厚(約60-150cm)が厚い傾向にある.(c)(d)(e)の緩斜面では,平均層厚(約100-500cm)が厚い傾向にあり,(c)山麓緩斜面では姶良大隅降下軽石(以後A-Os)が,(d)山腹緩斜面では桜島薩摩テフラ(Sz-S)が,(e)山頂緩斜面では鬼界アカホヤテフラ(K-Ah)が,それぞれの表層堆積物の最下位にみられる場合が多い.
    平成28年台風16号に起因した表層崩壊は(a)谷壁斜面と(b)山腹急斜面に偏在し,谷壁斜面での発生数が山腹急斜面より多いことから,谷壁斜面がより不安定な斜面と言える.その谷壁斜面での表層崩壊は山腹急斜面よりも勾配の緩やかな20~30°で発生しており,傾斜角よりも水分条件が関わった重力移動が発生しやすい地形場である.高隈山地の北部・北西部に多くの表層崩壊の傷跡がみられ,谷密度・地質・卓越風向・地形的な位置の違いが高隈山地における表層崩壊の分布を規定していると考えられる.以上のことから概して,(a)谷壁斜面は不安定,(b)山腹急斜面はやや不安定,(c)山麓緩斜面はA-Osが堆積して以降,(d)山腹緩斜面はSz-Sが堆積して以降,(e)山頂緩斜面はK-Ahが堆積して以降,それぞれ安定的な斜面である.

    重力移動の変遷 山頂域と山腹域ではA-Osが堆積していないことから,最終氷期最盛期には山頂効果などに伴って低地周氷河作用が発現し,面的な削剥による物質移動が卓越した可能性が高い.山頂域・山腹域付近の(a)(b)の急斜面では落下による斜面更新が頻発したと考えられる.斜面の安定性変遷をまとめると次のようになる.
    山麓域では晩氷期よりも前に,凍結融解を主因とした面的な削剥による物質移動が終了した.晩氷期には,山頂域のように周氷河作用が残った斜面があるものの,発現しない斜面が増えていった.Sz-Sを指標とした山腹域での観察から,面的な削剥による物質移動が終わり,徐々に流動による線的な侵食に移行していったとみられる.後氷期には,山地全域において面的な削剥による物質移動はみられず,(a)谷壁斜面と(b)山腹急斜面の一部では流動,(b)山腹急斜面の大半では落下という重力移動によって斜面更新が行われるようになった.

    ブナ分布の変遷 高隈山地の現在のブナの分布について,大箆柄岳の北向き斜面に高密度でブナが分布し,主稜線を挟んだ東西方向では東向き斜面に偏在することから,板谷ほか(2004)は斜面方位を重要な規定要因としているが,西向き斜面でも点状に高密度に分布することには言及していない.ブナの根系は垂直方向に約1mは伸びる(刈住,1987)ことと,表層堆積物の観察結果を考え合わせると,西向き斜面に連なるブナ分布の高密度は尾根上の土壌の厚さが1m以上あるゾーンと一致していると評価される.高隈山地の(d)(e)の緩斜面では1m以上の土壌が堆積しており,ブナの分布密度が高い.(a)谷壁斜面と(b)山腹急斜面ではブナの分布密度は低い一方,(b)山腹急斜面でも土壌が1m以上ある尾根上の斜面では密度が高くなる.したがって,土壌水分に関わる斜面方位だけでなく,土壌層の厚さや地形的な位置もブナ分布にとって重要な要因であると指摘できる.こうしたブナ林のカテナと重力移動の変遷にもとづいて,最終氷期最盛期以降のブナの分布変遷を推察した.
  • 南 泰代
    セッションID: 310
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/26
    会議録・要旨集 フリー
    巨大化する「認定こども園」の子どもにとっての適正規模
     100032                Appropriate size for the massive expansion of ”Certified centers for Early Childhood 
    Education and Care“
     
     
    南 泰代 (奈良女子大) 
    Yasuyo  MINAMI  (Nara Woman’s Univ.)
     
