日本地理学会発表要旨集
2017年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 205
会議情報

発表要旨
堺市にみる市民農園等の多様性
*石原 肇
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録


Ⅰ はじめに

都市農地は,環境保全や防災,教育等の多面的機能を有することから,都市において極めて重要なものとなっている.このため,2015年4月に「都市農業振興基本法」が公布され,2016年5月に「都市農業振興基本計画」が閣議決定された.この基本計画では,例えば,市街化区域から市街化調整区域への逆線引きの促進,老朽化した建物のある土地の農地への転用など,従来には見られなかった土地利用に関する記述があり,政府が都市農業に関して根本的な転換を図ろうとしていることが伺われる.今後,政府および地方公共団体は「土地利用計画」を策定することとなり,この土地利用計画が都市農地を保全していく上での鍵を握るものと推察される.同時に保全する都市農地でどのような農業利用がなされるかも課題であろう.発表者は東京都と大阪府の農業センサスにおける農業関連事業の状況を比較し,東京都では貸農園・体験農園等が行われている場合が多く,大阪府では貸農園・体験農園等はあまり多くないことを明らかにし,大阪府では農地の多くが水田であり,貸農園・体験農園等を展開することが難しいことに起因するものではないかと推測している(石原,2017).そこで,本発表では,大阪府全域の市民農園や体験農園等の状況を把握するとともに,堺市に着目して市民農園や体験農園等の取組状況を明らかにすることを目的とする.

Ⅱ 研究対象地域と研究方法

本発表は以下の2つからなる.まず,大阪府の全市町村を対象として,市民農園や体験農園等の分布状況を把握する.市民農園については農林水産省HPの「全国市民農園リスト(2016年3月末現在)」より大阪府のデータを入手した.貸農園・体験農園等については2015年農業センサスを用いた.これらを補完するため,大阪府HPの「農に親しむ施設紹介」を参考にした.つぎに,堺市を対象として,堺市農水産課へのヒアリングを行なうとともに公表資料の提供を受け,市民農園や体験農園等の分布状況や市の施策を把握する.

Ⅲ 結果および考察

(1)大阪府全域

農林水産省HPの「全国市民農園リスト(2016年3月末現在)」によれば,10市37箇所の市民農園が登録されている.最も多いのは富田林市の15箇所である.2015年農業センサスによると,貸農園・体験農園は25市町村92経営体となっている.最も多いのは,堺市と高槻市の12経営体である.大阪府HPの「農に親しむ施設紹介」によれば,32市町村の施設が掲載されている.この中で,堺市が最も多様性に富んでいる.

(2)堺市

堺市では以下の4種類の取組がみられる.

①フォレストガーデン市民農園(堺市が設置者) 1箇所

所在地:南区1

②まちづくり体験農園(農業体験農園) 9箇所

所在地:中区3,東区2,南区4

③市民農園利用型農園(特定農地貸付法) 12箇所

所在地:中区3,東区3,西区2,南区2,北区2

④JA堺市市民農園(JA堺市が管理者) 10箇所

所在地:中区4,東区4,西区1,南区1

このように堺市では,①や④のような公共セクターが公共サービスとして農地を提供するもの,③の特定農地貸付法の改正による農家以外が行うもの,②の農家が経営の一環で行うもの,と多様な主体により取組が行われている.
著者関連情報
© 2017 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top