日本地理学会発表要旨集
2017年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S0403
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発表要旨
崩れゆく山々と土砂災害の軽減
*今泉 文寿
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キーワード: 土砂災害
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抄録
我が国は付加体,火山性などの脆弱な地質と急峻な地形が広く分布しており,かつ降水量が多いため,世界的にみても土砂移動が活発な地域に分類される。加えて,山地が居住地,林業等の経済活動の場,高速道路や鉄道の経路として高度に利用されているため,土砂移動に伴い多くの災害が発生している。 本発表では,我が国における土砂移動の特徴を概観するとともに,土砂災害の軽減に向けた対策についてまとめる。 我が国は地形の急峻な地域が多いため,土塊にはたらく重力に起因する土砂移動現象がおきやすい。山腹の傾斜が35度を超えるような山岳域では,水の供給がほとんどない状態でも落石等の形態で土砂の移動が可能であり,多雨期(梅雨~台風期)のみならず冬季~春先においても,岩盤や土壌中の水分の凍結融解の影響を受けた活発な土砂移動がおきている。人間の居住域・活動域はこれよりもやや緩やかな場所にあることが多く,そのような場所では土砂がある程度の水を含んだ状態で,はじめて移動可能となる。我が国の多くの地域では梅雨~台風期に降水量が多いため,この時期に崩壊,土石流として土砂が移動し,土砂災害が発生する。
このような土砂災害への対策は大きくハード対策とソフト対策に分けられる。ハード対策とは砂防堰堤等の構造物の建設による対策を指し,想定内の土砂移動現象であれば,ある程度確実な効果を見込むことができる。その一方で,多額の予算を要すること,生態系に対する影響があることなどの問題点を有する。ソフト対策は警戒避難や建築制限などが含まれる。コストが低い,環境への負荷が少ないというメリットがあるものの,住民の理解がなければ効果を見込むことができない。加えて短時間・夜間の集中豪雨による土砂移動に対しては避難を行うことが困難であり,対策としての確実性に劣る部分がある。 この他にも我が国では,森林の有する機能により土砂移動を抑止しようという試みが行われている。樹木根系は崩れに対する土壌の抵抗力を増加させる働きを持っており,表層崩壊の発生を抑止する機能を有している。この手法は生態系への負荷が少ないというメリットを有するが,深層崩壊などの土砂移動現象については抑止できない。 このように,いずれの手法も長所・短所を有しており,ひとつの手法では土砂災害を防ぐことができない。複数の手法を組み合わせた対策が望まれる。
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