    Keywords: Certified centers for Early Childhood Education and Care, Scale, nursery teachers, Appropriate size  
    認定こども園、                   規模、  保育者      適正規模                         
    背景
     2006 年に創設された認定こども園は、幼稚園部門は学校教育
    法、保育所部門は児童福祉法に基づく認可であった。しかし、2007
    年 105 園、2011 年 762 園、2013 年 1,099 園と政府の目標の 2,000
    園には届かなかった。南の 2013 年調査時点では、1110 園中、301
    人以上が 40 園、401 人以上だ 14 園、501 人以上が 4 園、601 人以
    上が 2 園であった。認定こども園の巨大化が進んでいた。
    2014 年 8 月 22 日「認定こども園法」の改正により、学校及び児
    童福祉施設としての法的位置付けを持つ単一の施設として、新た
    な「幼保連携型認定こども園」が創設された。法改正後、認定こど
    も園は 2,836 園になり、2016 年には 4,001 園に急増した。401 人
    以上は秋田 1、千葉 1、栃木 3、東京 8、埼玉 2、新潟 1、滋賀 1、
    愛知 2、兵庫 4、大阪 1 と増加した。451 人以上は茨木 1、東京 1、
    埼玉 1、滋賀 1、兵庫 1、501 人以上は東京 1 であった。さらに、
    601 人以上は福島 1、兵庫 3、701 人以上は兵庫 1 とさらに巨大化
    が進んでいた。
    目的
    認定こども園の保育者 1 人に対する園児数の基準はあるが、定
    員や規模の基準はない。認定こども園の保育者の全保育者・全園児
    との具体的な関り等の質問から、子どもにとっての認定こども園
    の定員の上限や適正規模について明らかにする。
    方法
    2016 年 4 月時点の全国 4001 園の認定こども園を、都道府県ごと
    に定員を 1-50 人、51-100 人、101-150 人、151-200 人、201-250 人、
    251-300 人、301 人以上に区分した。区分ごとに各1園、都道府県
    ごとに選択した。区分のない部分は除外し、調査対象 209 園に保育
    者と施設に 2016 年 8 月に直接質問紙を郵送した。
    保育者への質問は、2009 年から 2016 年までの三重県、高知県、
    島根県、青森県、大阪府の幼保一体施設・認定こども園の園長、施
    設長、幼稚園教諭、保育士、保護者への聞き取り調査と三重県伊勢
    市の認定こども園の園長、保育者と相談の上作成した。
    保育者交流については、全保育者とできている、3.4.5 歳児担任
    とできている、4.5 歳児担任とできている、同学年担任とできてい
    る、園長・施設長とできているから選択とした。園児交流について
    は、全園児とできている、3.4.5 歳児とできている、4.5 歳児とで
    きている、同学年児とできている、担任児とできているから選択と
    した。有効回答は保育者 687 人である。
    集計結果を 80%以上を 4 点、60%以上を 3 点、40%以上を 2 点、20%
    以上を 1 点、20%未満を 0 点として割合をみた。
    結果
    全保育者とチームワークがとれている、全園児と送迎保護者が
    一致する、全園児の保護者と園児の話ができるは 51 人以上の施設
    で減少した。全保育者と園児の事で相談できる、全園児の顔と名前
    が一致する、全園児と話ができるは 151 人以上の施設で割合が減
    少した。1-50 人の施設で割合が高かった。保育者交流と園児交流
    の割合は高い方が園児にとって保育環境が良いと考えられる。51
    100、101-150 人の施設で割合が高い。151-200 人、201-250 人、251
    300 人、300 人以上の施設で割合が低い。1-50 人で非常に高く、51
    100 人でも高い結果となった。子どもにとっての認定こども園の適
    正規模は 150 人と考える。
  • PM2.5と水環境の意識アンケート調査
    谷口 智雅
    セッションID: S107
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/26
    会議録・要旨集 フリー
    近年、中国は、環境問題対策が重点的に取り組む課題とされており、今年3月に開催された第12期全国人民代表大会(全人代)第5回会議でも中国で生活する人々の健康リスクを回避するためにもPM2.5や水質汚濁の解決に向けて取り組みが提起されている。ここ数年環境への取り組みが重点課題として取り上げられているにも関わらず、天津でも煙霧による空港の閉鎖や学校の休講措置が取られるなど、必ずしも改善されていると訳ではない。環境改善には自動車等の排出ガスのコントロールを強化するなど市民の取り組みも必要であり、環境に対する啓蒙・理解も不可欠である。また、効果的な取り組みを実施するためにも、環境の現状や人々の環境に対する取り組みや意識を把握することも必要である。発表者は2016年9月より、三重大学から中国天津にある天津師範大学へ長期派遣の教員として日本語や日本語事情に関する授業を行なっている。日本の環境の授業も兼ねて、主に水利用に関する水環境およびPM2.5を中心とした環境に関するアンケートを実施したので、今回はその結果について報告する。
  • 中埜 貴元
    セッションID: 508
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/26
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    大規模盛土造成地の滑動崩落対策に資する盛土の安全性評価手法として,中埜ほか(2012)では統計的側部抵抗モデルを構築・提案しているが,本モデルで使用するパラメータは海溝型地震での事例検証が不十分であった.そこで,2011年東北地方太平洋沖地震の事例を導入して,より汎用性の高いパラメータの再解析を試みた.本研究は,科学研究費補助金若手研究(B)(課題番号:15K16288)を使用した.
    仙台市の対象地区においては,合計1,697箇所の盛土が抽出され,そのうちの182箇所が滑動的変動盛土であった.現行評価支援システムで安全性評価を実施し,正答・誤答を判定し,統計的側部抵抗モデルの評価結果の正答率を算出した結果,現行の内陸直下型地震の最適パラメータでは,海溝型地震事例の評価が十分に行えないことが示された.そこで,A)仙台地区のみの場合とB)全地区の場合について,最適評価パラメータの再解析を行い,その結果を基に現行の内陸直下地震対応型のパラメータと今回の事例に基づく海溝地震対応型パラメータを分ける必要があるか否かを検討した.その結果,内陸直下地震対応型,海溝地震対応型,両地震対応型の3つの地震対応型それぞれで最適評価パラメータが異なることが分かり,想定される地震のタイプによって評価パラメータを変更する必要性が示された.
  • 関口 辰夫, 栗栖 悠貴, 田中 信, 長野 玄, 野口 高弘
    セッションID: P005
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/26
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    国土地理院は、火山災害による被害を最小限に抑えること及び各種の地域計画のための基礎的情報を提供することを目的に、1988(昭和63)年度より日本の活動的な火山とその周辺地域を対象に火山土地条件調査を実施している。調査の内容は、①火山活動による噴気・火口や溶岩流などの地形、②火山活動以外の河川・谷や崩壊地,地すべり、扇状地などの地形について火山土地条件図として公表している。本発表では東北中部に位置する栗駒山とその北麓の火山地形について報告し、その中でも新たに火口として採用した「地獄釜」について詳しく紹介する。
  • 小池 司朗, 中川 雅貴
    セッションID: 907
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/26
    会議録・要旨集 フリー
    日本人人口が減少に転じるなかにあって,外国人人口は量・割合とも一貫して増加傾向にあり,今後,外国人の人口移動を含む人口動態は,日本の人口に対して次第に大きな影響力を持つようになると考えられる。本研究では外国人に関する種々の統計を駆使し,都道府県別の外国人の転入超過数を男女年齢別,国内国際別に推定することなどによって,外国人の地域別人口動態に関する知見を深めることを主目的とする。具体的には,法務省「在留外国人統計」,総務省統計局「人口推計」,総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」,厚生労働省「人口動態統計」の各種統計を用いることによって,年間の都道府県別外国人人口の変化を人口学的要因に分解した。その結果,一部の非大都市圏に属する県において,国際人口移動による外国人の増減率が非常に高い水準となるなど,基本的には国際人口移動が全体の変化を大きく規定しているが,国内人口移動や自然増減も一定の影響力を持っていることなどが明らかになった。国内人口移動をみても,全体の都道府県間移動数に占める外国人の移動数の割合は2014~2016年の3年間でも急増している。本研究により得られた知見は,社人研で行っている地域別将来人口推計の人口移動仮定設定にも示唆的な情報になると考えられる。
  • 田林 明, 菊地 俊夫, ワルデチュック トム
    セッションID: 721
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/26
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    研究の課題 この報告では、カナダのブリティッシュコロンビア州のクートニー地域において、どのような形での農村空間の商品化がみられるかを、主として事例農場の観察に基づいて明かにする。クートニー地域はブリティッシュコロンビア州の南東端に位置し、面積5.8万km2、人口14.6万の地域である。肉牛の放牧と牧草生産が農業の中心であるが、クートニー川やコロンビア川沿いの低地やロッキートレンチなどでは、果樹やベリー類、野菜の生産、養豚や養鶏、養蜂などが行われている。
    有機農業によるダイレクト・マーケッティング キャスルガーの北10kmに位置するG農場は、30歳代前半の夫婦が2015年に始めた野菜農場である。0.5haの耕地と5aの温室で、40種類以上の野菜を有機農法によって栽培している。CSA(Community Supported Agriculture)によって、40人の消費者に野菜ボックスを届けるほか、ファーマーズマーケットやクートニーCOOPなどに出荷している。ネルソンの北西20kmにあるR農場も0.6haの耕地で70種類にものぼる有機野菜を栽培している。労働力は30歳代後半の経営主夫婦と2人の研修生である。この農場でもCSAによる出荷と自分の直売所やファーマーズマーケット、クートニーCOOPで野菜を販売している。クランブルクの北西15kmに位置するF農場も2.8haの耕地で野菜やベリー類の有機栽培や養蜂を行い、さらにパンを製造し、それを農場の直売所やファーマーズマーケットで販売している。
    畜産農場でも有機農業が増加している。クレストンバレー南部にあるK農場は200haの農地で飼料を有機栽培し、約100頭の搾乳牛を飼養している。生乳とチーズを、クートニー地域全域に販売している。2005年頃に、通常の酪農から有機農業に転換した。クランブルックの東20kmに位置するC牧場は2012年に始まったもので、65haの放牧地で200頭の羊、11頭の肉牛、130頭の豚、2000羽の鶏を放し飼いにしている。クランブルックの業者によって処理された肉類は、周辺の都市のファーマーズマーケットやクートニーCOOPで販売され、さらにレストランにも供給される。
    クートニー地域における農村空間の商品化 クートニー地域では人口が少ないことや輸送コストが高いことが、地元向けの食料生産を拡大させている。地元産の新鮮・高品質で、安心・安全の農産物に対する需要が高まっており、それがこの地域での有機栽培とダイレクトマーケティングの発展につながっている。その際に大きな役割を果たしているのがクートニーCOOPであり、各地のファーマーズマーケットである。農産物に付加価値をつけて地元の需要に対応するという形の農村空間の商品化が、この地域の特徴である。
  • 久井 情在
    セッションID: P046
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/26
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    本研究では,旧自治省(現総務省)の施策によって設定された広域市町村圏を日常生活圏とみなし,これと市町村合併との一致度合を指標化し、日本地図上にプロットする。そしてそこから読み取れる「平成の大合併」の地域的特徴と予想される課題について考察する。広域市町村圏は,中心の都市的市・町と周辺の農村的市町村を1つの単位とする圏域であり,広域行政の充実を目的として,1969年より道府県と市町村との協議により順次定められた。「平成の大合併」直前の1998年10月時点では,全国で331を数える。
    本研究では,市町村減少率と中心地合併寄与率という2つの指標を広域市町村圏ごとに算出している。市町村減少率は,広域市町村圏内の市町村数が「平成の大合併」を通じてどれだけ減ったかを表し,中心地合併寄与率は,どのくらいの割合の周辺市町村が中心市町村との合併を選んだのかを表している。この2指標を日本地図上に描くことで,広域市町村圏と市町村合併の一致状況の地域差を示すことができる。
    2指標を地図化し,観察した結果は,次の3点にまとめられる。①北海道・東北地方の広域市町村圏は低い市町村減少率を示す傾向にあり,これは他の地域より合併が少ないことを意味する。これはおそらくこの地域の広域市町村圏が他の地域のものより面積が広いためである。②県境にある広域市町村圏は高い市町村減少率と中心地合併寄与率を示す傾向にあり,これは市町村区域が広域市町村圏に一致する傾向が強いことを意味する。これらの圏域では,地域の衰退に対抗するために中心地域と周辺地域の協力が必要とされており,このことが合併を促すとともに,合併後の市町村運営の課題ともなっている。③東京・大阪大都市圏の外縁や,石川県,愛媛県,高知県における広域市町村圏は,低い中心地合併寄与率を示す傾向にある。これは,中心市町村と周辺市町村の関係性が弱く,広域市町村圏およびそれに基づく地域枠組みがもはや現状を反映していないことを意味する。こうした地域では,広域市町村圏に代わる新たな日常生活圏の設定が必要となる。
  • 小松原 琢
    セッションID: P012
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/26
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    1.はじめに 北j近畿および中国地方で生じた北丹後地震、鳥取地震、鳥取県西部地震はいずれも活断層として認識できない部分にも地震断層を出現させている。一方この地域にはリニアメントが数多く分布する(活断層研究会1980)が、系統的な変位地形をもつ活断層は少ない(中田今泉編2002)。最近の調査で認定された活断層の特徴をまとめ、その発達史的意味や認定に当たっての留意点について述べる。
    2 最近の調査によって認定された活断層 この地域では最近の詳細な地形判読(たとえば田力ほか2012)や綿密な地質調査(たとえば佐川ほか2008)によって新たに数本の活断層が認定されている。さらに筆者のちょうさによって京都府福知山市に段丘堆積物を切る断層露頭を伴う断層が見出された。これらは中田今泉編(2002)では一部しか活断層として認定されていない、ないしまったく認定されていなかったものである。これらの活断層は山地・丘陵に位置しており、段丘面のような良好な変位基準を持つ部分はごくわずかである。また、いずれの活断層も直線状に並ぶ斜面の傾斜変換線(遷緩線)や直線状の谷によって特徴づけられ、部分的に沢や尾根の小規模な屈曲が認められるものの、系統的な変位落ち径が長い区間で連続することはない。
    3 構造発達史からみた北近畿と中国地方の活断層の特徴 近畿三角地帯以西の中央構造線北側、すなわち北近畿地方と四国北部から中国地方は、東進するアムールプレートの南東部に位置するとぴう考えがある(小松原2015)。この考えを採用するなら、当地域の活断層はアムールプレートの東進が顕著になった前期更新世末期から中期更新世初頭以降の、せいぜい100万年間しか活動していないことになる。一方山崎断層を除くこの地域の活断層の平均変位速度はおそらく郷村断層と同程度ないしそれ以下である可能性が高い。この平均変位速度と前述の活動期間から、当地域の活断層の総累積変位量はそれぞれ300メートル以下と推定される。この累積変位量は沢や尾根の最大屈曲量と調和的である。また、金田(2006)は平均変位速度が小さな横ずれ断層では削剥作用などによって沢や斜面のずれ変位が打ち消されて地形的に残存しなくなることを報告している。このような外的作用による変位地形の消去が確率論的なばらつきを持つことを考慮するなら、総変位量が小さいことはより変位地形が残る可能性を低くするように作用すると考えられる。こうした構造発達史的背景から、北近畿~中国地方の活断層は元来地形的に認識しにくいものがおぽピノではないだろうか。
    4 活断層の存否を明らかにする上での留意点 以上のように北近畿と中国地方(および四国北部と瀬戸内海も)の活断層が地形的に認識しにくく、変位地形の系統性を重視する現行の地形判読手法では見落とされることが多かったことは、構造発達史的観点からみればむしろ当然といってもよい理由があると演者は考える。歴史地震において事前に認識されていなかった活断層が活動したことも、同様に説明できると演者は考える。一方でこうした地域にあっても浅い大地震が発生する危険があることは歴史地震の事例から明らかであり、地震発生危険度評価を適切に行うためには活断層を正確に認定することが重要な意味をもつことは言を俟たない。この地域で活断層を認定するにあたっては他の地域とは異なって特に微小な変位地形や系統性の乏しい変位地形を伴うリニアメントを抽出したうえで綿密な地質調査を行うことが求められる。
    文献
    活断層研究会 1980 東京大学出版会
    金田 2006 月刊地球号外54 79 84
    小松原 2015 活断層研究 43 17 34
    佐川ほか 2008 応用地質 49 78 93
    田力ほか 2012 日本地球惑星科学連合大会予稿集 SSS35P30
    中田今泉 2002東京大学出版会
  • 岩井 優祈
    セッションID: 502
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/26
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    本研究は,GISを用いて津波の侵入速度モデルを実際の地域に適用することで,津波遡上後の経過時間を考慮した被害の時空間変化を表す4Dハザードマップの構築を試みる.研究地域は,津波による想定死亡者数が全国1位の約95,000人(内閣府2012)とされる静岡県の中でも,平野が広がるため内陸まで広範囲の浸水が予想される浜松市沿岸部を選定した.
    モデルを構築した結果,住宅密集地では住宅が津波侵入の障害となり,速度が低下する状況を反映することができた.また,陸上における津波の伝搬時間ごとに浸水域メッシュを分割することで,海岸付近に立地する津波避難施設から順に使用不可能になる状況を示すことができた.これをもとに,津波到達時間ごとに異なる津波避難施設への避難可能時間を考慮したネットワークバッファを発生し,人的被害を算出した結果,①早期避難率が高く,避難の呼びかけが効果的に行われた場合では,避難未完了者の人数は27,252人,②早期避難者比率が低い場合では,46,699人になることが明らかになった.
  • 北海道におけるコストに着目した事例
    板谷 侑生
    セッションID: P032
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/26
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    Ⅰ.はじめに
      本研究では、財政負担を抑えたインフラ整備が必要とされる日本で、2025年までに一般廃棄物焼却施設(以下、焼却施設とする)を削減することでごみ処理の広域化を実現する場合に、どこの焼却施設を廃止し、どこの焼却施設に統合させるのがよいのかをコストに着目し検討した。2025年という時代設定については、1990年代後半に都道府県と国がごみ処理の広域化を推進してから約30年が経つことから、当時建設された焼却施設が耐用年数を迎えることが想定されるためである。
    Ⅱ.研究の方法と調査の概要
     研究対象とした焼却施設は、全国と比べて人口減少速度が速く、道央への人口集中が日本の縮図と言われる北海道にある、52箇所の焼却施設のうち離島(利尻島、礼文島、奥尻島)の3箇所を除く49箇所である。
     まず、道内で2025年までに耐用年数を迎える焼却施設23箇所を抽出し、それらの焼却施設を廃止とする場合に行き場を失うごみを近隣の焼却施設で受け入れ可能かを検討した。検討では環境省公表の焼却施設ごとの年間処理量と1日あたり処理可能量のデータを利用し、ごみの処理にまだ余裕がある焼却施設を探した。次に、焼却施設が廃止となる際に行き場を失うごみを受け入れ可能な焼却施設が見つかった時は、廃止となった施設跡地に新規の焼却施設を建設した場合と、受け入れ可能施設にごみを運ぶために廃止施設跡に中継輸送施設を建設し、そのごみを受け入れ可能施設に輸送する場合のコストを比較し、よりコストのかからない方を採用した。近隣に受け入れ可能焼却施設が複数個所存在する場合は、ESRIジャパン株式会社の『ArcGISデータコレクション道路網2015』の道路ネットワークデータを利用し、最も輸送コストのかからない焼却施設を比較対象とした。他にも様々なパターンが存在し、それに合った方法でコストを比較し、よりコストのかからないものを採用した。
    Ⅲ.結果と考察
     本研究のシナリオに基づくと、現在52箇所存在する北海道内の焼却施設は33箇所に削減されることになる。廃止対象となる焼却施設の多くは人口低密集地域に立地し、なおかつ小規模な焼却施設が多い傾向にある。これらの焼却施設は近隣の大規模施設に統合される形で広域化が進められることになる。この結果は、処理圏の再編は、大都市圏やその郊外地域よりもむしろ農村地域に生じやすいとした(栗島2004)の通りである。
     しかし、依然として国が最低限の目標とする100t/日の処理量を満たしていない施設も多く、国が示す目標の達成を目指すならば、さらに長期的な視点を持って統廃合の検討を行う必要がある。また、本研究はコスト面からの比較に重点を置いており、自治体の政治・経済の力関係など、他に検討するべき要素も多い。
  • 周辺地域への展開
    飯島 慈裕, 咏 梅, ナンディンツェツェグ バンズラグ, 篠田 雅人
    セッションID: P026
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/26
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    1. はじめに
    「乾燥地災害学の体系化」(略称、4Dプロジェクト)は、ユーラシア乾燥地に特徴的な4種類の自然災害である砂塵嵐、干ばつ、砂漠化、ゾド(寒雪害)を対象とし、これらの災害発生の季節連鎖、気候メモリ効果の相互作用系を解明しつつ、災害の重なり合いがもたらす社会的影響を分野横断的に解明し、具体的な対応策を提言する学融合研究である。主な対象地域をモンゴル国に集約して研究が進められてきたが、これらの災害をもたらす気候や陸面状態は、広くユーラシアのステップ地域に共通しており、地域をまたいだ災害現象の理解、その影響評価を行っている。
    本発表では、モンゴルで冬のゾドをもたらした寒気形成に関してカザフスタンと比較した事例、干ばつ年前後の植生変動にモンゴル・内モンゴル間で地域差がみられた事例を紹介し、4D災害の地域間比較とそれらへの対応の共通性について議論する。  

