抄録
ジオパークとはユネスコ(UNESCO)の自然科学プログラムの一つで,地球科学的に価値の高い地形・地質遺産を保全し,学習や教育に活用するとともに,地域の自然・文化・無形遺産を生かした地域経済の活性化を目指すプログラムである.2004年にユネスコが支援する世界ジオパークネットワークが設立されて世界的な活動がはじまり,現在は33ヵ国120地域のユネスコジオパークがある.このジオパークの理念を日本国内で普及するために,同じような活動を行おうとしている地域を認定する日本ジオパークの制度が2008年から始まった.現在,日本国内には日本ジオパークが39あり,その内8地域が世界ジオパークに認定されている(2016年7月1日現在).国際的・国内的認証制度を活用して,地域に存在する地質地形に価値を付与し,地域の自然の保全と活用のバランスを図ることから,持続可能な地域づくりを実現しようとする取り組みといっていい.
こうした目的を掲げる日本のジオパークの多くは,地方自治体を基盤とした協議会により運営が担われており,協議会では主に地球科学を専門とする「ジオパーク専門員」(以下,専門員)が雇用されている. 現在ではジオパーク地域には多くの専門員が雇用されるようになっている.しかし,地方自治体等によって雇用されている専門員が,地域内外において果たしている多面的な役割の実態については,ほとんど議論されていない.
以上の問題意識に基づき,報告者たちは2014年から研究活動を始め,専門員が持続可能な地域づくりに向けて,地域社会の内外で果たしている多面的な役割を明らかにすることを試みてきた.その一環として,全国のジオパークを対象とした専門員アンケートを実施した.全国の世界及び日本ジオパークと,ジオパークを構想している地域にアンケート調査を行った.回答ジオパーク(構想中のものも含む)は36,回答者数は59名であった.その結果,以下のことが分かった.第一に,専門員は若い研究者が多くを占め,雇用形態は不安定であること.第二に,専門員の学位やキャリア,専門分野等は多様であること.第三に,専門員の活動は「普及活動」と「申請・再申請」という制度としてのジオパーク活動に特有のものに関しては高い傾向にあること等である.また自由記述欄での回答から,専門員は地球科学の普及のみならず,地域振興という観点からも仕事に意欲を感じているものの,それを十分に活かす環境が必ずしも整っていない事がわかった.
今回は,本調査結果を踏まえ,専門員を雇用する側である自治体や地域住民からの視点を加えて議論する.