日本地理学会発表要旨集
2017年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P053
会議情報

発表要旨
筑波山門前町における観光空間の変容と特性(2)
―観光関連施設の経営形態に着目して―
*加藤 ゆかり猪股 泰広曽 斌丹岡田 浩平喜馬 佳也乃松村 健太郎山本 純劉 博文
著者情報
キーワード: 観光, 経営形態, 門前町, 筑波山
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
1.はじめに  
都市近郊低山および門前町は,近世以降の社寺参詣文化の大衆化を経て,現代までに観光空間としての性格を強めてきた.本研究では,筑波山門前町を事例に,地域内に立地する観光関連施設の経営形態および地域外の諸アクターの動向に関する分析を通じて,門前町の観光空間としての特性を明らかにした.
2.観光関連施設の経営形態とその多様化
筑波山門前町の観光者受け入れ基盤の様相が多様化していることが明らかとなった. 第一に宿泊施設は,日帰り旅行化が進展する中で経営規模により異なる経営形態がみられた.大規模経営施設は団体観光者を中心に集客戦略をとる.筑波山そのものを必ずしも観光目的地としない,都市部から研修を目的とした利用客を積極的に受け入れることで経営を存続させていた.一方,小規模経営施設は個人観光者の集客を意図した経営戦略をとる.とりわけ登山者の宿泊を意識したサービス提供や誘客戦略により,宿泊数を維持し経営を存続させていた. 第二に商店・土産物店は,商店規模や経営者の年齢,後継者の有無などの要因により大きく経営特性が異なった.門前町商店・土産物店の約90%が1960年以前より家族経営により商売を続ける「職住近接型」の自営業であり,現在では経営者の高齢化が顕著である.それゆえ,現代的な登山者傾向や収益向上にこだわらない経営方針を行う店も多数存在する.その一方で,「筑波山オリジナル商品」の開発と販売に取り組む店も存在した.
3.筑波山観光関連アクターの広域化
現在は,行政や「つくば観光コンベンション協会」などのより広いスケールで活動する地域外アクターが主体となり観光客誘致活動を行っていた.彼らは周辺市町村と連携し,新たなスケールの観光空間である「筑波山地域ジオパーク」も導入している. 地域外アクターによる観光誘致が主体となる中で,近年地域内諸組織の活動が再盛する傾向もみられた.このような組織は,地域外アクターの手の行き届かないローカルな視点で活動を行う特徴がある.とくに「筑波山旅館組合青年部」では新名物を開発し,組織一丸となって売り出す取り組みへの参加を各商店に働きかけ,実施していた.
4.おわりに
筑波山門前町の各観光施設は,自らの経営規模や環境を踏まえ,それぞれ異なる経営方針を取る傾向にあった.各アクターが個別に観光客誘致を行うがゆえ,主アクターである門前町の商店の多くは消極的な経営形態をとり,観光地域として疲弊しているといっても過言ではない. そもそも,筑波山地域は観光地域と居住地域の「二面性」を保持する領域である.長い歴史を保持する自営業の観光施設が多いがゆえ,地域全体で一丸となって新たな観光戦略を取ることが難しい状況にある.それでも,一部のアクターの活動より多様性のある観光空間としての兆しもみられる.今後持続可能な観光空間を形成していくためには,このような地域的特性を踏まえ,門前町内部アクターと地域外アクターの連携が必要となるであろう.
著者関連情報
© 2017 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top