抄録
今次の学習指導要領の改訂では,「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善が求められている。社会科,地理歴史科,公民科の場合,深い学びの鍵となっているのが「社会的な見方・考え方」である。社会的な見方・考え方は,従来からもその必要性が強調されていたが,明確な定義や具体的な取扱い方は明記されてこなかった。今次の改訂では小・中・高の社会科,地理歴史科,公民科において,発達段階と地・歴・公の教育内容を踏まえた見方・考え方を定義づけ,それぞれの系統的で体系的な習得を求めている。地理の場合は,高校に必履修科目「地理総合」が新設されたことにより,今まで以上に小・中社会科との関連性を意識し,地理的な見方・考え方を系統的に学ぶ地理カリキュラムづくりとその内実ある指導が求められている。
他方,「地理総合」が新設されたことにより,「地理総合」を直接担当する高校教員研修の重要性が叫ばれている。しかし,子どもたちの地理的な見方・考え方は,何も「地理総合」だけで培われるわけではない。それは小・中・高と継続的系統的な地理学習の中で育まれていくのである。そう考えると,小・中段階の教員に対する地理的な見方・考え方の指導,さらにそれを支える地域調査や読図・作図にかかわる地理的技能の研修は,今までにもまして重要になったと言える。本報告では,報告者が担当した千葉県教育委員会免許法認定講習会「小学校社会科教育法」を例に,「地理総合」を見通した教員研修のあり方を検討したい。
報告する2017年度講習会は,8月28~29日の2日間にわたって実施した。参加者は,小学校49名,中学校11名,特別支援等23名の合計83名の現職教員である。本講習を企画するにあたって,まず座学よりも身体を通して地理学習(フィールドワーク)の楽しさを味わわせることを念頭においた。具体的には,地域に実際に出かけて行き,観察や調査を通して地理的事象や地域が抱える問題を発見し,それを地図化したり統計資料や文献資料等を用いて読み解いていく,そうした問題解決の過程を体験させることをねらったのである。こうした試みは,これまでも勤務校の大学生を相手にした授業でも実施してきた。しかし,受講生が100名を超えることもあり,地域に連れ出すことはできても,学生たちが発見した地理的事象や地域の問題を一歩踏み込んで分析・考察する学習過程を組織することはできなかった。今回の講習会では,この点を何とか克服したいと考え,NPO「伊能社中」の手を借りることにした。従来,フィールドワークにより見いだした地理的事象の分析や読み解きには,関連資料の収集や地図化・グラフ化など資料加工作業に多くの時間を費やさざるを得ず,限られた授業時間で実施することには限界があった。それに対して教員研修においては,2日間という時間的余裕があったため,大学図書館やネット環境を開放することにより,NPO「伊能社中」の指導のもとで関連する資料収集や資料・地図づくりの時間を確保することができた。講習会の大まかな内容は以下の通りである。
【1日目】<午前>①学習指導要領改訂と小学校社会科,②小学生が地域で学ぶことの意義と地域学習,③フィールドワークに向けての指示<午後>④フィールドワークの実施(8~9名/班),⑤フィールドワークで見つけてきた調査結果の確認,発表テーマの決定
【2日目】<午前>①NPO「伊能社中」による調査結果を分析・考察するための資料収集及び資料・地図づくりの指導,②発表に向けての準備(1),<午後>③発表に向けての準備(2),④発表会,⑤フィールドワークの振り返りと講習会のまとめ
なお,詳しい実施報告と考察はシンポジウムの発表で行う。