日本地理学会発表要旨集
2017年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 403
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発表要旨
ブラジル・セルトンの水文環境と人間活動(8)
-土壌水分に応答するカーチンガ構成樹木の葉フェノロジー-
*吉田 圭一郎宮岡 邦任山下 亜紀郎羽田 司オリンダ マルセロ篠原 アルマンド秀樹ヌーネス フレデリコ大野 文子
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抄録

I はじめに
ブラジル北東部では乾燥気候が卓越し,熱帯季節乾燥林(seasonally dry tropical forest)であるカーチンガ(Caatinga)が分布する.カーチンガ分布域の中央に位置するサンフランシスコ川の中流域では,1980年代以降に灌漑農地の大規模造成が行われ,自然状態のカーチンガのほとんどが失われた.加えて,灌漑が農場周辺の水文環境を変化させ,カーチンガを構成する植物の生活史や植生構造に影響する可能性が指摘されている.
カーチンガを構成する樹木は水文環境の季節変化と対応した葉フェノロジー(leaf phenology)を持ち,短い雨季に一斉に展葉することが知られる.しかし,近年の少雨傾向もあり,降水の不確実性が高いため,カーチンガにおける葉フェノロジーの研究事例は少ない.厳しい乾燥環境下で独自の生態系を形成してきたカーチンガに対する灌漑の影響を考える上で,葉フェノロジーを含めたカーチンガにおける植物活動と水文環境との関連性を検討することは必要不可欠である.
そこで,本研究ではカーチンガ構成樹木の葉フェノロジーと土壌水分条件の季節変化を観測し,それらの関連性について考察することを目的とした.
II 調査地と方法
本研究の調査地は,ブラジル北東部に位置するペルナンブコ州のペトロリーナ周辺域で,ペトロリーナ中心部から約20km離れた郊外のアセロラ栽培が行われている農場(NIAGRO農場)において観測を実施した(2015年9月~2016年8月).農場内のカーチンガに気象観測点を設け,地上1.5mの気温と湿度,降水量,および20cm深の土壌水分量(体積含水率%)の連続観測を行った.また,農場内の2箇所に自動撮影デジタルカメラ(200万画素)を設置して,毎日正午にカーチンガの相関を撮影した画像を取得した.取得した画像中からカーチンガが写る範囲を対象に,各画素のRGB値から植生の緑色の濃さを示す指標であるGreen Ration(GR;Ahrends et al. 2008)を算出した.
III 結果と考察 
降水の無い乾季には土壌水分量は3~4%で一定であり,厳しい乾燥環境が持続していた.2016年1月初旬にまとまった降水があり,土壌水分量は8~10%に上昇した.その後,数日から1週間程度でGRも急激に上昇しており,雨季の開始とともにカーチンガの構成樹木が一斉に展葉したと考えられる(図1).無降水期間が継続すると,土壌水分量は急速に低下し,GRも漸移的に減少した.これは乾季への季節進行と共に,カーチンガの構成樹木が種毎の乾燥耐性に応じて落葉したものと推察される.
観測結果から,植物活動の指標となるGRは土壌水分量によく対応しており,カーチンガにおける植物活動が水文環境に強く依存していることが明らかとなった.また,カーチンガの構成樹木の葉フェノロジーは,土壌水分量の変化に対する感受性が極めて高いことが分かった.したがって,灌漑農地周辺のカーチンガでは,灌漑により生じた土壌水分条件の僅かな差異でも,植物活動や植生構造の変化を引き起こす可能性があることが推察された.
本研究は,科学研究費補助金基盤研究(B)海外学術「ブラジル・セルトンの急激なバイオ燃料原料の生産増加と水文環境からみた旱魃耐性評価」(研究代表者:宮岡邦任,課題番号:26300006)による研究成果の一部である.
<引用文献> 
Ahrends, H.E., Brügger, R., Stöckli, R., Schenk, J., Michna, P., Jeanneret, F., Wanner, H., Eugster, W., 2008. Quantitative phenological observations of mixed beech forest in northern Switzerland with digital photography. Journal of Geophysical Research 113. http://dx.doi.org/10.1029/2007JG000650 (G04004).

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