日本地理学会発表要旨集
2017年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S1106
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発表要旨
日本地理学会とその会員による地理学のアウトリーチ
*野々村 邦夫
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抄録

1. はじめに 日本地理学会にとって、地理学のアウトリーチは、その重要な活動の一つである。また、その会員がこれにかかわる機会も多い。ここでは、それらの実態について概観し、そのあるべき方向について考えてみたい。なお、ここでは、アウトリーチの概念は、かなり広く捉えることとする。

2. 日本地理学会によるアウトリーチ 1925(大正14)年に創立された日本地理学会は、長らく任意団体であったが、2005(平成17)年10月5日に社団法人となり、更に2012(平成24)年4月1日、新たに制定された一般社団法人及び一般財団法人に関する法律に基づく公益社団法人となった。その際に制定された定款では、第3条(目的)で「この法人は、地理学に関する学理及びその応用の研究に関する事業を行い、地理学の進歩普及を図り、もってわが国の学術の発展と科学技術の振興に寄与するとともに、地理教育の推進、社会連携の推進、国際協力の推進を図り、社会の発展に資することを目的とする。」と目的を記し、第4条(事業)で列挙する事業の中で「学会誌及びその他の刊行物の発行による地理学研究の普及事業」「関連学会等との連携及び協力並びに社会連携・社会教育の推進事業」「資格認定、地理教育の支援等による地理学的知識・技術の普及及び社会貢献事業」その他を挙げている。このような定款の規定から見れば、地理学のアウトリーチは、日本地理学会の重要な活動と位置づけられているものと理解される。  実際の活動を見ると、「地理学評論」等の機関紙は会員以外の者でも購読でき、学術大会における講演・シンポジウムの一部は一般に公開され、一般向けの講演会、研修会、講座等が開催されてきた。また、GIS学術士・地域調査士という資格制度を設けている(地域調査士については後述)。 中央教育審議会は2016(平成28)年12月21日、次期学習指導要領について答申を行い、この中で、高等学校における必履修科目として「地理総合」を設定することとした。日本地理学会は、現在は選択科目となっている「地理」の必修化が学会にとって重要な課題であるとの認識の下にさまざまな活動を展開してきたが、結果としては一応その目的を達成することができた。このような活動も、地理学のアウトリーチに関する活動の一つといってよい。

3. 地域調査士 地域調査士(専門地域調査士を含む)は、地域調査(地域の特性の科学的な調査、分析、究明、解説、広報等およびこれらに付帯する報告書の作成等の業務)を実施するに相応しい者として、日本地理学会が認定する資格である。地域調査士の資格を取得するためには、一定の学歴(科目履修歴)、実務経験、論文公表実績、講習会修了実績等を有することが必要である。 この制度の根幹を成す地域調査士認定規程は2010(平成22)年3月26日の代議員会で議決され、4月1日に施行された。2010(平成22)年9月6日、専門地域調査士29人が認定されたことを皮切りとして、2016(平成28)年6月10日現在、233人の地域調査士、119人の専門地域調査士が認定されている。 地域調査士制度の発足に際して検討された諸問題は、地理学のアウトリーチについて考える上で大いに参考になる。

4. 日本地理学会会員による地理学のアウトリーチ 多くの大学の地理学科・地理学教室等は、地域住民等に対し、地理学に関する講演会・講座・サイエンスカフェ等を開催している。環境地図作品展では、北海道教育大学旭川校がその開催のために重要な役割を演じている。 地理学の研究者等が書籍・雑誌にわかりやすく、面白い記事を執筆することは、重要なアウトリーチ活動である。教養的なものから娯楽的なものまで、マスコミで地理が取り上げられることも、地理学のアウトリーチとして歓迎すべきことであろう。  
5. 地理学のアウトリーチの在り方 日本地理学会の会員等により、さまざまな地理学のアウトリーチが社会で幅広く展開されることは、好ましいことである。一方、実社会において地理学の知識や思考方法の一層の活用を図るという意味でのアウトリーチは、地理学の発展にとって本質的に重要なものである。日本地理学会は、このような考え方に立ち、積極的に地理学のアウトリーチに取組むべきであろう。  
参考文献 公益社団法人日本地理学会定款 地域調査士認定規程 社団法人日本地理学会企画専門委員会(2011.12)実務地理関係者の活動実態とその社会貢献の在り方に関する調査研究,E-journal GEO Vol. 6(2011) No.1,pp.38-71 野々村邦夫(2014.10)私はこう見る!これからの地域調査士制度 ―地域調査の専門性を高めることが制度発展の本筋 ,地域調査士通信 No.1 

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© 2017 公益社団法人 日本地理学会
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