日本地理学会発表要旨集
2017年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 507
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発表要旨
東日本大震災の被災地における土地利用転換の特徴について
宮城県石巻市を事例にして
*山田 浩久
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抄録

都市計画とは,パレート効率的な都市形成を実現するために,土地利用の整備,誘導,規制を行うことであるが,施策者が将来を見誤ったり,予想していたパレート改善がなされなかったりする場合もありうる。また,都市は意思を持った個々人の集合体であり,総体的思考から生まれる都市計画に必ずしも個々人の意思が一致するわけではない。特に,突発的な大規模災害等によって,都市もそれを構成する個人も混乱状態にある場合は,計画の理論的な再考を含め,平常時よりも短いスパンで土地利用の変化を把握し,細やかに軌道を修正していかなければならない。土地利用転換に関わる詳細な空間データの構築は不可欠であるが,それに先立つ迅速な事実認定がまずは必要であると考える。
人口規模や市街地面積が大きくなるほど土地利用の現況を捉えるために要する時間は長くなるが,本研究では,その時間を短縮するための方策の一つとして衛星画像解析の有用性に着目し,宮城県石巻市を事例にして東日本大震災に伴う土地利用転換の特徴を同市の都市計画に絡めて試論的に報告する。
宮城県石巻市は16万人の人口規模を有しており(2010年国勢調査),東北地方太平洋沿岸域の中心地として機能してきたが,東日本大地震による津波によって中心市街地を含む約73km2が浸水し,全家屋数の約7割に達する53,742棟が被災した(石巻市発表資料)。震災後の最大避難者数は約50,000人,避難箇所は250個所にのぼり,2017年に至っても仮説住宅で避難生活を続けざるをえない避難者が存在する。
本研究で使用した衛星画像解析ソフトは米国Exelis Visual Information Solutions社のENVIであり,使用データは,RapidEyeの衛星画像である(リサンプリング後の解像度5m)。用意した範囲は,石巻市の市街地を中心とする約500km2であるが,市街地の連続性を考慮して,旧北上町,旧雄勝町,旧牡鹿町を外し,東松島市を含めて分析を行った。
NDVI(Normalized Difference Vegetation Index:正規化植生指標)を用いて,2010,2011,2015年(いずれも8月)に撮影された画像の差分抽出を行ったところ,旧市街地縁辺に大規模な土地利用改変が観察された。これは震災復興基本計画に基づく新市街地建設によるものと考えられるが,人工物の新設は新計画区域に隣接する旧市街地内部にも及ぶ。市担当者によれば,震災前に造成されていた土地にも住宅建設が進んだということである。同市の土地市場が低供給高需要の状況に陥ったことは,震災前には下落し続けていた市街地の地価が震災後に上昇に転じたことからも確認できる。復興事業の進展も加わり,2015年の時点で地価上昇は継続中であり,その範囲も面的な広がりを持つようになっているが,このような地価上昇は土地需要者の探索行動を郊外に向ける要因となると考えられる。
郊外農村域に対する大規模な土地利用転換は,県が事業主体となる農村整備事業(基盤整備事業)によるものが多い。震災との直接的な関連はない地区もあるが,震災による浸水や地盤沈下の被害を復旧するために一気に事業が進行した地区もある。また,未線引きの都市計画区域内や都市計画区域外に1~数戸程度の住宅建設が散見され,土地探索の郊外化を確認できた。

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