日本地理学会発表要旨集
2017年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: S108
会議情報

発表要旨
モンゴル国の環境問題 2017
*森永 由紀
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

1.はじめに

著者は、2010年の日本地理学会秋季大会公開シンポジウムで「モンゴルの環境問題」を報告した[1]。認識されているモンゴル国の環境問題の種類は7年前の当時も現在もさほど変わらないが、対策は依然不十分で環境の悪化は進行している。背景には、鉱山開発を梃にした経済成長が不安定ながらも続いていること、2010年に全国の家畜の約3割が死亡するような大きな自然災害ゾド(寒雪害)が発生し、都市への人口集中が加速したことなどがあるとみられる。以下、都市の環境問題と草原の環境問題について紹介する。

2.モンゴル国の環境問題

2-1都市の環境問題

現地でも特に高い関心を集めているのが、世界最悪と言われるようになった首都ウランバートルの大気汚染である。2016年12月16日、ウランバートル市のpm2.5の濃度が1985μg/m3を記録した。 WHOが安全レベルとみなす水準の約80倍、大気汚染が深刻な北京の約5倍の数値であるとされ、住民たちが抗議運動を行ったことが大きく報道された[2] 。背景としては、急速に進む都市への人口集中にインフラが追い付かないことが挙げられ、大気汚染のみならず水質汚濁、廃棄物問題、水不足などの深刻化が指摘されている。これらは日本の典型7公害に類似するもので、急速な都市化のすすむ途上国でみられるが、ウランバートル市の場合は、都市を囲むように作られたゲル・ホローと呼ばれるゲルと簡易住居が混在した地区があり、居住のためのインフラの未整備が地区外にも及ぶ環境汚染につながるという特徴がある。前述の大気汚染に関しては、ゲル地区の熱源である家庭のストーブで石炭を燃やすことが元凶と推測されていたが、最近、ライダー、地上気象観測、pm2.5等のデータの詳細な解析よりそれが実証され、さらに冬に逆転層が発達した時に強化されることが明らかになった[3]。

2-2 草原の環境問題

20世紀には、多くの地域で牧民の定住化がすすみ遊牧が辺境においやられたが、モンゴル国では遊牧は今も国民の3割が携わる基幹産業である。草原に暮らす牧民にとっての環境問題といえば気候変動、砂漠化に加え、最近加速する鉱山開発による土壌荒廃(およびそれに伴うダストの発生)や環境汚染が深刻な地域もある[4]。家畜の頭数が増えていることにより、過放牧やゾドのリスクが高まっていることも無視できない。最近のモンゴル国全域を対象にした医学的研究では、ダストの発生と呼吸器系疾患の疾病率との正の相関や[5]、ゾドの発生(家畜死亡率)と乳幼児死亡率の正の関係[6]が明らかになってきた。SDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」への取組の一環としても、乱開発や自然災害が健康に及ぼす影響への対策は急務である。

3.おわりに

モンゴルをはじめとする途上国に、高度成長期の日本の公害経験を伝えることの重要さは自明であるが、効果をあげるのは容易でない[7]。公害経験の伝達の手法自体の研究も必要である。

著者関連情報
© 2017 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top