抄録
1.はじめに 近年都市部のヒートアイランド現象が顕在化している。冷涼な海風を取り入れることでこの高温化を抑制できる(清田・清田,2005)。工藤・加藤(2014)は相模湾海風の通過した地点の気温の上昇が抑えられていることを明らかにしている。しかし、海風による気象場の変化を詳細に捉えるためには観測地点を海岸付近を中心に高密度にする必要がある。そこで本研究では相模湾から近い距離に市街地を形成している小田原市を対象地域として海風の冷却効果の範囲、時刻による海風の冷却効果の差異を明らかにすることを目的とする。 2.調査地域概要と調査方法 本研究では沿岸部に市街地を形成している神奈川県小田原市を調査地域対象とする。小田原駅周辺には中層建造物が立ち並び、市街地を形成している。また、市の南西部は低層住宅の密集地となっている。 観測方法は定点観測と移動観測である。定点観測は2016年7月15日から9月25日にかけて、11か所の地点において10分間隔で気温の観測を行った。移動観測は2016年9月25日に2本の測線において自転車で気温と風向風速の観測を行った。観測時刻は10時30分と15時である。気温観測データには器差補正と時刻補正をした。また、海風の冷却効果の強さと気温分布の日変化との関係を調査するために、定点観測期間中において晴天海風日と曇天海風日の抽出を行った。海風日として日本列島が高気圧に覆われ、日本列島周辺の等圧線の間隔が広く、日中に海方向からの風が吹いている日とした。加えて海風日の中から一日の合計日照時間が8時間以上かつ日降水量が0㎜の日を晴天海風日とした。また、海風日の中から一日の合計日照時間が6時間以下かつ日降水量が0㎜の日を曇天海風日とした。 3.結果と考察 観測結果を図1に示す。晴天海風日も曇天海風日も海岸付近のほうが内陸部よりも相対的に気温が低く、気温差は晴天海風日で0.8℃、曇天海風日で0.4℃であった。海岸付近の気温分布に着目すると、晴天海風日のほうが曇天海風日よりも低温域の範囲が広い。また、風配図を見ると、どちらの日も海方向からの風である南南東の風が卓越している。これは晴天日でも曇天日でも海と陸との温度差により、海風が吹くためと考えられる。しかし、曇天海風日は同じ海岸付近でも西部の方が相対的に気温が高い。これは海風の冷却効果があまり強くないため、市街地で発生した人工排熱の影響を受けて気温が高くなっているのだと考えられる。
