日本地理学会発表要旨集
2017年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S0408
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発表要旨
山岳研究の研究動向
Mountain Research and Development誌の分析を事例に
*横山 智
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抄録

■研究目的 平成29年度より筑波大、信州大、静岡大、山梨大の4大学連携「山岳科学学位プログラム」(修士課程)が開始される。教育プログラムとして学位を出すには、学問の体系化が求められよう。しかし、現在の日本において、山岳研究は決して体系化されているとは言えない。学際的な研究分野と考えられるが、これまでどのような学問分野が、山岳研究に関わってきたのか。また、現時点では、山岳(山地)科学と呼ぶのが適切か、また山岳(山地)学が適切なのかという問題も残されている。 そこで本発表は、山岳研究の過去35年間の研究動向を整理し、山岳研究の体系化のための情報を提供することを目的とする。 なお発表では、自然地理学分野に限らず、発表者の専門分野である、人文地理学や人類生態学などの人文社会科学系分野の山岳研究についても考察したい。
■対象学術誌 山岳研究の研究動向を把握するために、英文学術誌の論文データを用いた。分析対象とした学術誌は、1981年刊の“Mountain Research and Development (MRD)”誌である。MRD誌刊行以前には、1913年から刊行されている“Revue de géographie alpine (Journal of Alpine Research)”があるが、論文のほとんどが仏語である。そして、MRD誌以降には、2004年に中国科学院・成都山地災害環境研究所からピアレビューの国際誌として“Journal of Mountain Science (JMS)”が刊行されている。しかしJMS誌は、刊行後12年しか経過していないことから論文の蓄積が少ない。その点、MRD誌は2016年末時点で、36巻(合計141号)が出されており、論文が多く蓄積されている。加えて、人文社会科学と自然科学の両分野が掲載され、内容も理論、現地調査報告、そして開発の実践まで幅広くカバーしており、学際的な学問分野である山岳研究の分析対象誌として相応しいと判断した。
■分析方法 電子図書館JSTOR(https://www.jstor.org/)からMRD誌に掲載された全論文のメタデータファイルを文献管理アプリケーション(EndNote X7)に読み込んだ。その後、ピアレビューかつ英文アブストラクトが掲載されている論文だけを絞り込み、最終的に1230本を分析対象とした。それらの論文をエクセルで読み込むことができる形式で出力し、研究対象地域と研究分野の情報を追加した。なお、研究分野は単にタイトルやキーワードだけでなく、アブストラクトと本文を読んで分類した。
■結果 MRD誌に掲載された論文の研究対象地域と研究分野について、クロス表で集計した結果を表1に示す。研究対象地域の数としては、南アジア(ヒマラヤ)が最も多く、次いで南米(アンデス)とヨーロッパ(アルプス)がほぼ同数で2番目の論文数となっている。また研究分野としては、development studiesが最も多い。development studiesには、コミュニティ開発や自然資源利用政策、ジェンダー研究などのトピックが多く見られた。 最終的に、時系列にどの地域でどの学問分野の研究が盛んに行われたのか、またそれぞれの研究対象地域および研究分野において、どのようなトピックが議論されたのかについて明らかにしたい。したがって発表では、数量的な統計分析に加えて、対象とした全ての論文のアブストラクトをJMP Proを使用して、テキストマイニング(語句の抽出)を実施し、地域および研究分野ごとの主要なキーワードを抽出した結果を示す。それによって、過去35年間の山岳研究の動向を総合的に解明し、今後の研究の方向性を示したい。

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