    2. 北極由来の寒気形成(カザフスタン地域との比較)
    2009/2010年冬季にモンゴルで発生したゾドは、12-2月にかけて毎月1、2度の頻度で、1週間程度持続する強い寒気形成が気候的にみた災害要因と考えられている(Iijima and Hori  2017)。そのトリガーは、北極からユーラシア大陸上空への寒気移流である。近年の北極海の海氷減少によって、バレンツ海での地上気温の南北勾配が北偏することで、シベリア高気圧が北西に張り出す。この気圧配置下で、中央アジア(カザフスタン周辺)に寒気が入り、東進してモンゴルにいたる事例が観察された(図1)。この一連の現象は、10日-半月程度で伝播するため、北極の気圧場の変調から、中央アジア付近の寒気の移流・蓄積にいたる過程は、ゾドの中期予報に重要な意味をもつ。
    また、地表面での強烈な寒気形成には、積雪被覆による放射冷却の促進も重要な意味をもつ。2009年12月初旬には、ユーラシア大陸、北緯40-50度の東西にわたって、積雪面積が平年より早く南進した。このため、寒気移流後の放射冷却が強化され、10日程度、安定した接地逆転層が持続した。このように、積雪面積拡大時期と寒気移流の組合せを考慮することで、より広域的なゾド予測が可能になる。  

