日本地理学会発表要旨集
2017年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P087
会議情報

発表要旨
高校地理B・ジグソー法の手法による中国地誌授業の試み
必修となる地理総合を視野に
*山内 洋美
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

1.新科目「地理総合」(仮称)実施にかかる課題
昨年12月4日に開かれた日本学術会議公開シンポジウム「高等学校地理総合(仮称)必履修化による地理教育への社会的期待と課題-現場の地理歴史科教員を支援するために日本学術会議は何ができるか-」のテーマ1「地理総合に関する教育現場からの期待と課題」の,特に課題の部分において,現場の中高教員から出された,「基本的知識や技能の欠如」とそれをどう育てたらよいのかという疑問は,筆者にとっても日常的に感じている課題である。
地理総合を学習することで,地理空間情報を使って判断・意思決定ができるような人材を育てようとするには,読図と作図が欠かせないと考えている。しかし,その土台となる系統地理分野の自然地理分野の理解が中学校までにどの程度なされているかということに関しては,地域差も大きく,また入試を経ていることで現場での違いが非常に大きいといわざるを得ない。ただ,おそらく共通して言えることとして,近年の高校生は,スマートフォンが普及したことで,現在地をGPSなしで確認したり,紙地図を読むといった需要を感じていないためか,読図能力に欠け,スマートフォンのナビがなければ目的地に到着できないような状況である。それを前提として考えうる共通の課題を挙げてみたい。
中学校地理的分野での地域調査にかかるフィールドワークについては,宮本(2009)に述べられて以降もあまり行われていないという声をあちこちで聞く。高校地理A・Bにおいても,その状況はおそらくあまり変わらない。毎年,勤務校周辺でのフィールドワークを夏季休業中の課題としているが,地図にルートを示しても,チェックポイントを通り過ぎてしまうグループが毎年複数見られるし,また周辺を観察して地図に書き込むことが難しいのが現状である。さらに,数学の平面図形・空間図形分野が苦手な生徒も多いと聞いており,そのためか目視による教室の天井の高さの推測や,教室のおおよその面積の積算が難しい生徒も見られる。また,白地図で作業を行う際,地図帳や教科書などと図法が異なると,地図の形を同定することが難しい生徒もみられる。つまり,地理的技能として欠かせない,身体感覚として空間をとらえることが苦手な生徒が増えていると感じている。そのような地理的技能を育てるのは高校段階からでは非常に難しいが,それも含めて育てなければ,地理総合の3つの大単元のうち ⑴ 地図と地理情報システムの活用 を学習することそのものが困難になると考えられる。残り2つの大単元 ⑵ 国際理解と国際協力 ⑶ 防災と持続可能な社会の構築 を学習するにも,身体感覚として空間をとらえることが苦手なために,背景となる環境条件の違いと人間生活への影響や,地域性の違いについて考えることが難しい生徒もみられる。特に⑵ 国際理解と国際協力 において,科目の特色として挙げられている3点のうち,①持続可能な社会づくりを目指し,環境条件と人間の営みとの関わりに着目して現代の地理的な諸課題を考察する科目 にしたがって,ある地域を,地理総合設置の意図に従って動態地誌的に扱おうとするには,まず環境条件の違いをどのようにとらえさせるか,ということが重要になると考えられる。さらにその前提としての読図・作図能力が非常に重要となるのではないか。  
2.ジグソー法の手法による中国地誌授業の試み
地理総合で意図される,地理空間情報を活用し判断できる力は,現在の教育課程の生徒ではどのように発揮されるのかをみるために,地理Bの世界地誌の単元において,ジグソー法の手法を取り入れながら,生徒たち自身に中国地誌をまとめさせようとした。これまで前節でも述べた理由から、地理的技能の中でも特に読図と作図に力を入れてきたこともあり,その技能を用いて,地域性の把握の一つとしての中国の人口境界線(いわゆる黒河・騰冲線)がなぜそこに引かれているのかを考えさせようとしたものである。白地図等を用いたエキスパートA(自然環境と農業)・B(鉱工業と経済)・C(民族・宗教と人口推移)各班用のプリントを作成し,それぞれ教科書・資料集から元となる図やデータ・グラフを指定して,読図・作図の上、読み取らせた。その後、A・B・C班からそれぞれ1人ずつ集めたジグソー班を作って、各班で資料から読み取ったことを共有し、人口境界線の位置について考えさせた。その結果と新たにみえた課題については、当日述べる。  
3 参考文献
中教審 初等中等教育分科会 教育課程部会 教育課程企画特別部会(第26回)配付資料 2016.12.6
宮本 静子 中学校社会科地理的分野の「身近な地域」に関する教員の意識 新地理 57(3), 1-13, 2009-12

著者関連情報
© 2017 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top