日本地理学会発表要旨集
2017年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 605
会議情報

発表要旨
UAVリモートセンシングによる水稲のフェノロジー観測
*濱 侃田中 圭望月 篤鶴岡 康夫近藤 昭彦
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

はじめに
モンスーンアジアの多湿な環境に適合する水田は,典型的な土地被覆として,景観,水田農業,稲作文化・歴史・経済,地表面での水・熱収支を通じて地域の風土を形成している。日本では,水稲の品種の中でもコシヒカリの栽培が盛んであり,平成28年の日本全国の作付け割合は36.2%となっている。一方,日本各地で,その地域の気候や風土に合わせて品種改良が行なわれており,現在では約240品種が栽培されている。これらは“イネ”としてC₃植物に分類されるが,生育速度(早生,中生,晩生),形態は品種ごとに異なり,季節・経年的な変化(フェノロジー)には品種間差がある。
フェノロジーは,植物の蒸発散・光合成・呼吸を通して,地表面と大気の間の熱・水・炭素フラックスに寄与する重要な概念である。しかし,フェノロジーの定期的観測には筑波大学陸域環境研究センター内の円形圃場に代表される大規模な観測施設が必要となる。そこで,本研究では,Unmanned Aerial Vehicle(UAV)としてドローン(ラジコン電動マルチコプター)を用いた水稲の定期的観測を行い,品種,生育条件による水稲のフェノロジーの違いおよび品種特性を明らかにすることを目的とした。UAVを利用したリモートセンシングは,その機動性と高時間・空間分解能の画像が得られる特性を活かした計測システムとしての利点があり,フェノロジー観測に限らず,環境研究における様々な利活用・応用が考えられる。  
研究手法
千葉県農林総合研究センターの水稲試験場において,2014年~2017年の4年間,水稲の生育期間に概ね週1回の頻度でUAVを用いた空撮を行った。試験圃場は,2筆の水田を,移植時期(全4期:4月初旬~6月初旬),品種(コシヒカリ,ふさおとめ,ふさこがね),施肥量(3~10gN/m²)を変えた小区画に細分している。
UAVには近赤外撮影用カメラ: Yubaflex (BIZWARKS社) を搭載し,対地高度50mを基準に空撮を行った。撮影した画像は,SfM/MVSソフトウェアPhotoScan Professional(Agisoft社)を用いて,オルソモザイク画像を作成した。なお,オルソモザイク画像の地上分解能は約1.8cmであり,植生のみを抽出可能である。植生のみを抽出し正規化差植生指数(NDVI)を算出したものを,NDVI pure vegetation (NDVIpv)として解析に使用した。なお,これらの情報はGIS(地理情報システム)上に集積し,時空間変化の解析を行った。  
結果
図1は5月中旬に移植した区画のNDVIpv時系列変化を,品種ごとに比較したものである。全品種共通し,NDVIpvは移植後から上昇し,出穂期にピークを迎え,その後は成熟期にむけて値が減少した。NDVIpvのピークの時期には品種による差があり,早生の品種である“ふさおとめ”,“ふさこがね”に対して,中生の品種である“コシヒカリ”では約2週間ピークが遅くなった。このようにNDVIpv時系列変化として生育速度の差が観測された。

著者関連情報
© 2017 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top