日本地理学会発表要旨集
2017年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P001
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発表要旨
茨城県常総市石下周辺における鬼怒川のクレバススプレー堆積物
*佐藤 善輝
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抄録
I はじめに
鬼怒川中流域には,河道に沿ってクレバススプレーが分布する(貞方1972など).これらは左岸側に扇型に張り出す形状を呈しており,繰り返し発生した鬼怒川の氾濫により堆積物が累重・複合した結果,形成されたことが示唆される.この地域の浅層地質は,貞方(1972)によれば,泥炭を含む泥質な氾濫原堆積物が広く分布し,これをクレバススプレー堆積物が覆う.さらに貞方(1972)は堆積物中に含まれる遺物の年代などから,クレバススプレー堆積物が13世紀前後の200~300年間に集中的に堆積した可能性を指摘した.しかしながら,クレバススプレー堆積物の詳しい粒度変化や年代資料は得られていない.こうした問題点を踏まえ,常総市石下地区周辺に発達するクレバススプレー上において,泥質堆積物まで達するボーリングコアを掘削し,コア解析を実施した.

II
調査・分析方法
対象地域には東~南東方向に張り出すクレバススプレーが分布する.このクレバススプレーの頂部から南東方向の後背湿地に至る長さ約1 kmの測線を設け,計3地点(西側から順にGS-JIS-6,7,8)でボーリングコアを掘削した.GS-JIS-6,7コアがクレバススプレー,GS-JIS-8コアが後背湿地にそれぞれ位置する.コア径は86 mmで,いずれも掘削長5 mのオールコア試料を採取した.コア試料の観察,軟X線写真撮影,はぎ取り試料作成を実施した.また,コアから採取した計10試料について,14C年代値を測定中である.

III
結果と考察
粒度や色調などの違いに基づき,GS-JIS-6,7,8コアの堆積物を下位から順にユニット1~6に区分した.最下部の標高9.0~12.5 mにはシルトあるいはシルト混じり細粒砂から成るユニット1が分布する.ユニット1の上位には泥質堆積物のユニット2が分布する.このユニットは灰色~灰オリーブ色シルトを主体とし,一部は黒色有機質シルトとなる.ユニット2は層相から後背湿地堆積物と推定され,貞方(1972)の示した後背湿地堆積物に対比される可能性が高い.これを覆って斜交葉理やリップル葉理の発達する細粒~中粒砂を主体とするユニット3が分布する.このユニットは西側ほど分布高度が高く,GS-JIS-6コアで標高14.1~14.4 m,GS-JIS-8コアで標高10.7~12.0 mに認められた.この特徴はユニット3が鬼怒川の氾濫堆積物である可能性を示す.GS-JIS-7および8コアでは泥質堆積物から成るユニット4がユニット3を覆う.ユニット4はGS-JIS-8コアで地表面まで連続しており,後背湿地堆積物と推定される.他方,GS-JIS-7コアでは標高14.0 m以浅に,斜交葉理やリップル葉理の発達する細粒~中粒砂から成るユニット5が認められ,ユニット4を覆い,地表面まで連続する.これに対比される堆積物はGS-JIS-6コアの最上部にも認められた.
ユニット3は後背湿地に位置するGS-JIS-8コアでも認められた.これは現在のクレバススプレーの分布と調和的でなく,古いクレバススプレー堆積物が地表面下に埋没している可能性を示唆する.本研究よりも北側の浅層地質(貞方1972)にはこのような砂質堆積物は認められない.従って,石下地区におけるクレバススプレーの形成は北西-南東方向から始まり,その後,北側に遷移した可能性がある.GS-JIS-7コアで見られた氾濫堆積物と後背湿地堆積物の繰り返しは,対象地域の約3.5 km上流でも報告されており(泉田ほか2017),鬼怒川沿いのクレバススプレーの発達が段階的に進んだことを示す.

文献:貞方 昇1971.地理科学18,13-22.泉田温人ほか2017.地球惑星科学連合2017年度大会,HQR05-P06.
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© 2017 公益社団法人 日本地理学会
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