    3. 植生脆弱性のホットスポット (内モンゴル地域との比較)
    1999-2002年夏季に、モンゴルから内モンゴルにかけて広域で干ばつが発生した。干ばつにともなう植生の減少およびそれからの回復過程を調べるため、前者では干ばつに対する植生の敏感度を、後者は回復度を評価した(Shinoda et al. 2014)。
    モンゴル・内モンゴルでは、砂漠ステップからステップ地域で敏感度よりも回復度が大きい傾向がある。この非対称な応答は、回復過程で一年生草本の増加が大きく、草原の種組成が変化したことに起因する。モンゴルに比べて内モンゴルではより強い回復度を示しており(図2; 第2象限方向のベクトル)、同様の種組成の変化に加えて、放牧の抑制による放牧圧の低下が関係しているものと考えられる。
    干ばつからの植生回復度が高い内モンゴル地域では、夏に続く冬~翌春に植物枯死体が地表面に残ることで、春先のダスト発生の臨界風速が上がるメモリ効果が確認されている(Yongmei et al. 投稿中)。モンゴル・ゴビ砂漠から内モンゴルにかけては、干ばつからの回復過程にある植生や土壌水分によるダスト抑制効果に地域差があるものと考えられ、砂塵嵐対策を行う場合、地域に応じて、植生回復度を高める要因とその効果の理解が重要となる。
  • 土建会社の現場写真にもとづく景観復原
    加藤 政洋, 前田 一馬, 柿木 崇宏
    セッションID: P050
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/26
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    Ⅰ 戦後沖縄の基地建設
    戦後,米軍の統治下におかれた沖縄では,中華人民共和国の成立,朝鮮半島の動乱などを背景に,恒久的な軍事基地の建設が進められる.1950年代前半の基地建設を考えるにあたって重要なのは,リビー,デラ,グロリアという3つの台風が相次いで沖縄を襲い,米軍の施設に大打撃をあたえていたことである. とりわけグロリア台風による被害は甚大で,恒久的な基地の建設とは,すなわち耐風強度の高い建造環境の構築を意味していた.注意すべきは,滑走路や格納庫,あるいは司令塔といった軍事にまつわる中核的な施設のみならず,階級に応じた宿舎・住宅の建設も含まれていたことだ. 本研究では,嘉手納基地の建設工事に参入した本土企業の記録写真を手がかりにして,基地建設の一端というべき,住宅地区の開発と住宅建設の風景を復原してみたい.  

