日本地理学会発表要旨集
2017年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 803
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発表要旨
システムの見方・考え方を用いた地理授業実践
*泉 貴久金田 啓珠山本 隆太
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抄録

I. 地理教育におけるシステムアプローチ
システムとは,何かを達成するように一貫性をもって組織されている、相互につながっている一連の構成要素(メドウズ2016)であり,本発表で述べるシステムアプローチとは,システムの見方・考え方に基づき、ダイナミクス、複雑系、創発などのシステムの概念から地理的事象・課題の構造(システマティック)および挙動(システミック)を理解し、世界を観察・考察する教育/学習方法である.

地理学習におけるシステム概念は,1992年の地理教育国際憲章を契機として,世界各国に共通する地理教育的考え方の一つとして認識され,海外では地理学習に位置付けられつつある.日本では,ESD (Education for Sustainable Development)の文脈においてシステムの概念・思考が取り上げられてきた(国立教育政策研究所2012, 佐藤2016).

最近では,次期学習指導要領改訂による地理総合の設定に伴い,「持続可能な社会づくりを目指し,環境条件と人間の営みとの関わりに注目して現代の地理的な諸課題を考察する科目」として,「自然と社会・経済システムの調和を図った,世界の多様性のある生活・文化について理解させるとともに,地球規模の諸課題とその解決に向けた国際協力の在り方について考察させること」(下線部筆者)などが明記された(中央教育審議会答申2016年12月21日).

システムという考え方を用いて持続可能な社会を考える地理学習を具体化するために,システムアプローチが非常に有効である.そこで本発表では,システムアプローチを用いた授業実践を取り上げ,その成果と課題について報告する.

II. システムアプローチを用いた実践事例とその成果
(1)「スマートフォンから世界が見える」
今や私たちの生活になくてはならない携帯電話やスマートフォンであるが,その原材料が採掘される過程や,部品加工、価格決定、市場供給,さらには製品化、販売、消費、廃棄,といったプロセスは多くの人が無関心のままでいる.このプロセスは、紛争や人権侵害、貧困、環境破壊といった地球規模で解決が急がれる諸課題へと結びついている. 本単元では、システムアプローチの手法を用いながら、スマートフォンを媒介に原料である鉱物資源の生産国であるコンゴ民主共和国と日本などの消費国とを結びつけ、そこで生じる諸問題を認識し、解決策を考えた上で、持続可能な社会を構築していくための足掛かりをつくっていきたい。
本実践は,生徒たちに鉱物資源開発によって生じる諸課題の複雑なシステムの構造を関係構造図によって気づかせるとともに、システム思考を用いて課題解決の手立てを考える学習プロセスを追認させていく点に,システムアプローチとしての特徴があるといえる.

(2)「上山の地理的特性を生かして,上山の将来を考えよう!」
地方都市が疲弊する中,地方における持続可能な地域社会の構築は重要課題である.本単元では,今回,授業実践を行った学校が位置する,山形県上山市を取り上げ,景観や地形図の判読による自然環境の学習と,人口や観光動態に関する統計資料の読み取りによる社会環境の学習を踏まえて,自然環境と社会環境によって地域がどのように構造化されているのかを理解し,地域の持続可能な将来像を考える地理学習を実践した.
その際,関係構造図を用いて,地域の自然環境と自然環境の各事象の結びつきを考え,その関係性を可視化するとともに,ディスカッションを通じてその全体像について考えを深めた点にシステムアプローチの特徴があるといえる.

III. 実践を通した考察と課題
システムアプローチを用いた地理学習の実践により,現代的諸課題の複雑なシステムの構造に気付かせ,課題解決を進めることができた.中教審答申では学びの過程として,課題解決の在り方を,課題把握,課題追及,課題解決の3段階を想定しており,課題解決の学習プロセスとしても適正があるといえる.また,関係構造図を用いた地域学習では,地域を地理的に捉えるのに有効な図であるといえる一方,事象の結びつきを考えることや課題発見のための探究活動の時間を確保する必要を今後の課題として挙げることができる.
また,システムは自然と社会・経済とを分けて扱うのではなく,総合的に扱う点に意味を持つといえる.
 

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