日本地理学会発表要旨集
2017年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S1102
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発表要旨
「私たちの身のまわりの環境地図作品展」の成果と将来展望
*氷見山 幸夫
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抄録



1.はじめに

「私たちの身のまわりの環境地図作品展」は1991年8月に旭川市で始められ、今年27回目を迎える。それは子供たちが自ら身の回りの環境を観察し、その結果や考えたこと、感じたことなどを記録し、それらを地図に表現し、読み、考えることを基本とする。その学習効果は多岐にわたり、地域的、空間的、環境的、総合的なものの見方考え方の育成やコミュニケーション手段としての地図力の強化を含む、総合的な科学力の向上が期待される。

この地図展は運営形態や理念、教育効果など様々な面でユニークな発展を遂げてきた。その成果を「地理学のアウトリーチ・科学コミュニケーションの活性化」の観点から振り返り、将来を展望する。

 

2.主な成果 

この地図展の沿革と多岐にわたる成果は、月刊雑誌「地図中心」2015年10月号の特集『環境地図展の25年』にまとめられているので、是非ご覧頂きたい。執筆者には小・中・高・大の教員、大学生、地図会社社員、教科書会社社員、GIS会社社員、地図展入賞者の父親、元文科省教育課程調査官などが含まれ、この地図展を支えている人々の多彩さが垣間見える。そこから毎年新しいアイディアが生まれ、試され、活かされ、発信されている。 

これは日本で唯一の、全国規模で毎年開催されている児童生徒対象の地図展である。国土地理院長賞をはじめとする多くの賞を設けているが、日本地理学会長賞が設けられたのは、第6回目(1996年)からである。当初からそれを学会に働きかけていたが、前例がないとの理由でそれまで退けられていた。この賞の創設がきっかけとなり、日本地理学会をはじめとする主な地理系学会がこの種のイベントに賞を出すようになった。それは日本地理学会が法人化した際に大いに役立ったであろう。

この地図展は本来の目的である環境地図教育の深化と普及はもとより、初等・中等・高等教育の改善、更には生涯教育の深化と振興など関連する諸テーマで多くの論文や報告を生み、学術界と教育界に貢献してきた。勿論地理教育への貢献も大きい。

小・中・高・大・官(国土地理院、自治体など)・民(教科書会社、地図会社など)の連携による組織体制は、生涯教育の実践に多くの示唆を与え、1996年の北海道教育大学における生涯教育課程の設置にも大いに貢献した。

世界の地球環境研究は今転換期にあり、フューチャー・アース構想の下で、自然科学に人文社会科学が加わった新しい学際的な研究体制、更には学術の枠を超えた超学際的連携により、地域の状況に配慮しつつ進められると考えられる。その流れを確かなものにする上で欠かせないのが、総合的な科学力の増進と、研究-教育の連携であるが、本地図展はまさにそれらを実践している。小・中・高・大・官・民の老若男女の連携による環境地図展実施の組織体制は、上述の超学際的連携を先取りし、具体化したものと言えよう。

 

3.将来展望

この地図展は、大学生たちが運営に広く関わっている。その中核を担っているのは、北海道教育大学旭川校地理学ゼミ所属の学生たちである。地図展発足時はまだあまり一般的ではなかったこのような活動への学生の参加は、総合的学習やボランティア活動の重視などを反映して、全国の多くの大学で今や一般化しつつある。そのような学生の活動を支援するために同大学は10年程前から補助金を出しているが、そのきっかけをつくり、それを最初に獲得したのは、地図展の折に小中高大生合同のワークショップを自主的に企画し実施していた地理ゼミの学生たちであった。このように、地図展は若い世代が周囲の支援に支えられながら裾野を着実に広げており、今後も発展していくと思われる。

 

参考文献

氷見山幸夫(1995.9): 環境・地図教育の地域ネットワークと教育大学の役割.生涯学習叢書Ⅳ「国際シンポジウム-教育系大学における生涯学習と大学開放」所収, pp.229-234.

氷見山幸夫,鈴木広基(1998):高等学校における環境地図教育の試みと生涯学習教育研究センターの役割.北海道教育大学生涯学習教育研究センター紀要,No. 1, pp.31-40.

氷見山幸夫 (2001.3): 生涯学習の視点から見た環境地図展の意義と展望.北海道生涯学習研究,創刊号,pp.53-61.

本松宏章・氷見山幸夫 (2002): 公民館における環境地図作り講座の意義と展望.北海道生涯学習研究No.2, pp.55-63.

氷見山幸夫(2015.10):私たちの身のまわりの環境地図作品展25年の成果と展望.地図中心,No.517,pp.22-23.

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