    Ⅱ 嘉手納基地の概要
    嘉手納基地(Kadena Air Base)は,総面積約20㎢,全長3,700mの滑走路を2本備えた,極東最大のアメリカ空軍基地である.1943年9月から日本陸軍航空本部によって建設された飛行場を,米軍が1945年の上陸後に接収して拡張・強化し,現在に至る. 基地の範域は沖縄市・嘉手納町・北谷町という1市2町にまたがり,フェンスで仕切られた域内には,「滑走路,駐機場,格納庫」などが主として嘉手納・北谷側にある一方,沖縄市側には「軍人,軍属,家族の生活の場として,兵舎,家族住宅,病院,ショッピング,スポーツ,娯楽,保養の諸施設が完備され」,さながら「ひとつの都市を形成している」かのようであった. 基地内の主要な建築に関して,少なくとも数の上で目を引くのが,住宅(将校宿舎,兵員宿舎,家族住宅)約1,300棟,計1,704戸である.基地という空間は,軍事力とそれを支える物的基盤(インフラストラクチュア)のみならず,軍人(とその家族)にとっては生活空間でもあるのだ.  

    Ⅲ 隅田建設の家族住宅建設
    沖縄の基地建設工事には,「対日経済援助の一環」として「占領軍関係の工事で施工技術の優秀さを認められた大手建設業者」の参入が認められたことから,20を超える本土企業(大手のゼネコン)が進出してゆく.このうち,嘉手納の家族住宅建設を落札したのが,隅田建設工業であった. 隅田建設は,どうやら現存しておらず,大手ゼネコンのように社史を残しているわけでもないので,詳細はさだかでないのだが,東京に本社を置く中堅的な規模の企業であったようだ.同社は1951年末から1953年にかけて瑞慶覧(現キャンプ・フォスター)と嘉手納で計465棟の住宅建設を請け負っている.

    Ⅳ 資料と方法
    本研究で主たる資料としたのは,隅田建設の社員が撮影したと思しき写真(171枚)を収録したアルバムである.クレジットやキャプションはないものの,重機による土地の造成から,基礎工事,上屋建築,瓦葺き,完成姿,室内の様子までが写されている.ほかにピクニックの写真なども含まれているが,ここでは基地内の写真に限定して分析した. 具体的な手続きとしては,貼り込まれた順番を考慮しつつ,想定される工程順に写真を整理し,写り込んだ丘陵・道路・建物などを地形図・空中写真・Google Earthと照合して,それぞれの撮影ポイントを特定した.

    Ⅴ 結果
    上記の分析により,1)住宅地開発に使用された重機の種類と地形改変の状況,2)各工程における景観の諸相,3)将校クラス家族住宅の分布する範囲,そして4)個別の撮影対象となった住宅の立地を明らかにするにいたった. 興味が持たれるのは,道路網も住宅(の配置)も,1952年当時とほとんど変化のないことである.つまり,米軍は60年以上にわたって基地内の建造環境を維持してきたのであり,この点で,1950年代初頭の基地建設に際して謳われた「恒久」性は,たしかに実現されていたことになる.基地が周辺部の土地利用(なかんずく都市化)に多大な影響を及ぼしたことを考えるならば,今後は基地内に布置された建造環境の様態を明らかにすることで,基地そのものの空間性を問うことも必要になると思われる.

    [文献]沖縄市企画部基地対策課編『基地と沖縄市 昭和53年度版』沖縄市,1979年,15頁.
    [付記]本報告の調査では,科学研究費補助金(課題番号:17K03264)を使用した.
  • 災害管理への展開
    立入 郁, 黒崎 泰典, ナンディンツェツェグ バンズラグチ, エルデネツェツェグ バサンダイ, アリウナ チャドラバル, バトヨン ツェレ ...
    セッションID: P025
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/26
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    「乾燥地災害学の体系化」(略称:4Dプロジェクト)は、ユーラシア乾燥地に特徴的な4種類の自然災害である砂塵嵐、干ばつ、砂漠化、ゾド(寒雪害)を対象とし、これらの災害の相互作用を念頭においた体系的解明とともに、その成果を現地(主にモンゴル)における災害の被害低減に役立てることをめざした野心的な研究プロジェクトである。本発表では、このプロジェクトの大きな特徴である、現地社会への実装について報告する。より迅速なリスク情報提供の要請があった干ばつ・ゾドと砂塵嵐については既にリスク情報提供システムが稼働しており、砂漠化については現在リスクマップ作成が進められている。
  • 持続可能なへき地教育の体系の構築に向けて
    河本 大地, 板橋 孝幸, 岩本 廣美
    セッションID: 209
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/26
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    Ⅰ.背景と目的
    日本では公立学校の統廃合が加速化している。文部科学省による2015年「公立小学校・中学校の適正規模・適正配置等に関する手引」では、学校規模の適正化として、クラス替えができるかどうかが判断基準とされている。また、学校の適正配置として、スクールバス等でおおむね1時間以内を目安にするという基準が加えられた。 へき地小規模校の数は著しい減少には、以下の問題があると考えられる。第一は、地域社会の維持・発展に制約がもたらされることで、従来から多く指摘されている。第二に、通学する児童・生徒に大きな負担を強いる。第三に、へき地に暮らす子どもたちの地域学習の機会の減少・喪失が挙げられる。第四に、自然に即した暮らしの可能性を大きく制限してしまう。 へき地小規模校は、都市部の大規模校ではできない教育実践が多々ある中、それらのアンチテーゼの存在であり得る。また、学校統廃合に関して1か0かの二択ではない適応力と弾力性に富む実践や工夫が地域には存在するはずであり、それらに光を当てることには社会的な意義がある。 本研究では、地域多様性を守り育む学校教育システムとして、沖縄島の北端に位置する沖縄県国頭郡国頭村の事例を把握する。国頭村には村立の小学校が7校、中学校が1校ある。へき地小規模校5校(いずれも小学校)で学ぶ魅力を高めつつ、規模の比較的大きな2つの小学校や1校に統合されている中学校をも含めた教育システムを構築し、学力向上を含むさまざまな成果を出している。それに対し、筆者らの所属する大学のある奈良県をはじめ全国各地では学校の統廃合が進み、1自治体に小学校と中学校が各1校か2校、あるいは併置の形で1校となっている場合も多い。両者は小規模な小学校の維持・発展に関して対照的であるが、学校の統廃合が地域多様性の観点からマイナス要因となることも多い中、国頭村の事例は全国的に持続可能なへき地教育の体系を構築していくためのヒントとなり得る。  

    Ⅱ.方法
    2017年3月に国頭村を訪問し、教育委員会指導主事、各へき地小学校の校長のほか、教職員や児童、地域住民にも随時、地域事情や教育に関する聞き取りを行った。訪問校では、施設の見学や授業参観も実施した。教育委員会では地域学習副読本も入手した。さらに、地域学習で扱われる村内の施設や場所を視察した。 事前・事後には、各校のウェブサイトに掲載されている情報の収集や、国頭村の教育事情や人口・産業・生活等に関する文献資料の収集を行い、発表者間で議論をし、考察を加えた。  

