日本地理学会発表要旨集
2017年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 413
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発表要旨
ケニア山における氷河縮小と水環境の変化が地域住民に与える影響
*大谷 侑也
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抄録

地球温暖化は近年の人類が直面している喫緊の問題である。そのような状況下、近年最も影響を受けているのが氷河である。アフリカにはキリマンジャロ、ケニア山、ルウェンゾリ山の3つの氷河があるが、いずれも10-20年後には消失するとの予測がなされている。中でも、世界遺産に指定されているケニア山の氷河は年約7~10mの非常に速いスピードで縮小している。このままのスピードで減少を続けると、十数年後には完全に消滅することが予想されている。もし山麓域の河川水、地下水がその消えゆく氷河を主な水源としているならば、将来的にその量は減少することが予想され、それが現実となった場合、地域住民生活および生態系に及ぼされる影響は大きいと考えられる。しかし本地域において、その氷河縮小がもたらす水環境の変化や地域住民への影響を調べた研究は未だ無い。当該地域の水資源を維持、保全する上でそのような情報を得ることは非常に重要である。  
ケニア山の氷河縮小と山麓水環境の関係性を把握するため、2015年8月~10月、2016年7月~9月に現地調査を行った。ケニア山西麓および東麓の標高2000~5000mの間で河川水、湧水、氷河融解水、降水、湖水を採水し、現地観測を行った。その結果、ケニア山および山麓域で標高毎に採水された降水サンプルのδ18Oから、明瞭な高度効果(標高が高くなるにつれ酸素・水素同位体比の値が低くなる効果)が見られた。この高度効果直線の算出により、湧水および山麓域で利用される河川水の涵養標高を推定することができた。  
西麓の標高1997m付近に流れ、住民に広く利用されるティゲディ川の酸素同位体比は−3.089‰であった。この値を今回得られた高度効果の直線(y = -469.35x + 3630.4)に代入すると5080.2(m)となる。その標高帯は氷河と積雪が多く存在することから、ケニア山西麓の河川水は氷河と降雪の影響を強く受けている可能性が高い。それを裏付けるように、今回の調査では山麓の河川水位が1985~2016年にかけて減少傾向にあることを示したデータが得られている。
一方で、標高1972mの山麓湧水の酸素同位体比(−3.32‰)から、その涵養標高を推定すると5191.8(m)と算出されることから、山麓湧水においても山頂部の氷河と降雪が大きく寄与していることが示唆される。今回の結果から、地域住民に広く利用される水の涵養源に対して、氷河と降雪が少なからず寄与していることが判明した。したがって将来的な氷河の消滅は山麓住民の水資源の減少をもたらすことが予想される。 

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