日本地理学会発表要旨集
2017年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 601
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発表要旨
デリー首都圏における工業労働市場の特性とワーカーの経済生活
*友澤 和夫陳 林古屋 辰郎Nury Iftakhar
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抄録

1.研究目的と調査の概要
デリー首都圏に位置するハリヤーナー州では工業化が急速に進展しており、産業別には自動車工業とアパレル・繊維工業の雇用が卓越している。しかし、前者では請負比率が高い(65%以上)のに対して、後者ではそれが低い(30%未満)という大きな違いがある。本研究は、この2つの労働市場に着目し、その特性やワーカーの経済生活を提示することにより、インドの工業化が雇用面にもたらした意義を明らかにすることを目的とする。
本発表は、2015年12月~2016年1月にハリヤーナー州最大の工業団地であるIMTマネサール内のB村で実施した調査に基づく。B村の概要やワーカー向けアパートの供給については村長等へのヒアリングにより情報を得た。ワーカーに対してはアンケート票を用いた面接調査を行い、自動車系210名と軽工業系(アパレル・繊維に皮革、家具、その他手工業を加えた)92名より回答を得た。
2.2つの労働市場の特性
自動車系と軽工業系のワーカーの属性を比較すると、差異と共通点が見いだせる。差異については、州の全体傾向と同様に自動車系では請負比率が高い(60%)のに対して軽工業系では低い(21%)。自動車系ではヒンドゥー教徒が軽工業系ではムスリムがそれぞれ相対的に多い。学歴は軽工業系が明らかに低い。自動車系は大卒レベル以上が23.2%を占めるが、学歴の高さが正規雇用に結びつく訳ではなく、そこでも請負労働が支配的である。そして共に平均年齢は20歳台半ばであるが自動車系では20歳台後半以降の人数は急速に減少するのに対して、軽工業系でもそうした傾向はあるもののそこまで強くはない、といった諸点が挙げられる。この点については、特に自動車系において、20歳台後半以上の者に対して、企業・コントラクター側は雇用契約を結ばない・更新しない意向が見いだされる。
共通点は、地元ハリヤーナー州が労働力供給地としての役割を果たしておらず、両者ともにUP州とビハール州に依存していることである。軽工業はビハール州の比率がやや高いが(図)、双方とも友澤(2016)で提示した「請負ワーカーベルト」と同様の供給地域を描き得る。デリー首都圏の工業化は、空間的に離れた地域を労働力供給地として包摂することで成立している。また、当地の情報については、ともに先行して当地で働いている家族・親族、友人、村人らを経由して入手しており、同時に彼らがコントラクターとの媒介項としても機能しているので、当地への移動はチェーン・マイグレション的出稼ぎ労働性格を有している。現職場での勤務年数は1年未満が半数以上を占め、短期間でワーカーが激しく入れ替わる。これはワーカー側よりも企業・コントラクター側がつくり出している側面が強い。
3.ワーカーの経済生活
自動車系では非正規ワーカーの賃金は、州最低賃金(7,600ルピー)が基本給となり、正規ワーカーとの間に明瞭な差異がある。軽工業系では歩合制で賃金が支払われているケースも多く、正規・非正規という雇用形態が賃金水準に与える影響は弱い。当地のワーカーは複数でアパートの一室をシェアしたり、他の労働力再生産にかかわる支出も極力抑えて、残金を父母や家族に定期的に送金している。なお、8割以上が携帯電話を所有するが、定期的に貯金をする者は少数派となる。ワーカーの経済生活は、低賃金労働と雇用の不安定性、そして出稼ぎ労働という側面により規定された内容となっている。
参考文献
友澤和夫(2016):工業化と非正規化−デリー首都圏における自動車産業の請負労働市場を対象に−.経済地理学年報,62,71-8.

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