    Ⅲ.結果と考察
    国頭村では、持続可能なへき地教育の体系を実現すべく、地域の持続と子どもの能力向上を図るための多大な努力が払われている。そこにおいて鍵になるのは、各校および各校区の努力のみに任せず、村全体としての教育システムをつくりあげている点である。具体的には、小規模校のへき地教育対策として、近隣の小規模校同士の集合学習や合同学習など日常的な教育活動、児童数の多い小学校2校との交流学習を推進し、子どもたち同士をつなげるさまざまな取り組みが行われている。さらに、子どもたちだけでなく、教育システムを支えるために教員研修も連携して実施され、同僚性の構築が進められている。小規模へき地小学校もそうでない小中学校も含んだ形で、村全体で「学びの共同体」理念を導入し成果を上げている点は、特筆に値する。また、村の公認のもと、多様な学校間連携の形を実現させ、小規模へき地校のメリットの伸長とデメリットの克服を同時に行っている。 国頭村の事例からは、小規模へき地校のよさを活かし地域多様性を持続させるには、各校・校区の自助努力にゆだねるのではなく、行政や教育委員会が小規模へき地校やそれが存在する地域の価値をきちんと理解したうえで、それらを維持・発展させる教育システムを構築することが重要と言える。
  • 菊池 慶之, 手島 健治
    セッションID: P047
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/26
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    はじめに
    日本において不動産証券化が本格的に開始されてから,既に20年弱が経過している.しかし不動産証券化の実態やその広がりが,地域経済に与えている影響は必ずしも明確ではない.三井住友基礎研究所『不動産私募ファンドに関する実態調査2017年1月』によれば,不動産証券化の主体であるJリートと私募ファンドの運用資産額は,2015年末で28.8兆円に及ぶ.日本の法人が所有する収益不動産は68兆円とされているので,法人などにより賃貸されている不動産の約4割が証券化されている計算となる.これまで日本の主要な不動産資本と考えられてきた金融・保険業の9.5%,鉄道業の3.0%注1)などと比較してもきわめて高い.
    一方で,不動産証券化の分布形態やその形成要因,地域経済との関係性を扱った研究は少ない.例えば矢部(2008)は,マネーフローに着目して地価や不動産開発に与える影響を分析しているものの,対象地域は東京23区に限られている.また松岡(2012)はJリートの保有物件の全国的な分布状況を示しているが,不動産証券化のおよそ半分を占める私募ファンドの状況については言及していない.このように不動産証券化全体を空間的に取り扱った研究が無いのは,不動産証券化の制度や仕組み自体が複雑であることに加えて,投資家や保有物件に関わる情報の匿名性が高く,空間的な分析にたえる統計データが存在しないことによるものといえよう.
    そこで本研究では,公的認可の縦覧資料,不動産取引情報,民間のデータベンダーからの資料等を利用するとともに,不動産投資ビークル自体の属性や資金の供出者についても類型化し,日本の証券化不動産に関する包括的なデータベースを作成した注2).これに基づき,不動産投資ビークルの資金属性(国内,海外,Jリート)及び,証券化不動産の用途(事務所,住宅,商業施設,物流施設,その他)別に不動産証券化の地域的展開の差異を検討する.

    分析と考察
    本研究では2001年から2015年にかけて証券化ビークルによって取得された7,735件の不動産を分析した.この結果,不動産証券化の展開は,2008年のいわゆる「リーマンショック」の前後で大きく変化していることが明らかになった.第1に,海外投資家の存在感の高まりで,私募ファンドでみると海外投資家の比率が件数・金額ともに大きく上昇している.またJリートにおいても資産運用会社が海外資本である比率が高まっている.第2に証券化不動産の用途の多様化がある.2007年まではオフィス,住宅,商業施設で8割を占めていたが,2008年以降では7割に低下し,物流施設,宿泊施設,ヘルスケア施設などが増加した.次に空間的な視点から見ると,私募ファンドの海外投資家は国内投資家に比べて東京圏・名古屋圏での投資割合が低く,大阪圏と地方圏での投資割合が高い.また,証券化不動産の用途別に東京圏の投資割合(件数)を見ると,オフィス79.6%,住宅71.1%,物流施設60.7%,商業施設56.6%,宿泊施設39.7%,ヘルスケア施設38.2%となる.
    以上の点から,地方圏への投資態度が積極的である海外投資家の存在感の高まりと,東京圏以外でも証券化されやすい用途への投資対象の拡大が,日本における不動産証券化の空間的な拡大を牽引していると言えよう.

    注1)国土交通省『平成25年法人土地・建物基本調査』における貸付目的で所有している部分のある工場敷地以外の建物資産額の,各業種が全体に占める構成比.
    注2)菊池・谷(2013)『不動産証券化の展開が都市空間の再編に及ぼす影響に関する研究』(平成24年度国土政策関係研究支援事業)において作成したデータベースを更新・修正したものである.

    参考文献
    松岡恵悟(2012), 日本における不動産資本の地域的展開と主要都市の建造空間の形成について, 立命館地理学, 24, 19-30.矢部直人(2008), 不動産証券投資をめぐるグローバルマネーフローと東京における不動産開発, 経済地理学年報 54, 292-309.

