日本地理学会発表要旨集
2017年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P049
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発表要旨
諏訪湖における局地風と湖水温及び気温の日変化との関係
*吉田 幹赤坂 郁美宮原 裕一
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抄録
1.はじめに
諏訪湖には湖陸風が吹走することが知られている。吉野ほか(1970)は夏季には湖風吹走地域でより低温になることから、湖風には冷涼効果があるとしている。小田・神田(2009)によると、湖風と同じく水域と陸域の温度差により生じる海風にも冷涼効果があり、その理由として海風の吹走により水温の成層化が弱まることを挙げている。しかし、湖風も同様の理由で冷涼効果を持つのかは明らかになっていない。また湖風以外の卓越風が諏訪湖周辺の陸上気温に与える影響について、湖の水温変化との関係から言及している研究は少ない。そこで本研究では湖水温を水深別に測ることによって、湖水温の鉛直的な日変化と湖周辺地域に吹走する湖風・卓越風との関係を明らかにし、また水温の鉛直的な変化が湖周辺の陸上気温に与える影響を明らかにする。
2. 調査方法 湖水温の鉛直分布とその日変化を調査するために、2016年7月22日~10月5日の期間に、信州大学山地水環境教育研究センターが湖に設置しているブイに水温計(Onset Computer Corporation社製 HOBO U22 WTP v2)を設置し、水深別(0m付近(10cm~20cm)、0.5m、1m、3m、5m)に10分間隔で水温の観測を行った(図1)。また、諏訪湖周辺における湖風の吹走開始・終了時間及び湖風吹走時の気温、風の変化を調査するために、2016年8月23日~25日に、移動観測と定点観測により気温、風向風速の集中観測を行った。気温計はT&D社製TR-72u、風向風速計は中浅式風向風速計とNielsen-Kellerman社製 Kestrel 4500を用いた。観測日の天候や湖風・卓越風の吹走日時の特定のために、諏訪特別地域気象観測所と釜口水門の風向風速データも使用した。
3. 結果と考察 集中観測の結果から、湖北側と湖南側の観測地点での1時間平均風速が約3m/s未満で湖から風が吹く場合を湖風、風速が約3m/s以上で湖周辺の風向がほぼ同じ場合を卓越風であると判断し、風の吹走時間を特定した。結果として、湖風と卓越風の吹走時では湖水温の鉛直変化に違いが生じた(図2)。湖風吹走時は、湖風の風速が弱いため湖水の鉛直混合は進まず、水温の鉛直分布は成層化していた。そのため湖風が冷涼効果を持つのは、夜間に表層水温が低下することにより、日中になると陸上と水上の気温差が明瞭になるためであるといえる。また湖風の冷涼効果が及ぶ範囲は湖北側と湖南側で異なる。湖北側では気温上昇を約1℃抑制する効果が湖から約1km内陸までみられたが、湖南側では湖北側ほど顕著な冷涼効果はみられなかった。卓越風吹走時には、小田・神田(2009)の結果と同様に、湖水の鉛直混合が進み表面水温が低下する傾向が見られた。この時、風下側では湖に近いほど気温が低くなっており、冷涼効果が認められた。 
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