日本地理学会発表要旨集
2017年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 802
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発表要旨
地理学習の視点から見たオリエンテーリングの学習の体系化について
*小林 岳人
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抄録

地図の学習は地理学習のほか、日常生活、見知らぬ土地、レクリエーション、変災時などで利用できる実用的な側面も要求される。自然災害に頻繁に見舞われる日本では防災の視点から、海外での利用のようなグローバルな視点から、空間的な情報の伝達やコミュニケーションのツールとして地図の学習に対しての社会的な期待は大きい。地図の学習は学校教育はもちろん、社会教育などあらゆる教育の場面を含めた生涯学習において必要である。 このような地図の学習の基本は、地図で示されたところが現地のどこであるか、現地がどのように地図で表現されているか、という「地図と現地との照合」の技能にある。これは「地図読図技能」と「現地観察技能」に基づくものであり、さらに「ナヴィゲーションの技能」につながるものである。学校教育においては地理教育が担うものであり、これらは、地理教育における地図学習と野外学習の接点に位置付けられる。そしてこの技能はオリエンテーリングによって学習、習得することができる。地図学習では実用的な地図利用方法の習得が課題とされ、野外学習ではどこでもできる共通の学習内容が課題とされている。オリエンテーリングを授業で実施することはそれぞれの課題の解決ともなり、学習した技能は地理の学習を深めるだけではなく日常生活においても役立つ。教員1名生徒40名といった学校での標準的な授業において野外での地図を扱う効果的な学習形態として他に見当たらない。 オリエンテーリングにおける学習体系・指導体系についてはオリエンテーリング競技の視点において研究が進められているほか、教育の視点においては野外活動の領域で行われている。期待される効果のためにはオリエンテーリングを地理学習の視点から体系的系統的にとらえる必要がある。授業での実践や分析と諸外国におけるオリエンテーリング指導に関する文献や実例からオリエンテーリングの学習体系を考えると、距離やコントロールの位置などのコース設定とともに実践の場所とその地図に大きく関係しており、地理・地図学習の視点と一致する。学校敷地のオリエンテーリング地図(1:2000)、近隣公園(1:3000)、大規模公園(1:5000)、森林(1:7500)と順に場所と地図の縮尺を変えたオリエンテーリングの実践となり、それに伴い地図と現地との照合技能はスパイラル的に深化していくと考えられる。 オリエンテーリングは学校教育において地理教育以外でも教科・科目の枠組みを越え教育の多方面にわたってそれぞれの場面に見合った効果をもたらすことができる。クロスカリキュラム、コラボレーションなどの視点を包括している。地理以外の授業、部活動、学校行事など、学校教育でのいろいろな場面で、それぞれに見合ったテーマを伴うことができる学習である。興味を持った生徒を競技会へ誘い、将来的に社会教育のなかでの活動につながる。土地への興味という観点からは地図や地理に関しての生涯学習となろう。多方面でのオリエンテーリングの活用に際しても学習体系の考え方は必要である。 従来は「何を学ぶか」を中心にしていたが、次期学習指導要領では「何ができるようになるか」が軸となっている。そのため、これを実現するために「どのように学ぶのか」が強調されており「学び」の本質として重要になる主体的で深い学びの実現を目指す授業改善の視点がアクティブラーニングの視点であるとして生徒が主体的に参加する授業づくりを強く求めている。また、地理は「地理総合」として必修科目となる。その一つの柱はGISである。GISを活用して精細なオリエンテーリング地図を作ることでその土地に価値(読図学習、楽しみ)を与えることができる。オリエンテーリングを地理学習で扱うことは相応しい。

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