    *本研究は日本証券奨学財団平成28年度研究調査助成(「不動産証券化の地域的偏在要因と地方都市での拡大に向けた社会・経済的課題に関する研究」)の成果の一部である.
  • 家畜体重プロセスモデルの可能性
    立入 郁, 小宮山 博, 森永 由紀, 篠田 雅人
    セッションID: 610
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/26
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    「乾燥地災害学の体系化」(略称:4Dプロジェクト)は、ユーラシア乾燥地に特徴的な4種類の自然災害である砂塵嵐、干ばつ、砂漠化、ゾド(寒雪害)を対象とし、これらの災害の相互作用を念頭においた体系的解明とともに、その成果を現地(主にモンゴル)における災害の被害低減に役立てることをめざした野心的な研究プロジェクトである。本プロジェクトでは迅速な導入の必要性と使いやすさから経験的な手法を用いた災害リスク評価マップが開発・実装されたが(乾燥地災害学の体系化(3)ポスター)、温暖化の進展や社会条件の変容など各種条件の変化が起こりつつあることを考慮すると、プロセスモデルの利用も検討されるべきである。本発表では、エネルギーバランスに基づく家畜体重モデルの災害管理への利用可能性を検討する。
  • 菅野 洋光, 西森 基貴, 遠藤 洋和, 吉田 龍平, ヌグロホ バユ ドゥイ アプリ
    セッションID: 703
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/26
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    北日本における4月と8月の月平均気温は、季節が異なっているにもかかわらず、1998年以降、強い負の相関関係を示している(Kanno,2013)。前回の大会では、これがIPOにより判別される気候ステージ(-IPO)で発現しており、ラニーニャモードによるSSTの応力の弱さと偏西風循環に内在された独自の変動に影響されている可能性があることを指摘した。また、インドネシア付近の対流活動の重要性についても明らかにした。今回は、対流活動の中心に位置するインドネシアの農作物生産性の変動について、IPOに基づく気候ステージを考慮した解析を行った。
    北日本の月平均気温偏差は気象庁HPよりダウンロードした。客観解析データはJRA55を、多変量解析は気象庁のiTacs (Interactive Tool for Analysis of the Climate System)を用いて行った。インドネシア農作物収量データは、イネ、トウモロコシ、ダイズの3種類で、1993年~2015年の期間、34の州のデータをインドネシア農業省より入手した。このうち、26の州についてはデータの欠落がなく、以下の解析にはそれらのデータを用いている。一般に途上国での農作物生産性は、栽培技術の進歩により時間の経過とともに増加する。そこで本研究では、全期間のデータに一次回帰計算を行い、回帰式からの偏差を解析対象データとした。また、近年の気候ステージについては、England et al.(2014)によるIPOのステージ区分を用い、また生産性と海洋変動との比較には、標準的なPDOインデックスを用いた。
    図1にはインドネシアにおけるイネの生産性の一次回帰式からの偏差と年平均PDOインデックスの時間変化を示す。全期間(1993-2015年)を通すと相関係数は0.34となり、統計的に有意ではない。そこで、IPOによる気候ステージを考慮して、2001年以前(概ね+IPO)と2002~2013年(概ね-IPO)とで分けると、前者はR=+0.78、後者はR=-0.70で、ともに危険率5%以下で統計的に有意となった。また、エルニーニョが発生した2014年以降は、一転して同時的な変動に移行したようにみえる。トウモロコシでは、イネと同様に、全期間を通すとR=0.22となり、統計的に有意ではないが、IPOステージを考慮すると、2001年までがR=0.84、2002~2013年までがR=0.71となり危険率1%以下で統計的に有意となる(図略)。図2にはダイズの例を示す。こちらはIPOステージとの関係は明瞭ではなく、全期間を通して有意な正の相関を示す(R=0.57)。このような作物ごとの差異についてその原因を考察するため、JRA55を用いたインドネシア域(10S-5N,  95E-140Eの矩形領域)における年積算解析降水量を計算し、PDOと比較した(図3)。その結果、全期間を通して降水量とPDOは負の相関を示し(R=0.67)、特に1997年以降が明瞭でR=0.76となる。すなわち、イネ、トウモロコシの生産性については、-IPO期間は降水量の年々変動に強く影響されていることが分かる。また+IPO期間については数年の幅はあるが、PDOと降水量とが比例している時期と重なっており、こちらも概ね降水量に影響されていると言える。一方、ダイズについては解析期間を通してPDOと正の相関を持ち、イネ、トウモロコシとは異なった変動を示している。これは、インドネシアではダイズはmain cropではなくcatch cropであるため、特に-IPO期間ではイネ、トウモロコシが不作の際に補完的に作付けられ、それが降水量変動と負の関係を示す原因として考えられる。
  • 「地理総合」を視野に
    谷 謙二, 斎藤 敦
    セッションID: 211
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/26
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    1.はじめに
    高等学校の「地理総合」は、2016年12月の中央教育審議会答申(中教審第197号)において、「歴史総合」とともに地理歴史科の必履修科目に位置づけられた。そこでは、地図やGISなどを用いる汎用的で実践的な地理的技能の修得が、主要な柱の1つ位置づけられた。このGISの利用に関して問題となるのが、担当する教員の技能や、高校のICT設備である。これまでも、高等学校におけるGIS利用に関しては、いくつか調査がなされてきたが(福田・谷2003;大島2013;加藤2015)、地域や対象者が限定的だった。そこで、「地理総合」の学習指導要領の告示を前に、高等学校におけるGIS利用の全国調査を実施した。
    対象としたのは、全国の公立高等学校・中等教育学校であり、4割1331校を無作為抽出した。抽出された高校に対して郵送による調査を行い、474校(35.6%)から回答が得られた。質問項目は、地理の開講状況など学校に関する項目と、GISの利用経験など回答者に関する項目に分かれている。 

    2.学校に関する項目
    学校に関する質問事項では、まず地理A//Bを開講していない学校が11.0%あった。普通教室の設備では、教室内にパソコンの画面を投影できる設備が設置されている学校が20.9%、持ち運び可能な備品がある学校が62.4%、ない学校が16.7%だった。さらに、教室内に投影設備があり、かつ有線または無線LANに接続できるとした回答は14.6%だった。WebGISを普通教室で使用するには、最低限パソコンの投影装置が必要だが、教室に設置されている高校は少なく、また、ネット接続も不十分であり、簡便な利用は難しい状況である。

    3.教員に関する項目
      教員に関する項目は、各学校の社会科(地理歴史・公民)担当教員のうち、地理を専門とする教員がいる場合は当該教員が回答し、そうでない場合は他の教員が回答するように依頼した。その結果、回答者で地理を専門とすると回答した者は58.9%と、地理を専門とする教員のいない高校も多いことがわかる。回答者の年齢では50歳代が最も多く、大学でGISの授業を受けた経験を持つ者は14.6%に過ぎない。GISについて「内容も名前も知らなかった」との回答が9.3%あった。
    GISの研修を受けたことのある者は14.1%で、うち「企業や学会、研究会やNPOの主催」「教育委員会による研修」「所属部会・サークルの主催」「教員免許状更新講習」がそれぞれ35.8%、31.3%、29.9%、17.9%であった。研修内容ではGISの使い方が82.1%で、GISを使った指導法は35.8%だった。このように研修の主体はさまざまだが、研修内容はGISの使い方が中心である。
    地理の授業でのGISの扱い方では、「GISの概念を説明するにとどめる」が63.3%で、実際にGISを授業で活用したことのある者は23.8%だった。歴史・公民系科目でも使われているが、多くは地理A/Bである。最も使われているソフトはGoogle Earthで、授業でのGIS利用者の80.5%が使用していた。Web地図サービスの利用では、Googleマップ等一般の地図サイトが84.1%、地理院地図が70.8%だった。今後期待されるGISの種類をみると、GISの利用者ではWebGISへの期待が高く、非利用者では使用イメージが湧かないためか、「わからない」が最も多かった。
    GISを利用する上での課題を自由記述で尋ねたところ、圧倒的に多かったのは設備に関する問題で191件にのぼり、ついで時間の問題が72件、教員の問題が59件と続いた。
    以上から、「地理総合」でGISを導入する際には、高校でのICT機器の整備がまず前提にあり、並行して研修を進めていく必要があると言えるだろう。

  • 熱帯中核域と亜熱帯域の比較研究
    藤本 潔, 小野 賢二, 渡辺 信, 谷口 真吾, リーパイ サイモン
    セッションID: 606
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/26
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    1.はじめに

    マングローブ林は、地球上の全森林面積の1%にも満たないが、潮間帯という特殊環境下に成立するため、他の森林生態系に比べ、地下部に大量の有機物を蓄積している。しかし、その主要な供給源である根の生産・分解プロセスは不明のままであった。そこで本研究では、主として細根の蓄積・分解速度を、樹種別、立地環境別に明らかにすることを目的とする。対象地域は、熱帯湿潤環境下のミクロネシア連邦ポンペイ島とマングローブ分布の北限に近い亜熱帯環境下の西表島とする。対象樹種は、アジア太平洋地域における主要樹種で、ポンペイ島はフタバナヒルギ(Rhizophora
    apiculata
    )、ヤエヤマヒルギ(Rhizophora stylosa)、オヒルギ(Bruguiera
    gymnorrhiza
    )、マヤプシキ(Sonneratia alba)、ホウガンヒルギ(Xylocarpus
    granatum
    )、西表島はヤエヤマヒルギ、オヒルギとする。

    2.研究方法

    各樹種に対し、地盤高(冠水頻度)の異なる海側と陸側の2地点に試験地を設置し、細根蓄積速度はイングロースコア法、分解速度はリターバッグ法で検討した。イングロースコアは径3cmのプラスティック製で、約2mmのメッシュ構造となっている。コアは各プロットに10本埋設し、1年目と2年目にそれぞれ5本ずつ回収した。コア内に蓄積された根は生根と死根に分け、それぞれ乾燥重量を定量した。コア長は基盤深度に制約され20~70cmと異なるが、ここでは深度50cmまで(50cm未満のコアは得られた深度まで)の値で議論する。リターバッグにはナイロン製の布を用い、径2㎜未満の対象樹種の生根を封入し、各プロットの10cm深と30cm深に、それぞれ3個以上埋設した。

    3.結果

    1) 細根蓄積速度

    ポンペイ島では、現時点でフタバナヒルギとヤエヤマヒルギ陸側の2年目のデータが得られていないため、ここでは1年目のデータを用いて検討する。細根蓄積量(生根死根合計)は、海側ではいずれの樹種も40~50 t/ha程度であったが、陸側では、ヤエヤマヒルギ、マヤプシキ、およびオヒルギが25 t/ha前後と相対的に少なかった。樹種毎に海側と陸側で比較したところ、フタバナヒルギの死根と生根死根合計、マヤプシキの生根と生根死根合計、オヒルギの生根死根合計で海側の方が陸側より有意に多かった。樹種間で比較すると、海側の生根はマヤプシキが有意に多かった。陸側の死根は、ヤエヤマヒルギがオヒルギ、マヤプシキ、フタバナヒルギより多い傾向にあり、陸側の生根死根合計は、ヤエヤマヒルギとホウガンヒルギがオヒルギ、マヤプシキ、フタバナヒルギより多い傾向にあった。海側の死根は、マヤプシキがヤエヤマヒルギ、オヒルギ、ホウガンヒルギより有意に少なかった。

    西表島の1年目の細根蓄積量は、ヤエヤマヒルギが海側で6 t/ha、陸側で9 t/ha、オヒルギが海側で4 t/ha、陸側で6 t/haであった。海側と陸側で比較すると、1年目、2年目共、いずれの樹種も有意差はみられなかったが、樹種間では2年目の陸側生根でヤエヤマヒルギがオヒルギより有意に多かった。標高がほぼ等しいヤエヤマヒルギの陸側とオヒルギの海側では有意差はみられなかったが、ヤエヤマヒルギの海側とオヒルギの陸側では前者が有意に多かった。

    ポンペイ島と西表島で比較すると、ポンペイ島の方がヤエヤマヒルギで約7倍、オヒルギで4~7倍多かった。ただし、地上部バイオマスは、西表島のヤエヤマヒルギ林が80 t/ha、オヒルギ林の海側が54 t/ha、陸側が34 t/haであるのに対し、ポンペイ島のヤエヤマヒルギ林は216 t/ha、オヒルギプロットの林分は499 t/haであった。すなわち、地上部バイオマスはポンペイ島の方がヤエヤマヒルギ林で約2.7倍、オヒルギ林で9.2~14.6倍多く、ヤエヤマヒルギは地上部の相違以上に地下部の相違が大きいのに対し、オヒルギは地上部の相違ほど地下部の相違は大きくなかった。

    2)分解速度

    ポンペイ島におけるリターバッグ設置1年後の残存率は、ヤエヤマヒルギの海側10cm深で7.7%と極端に低く、フタバナヒルギの陸側30cm深とオヒルギは60~85%と相対的に高かった。他の樹種はおおよそ40~50%程度であった。西表島はいずれも50~60%で有意差はみられなかった。
  • 梶山 貴弘
    セッションID: P039
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/26
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    1 はじめに
    学術界に留まらず,国,地方自治体および産業界などのさまざまな分野で利用されているGISは,その有用性の評価が高まるのに伴って,高等学校地理歴史科の地理系科目の学習指導要領にも,活用が盛り込まれるようになった。このため,地理教員を目指す大学生,あるいは現役の地理教員に対して,地理教育における一定レベルのGIS技術の修得は必修であり,またGISを活用した地理教材の作成が求められている。
    GISの活用において,衛星画像による土地被覆分類は,地表面の状態を把握することに繋がる。またその成果物である土地被覆分類図は,GIS上において他の主題図と重ね合わせることによって,地表面の状態の分布およびその変化の要因を生徒に理解させることに役立ち,地理教材として有効である。
    GISソフトウェアの中でもArcGIS(ESRI社製)は,衛星画像による土地被覆分類の解析における操作性が高いソフトウェアである。ArcGISは,世界標準的なGISソフトウェアであり,ほとんどの大学の地理学教室にも整備されている。そのため地理学専攻の大学生においては,見慣れたソフトウェアと言えよう。
    そこで本報告では,地理教員を目指す大学生および現役の地理教員を対象に,地理教育におけるGIS技術の修得とその活用を目的として,ArcGISを用いた衛星画像による土地被覆分類図の作成方法について紹介する。なお,本報告ではArcGIS10.2 for Desktopを使用するが,ArcGIS 10以上のバージョンであれば,操作方法に大きな違いは無い。ただし解析には,SpatialAnalystエクステンションツールが必要である。

     2 ArcGISを用いた土地被覆分類図の作成方法
    (1)解析の流れ
      土地被覆分類図を作成するためには,衛星画像の取得,その表示,および土地被覆分類の順に解析する必要がある。また土地被覆分類は,教師無し土地被覆分類と,教師付き土地被覆分類図の2手法に大きく分けられる。本報告では,両方の手法による土地被覆分類図の作成方法について紹介する。

    (2)衛星画像の取得および表示
      使用する衛星画像は,無償のデータを利用するのが現実的であろう。衛星画像のうち,Landsat画像は,長期間のデータが蓄積されており,USGSのリモートセンシングデータ検索ウェブサイト(Earth
    Explorer;URL:https://earthexplorer.usgs.gov/)から無償で取得することが出来る。このLandsat画像は,オルソ補正済み画像であることから,そのままArcGISに読み込んで表示させることが出来る。
    一方,土地被覆分類をおこなうためには,マルチバンド画像を作成する必要がある。マルチバンド画像は,ArcToolboxの“データ管理”ツールボックスのうち,“コンポジットバンド”ツールを用いて作成することが出来る。

    (3)教師無し土地被覆分類図の作成
    教師無し土地被覆分類図は,ArcToolboxの“Spatial Analyst”エクステンションツールボックスのうち,“ISOクラスタの教師なし分類”ツールを用いて作成する。このツールでは,入力画像にマルチバンド画像を指定して,任意のクラス数を入力すると,土地被覆分類図を作成することが出来る。

    (4)教師付き土地被覆分類図の作成
    教師付き土地被覆分類図の作成は,トレーニングデータの取得および編集をおこなった上で,土地被覆区分をおこなう必要がある。トレーニングデータは,“画像分類”ツールバーを用いて,衛星画像をデジタイズして取得する。トレーニングデータの編集は,“画像分類”ツールバーから‘トレーニングサンプルマネージャ’ウィンドウを開いておこなう。また,このウィンドウでは,取得したトレーニングデータのヒストグラム,散布図および統計値などを表示させることも可能である。
    土地被覆区分は,“画像分類”ツールバーから“対話的な教師付き分類”ツールを実行しておこなうことが出来る。作成された土地被覆分類図を判読してトレーニングデータを修正する過程を繰り返して,土地被覆分類図の完成図を作成する。

     3 おわりに
    本報告では,単年度の衛星画像のみを使用したが,複数年の衛星画像を用いて同様の解析を繰り返せば,土地被覆の時系列変化を明らかにすることも出来る。このような解析をGISソフトウェアによっておこなうことは,作成した土地被覆分類図とGISで使用出来る他のデータとの迅速な空間分析が可能になることを示す。これは,地表面の状態の分布および時系列変化などの要因を,生徒に理解させることに役立つような地理教材を作成することが可能で,効果的な授業の展開に繋がると考えられる。
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