日本地理学会発表要旨集
2017年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 616
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発表要旨
「地域づくり」における地域運営組織が果たす役割
*作野 広和
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抄録

政府は,2015年に「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を改定し,地域住民のくらしを守っていくための具体的施策を明確化させた。そこには,政策の基本目標の一つとして,「時代に合った地域をつくり,安心なくらしを守るとともに,地域と地域を連携する」と明記されている。そのための施策として,「小さな拠点」の形成(集落生活圏の維持)が掲げられている。具体的には,①複数集落の連携による集落生活圏を確立し,②地域課題解決のための地域運営組織を形成し,③生活サービスの維持・確保のために「小さな拠点」を整備していくことが掲げられた。 一連の政策は,「まち・ひと・しごと創生本部」が国の重要政策として牽引しているものの,実質的な議論は総務省主導で行われてきた。前述した3つの具体的施策は,人口減少や高齢化が著しい中山間地域を維持するために重要な政策である。これまでの政策は,中山間地域を構成する集落の維持に力点が置かれてきたが,今後は集落のまとまりである集落生活圏が重視されることとなった。この点は,政策的に大きな転換であり,末端の集落が切り捨てられることを懸念する意見もある。また,「小さな拠点」という表現から,集落機能を中心集落に集約するイメージが強いとの指摘もある。  また,これまでの中山間地域政策は,機能の維持・強化に特化してきたといえる。しかし,そのための組織化や合意形成については,ブラックボックスとして扱われ,政策の対象として中心に据えられてこなかった。数年前から議論されている地域運営組織の形成のためには,地域住民の話し合いによる合意形成が不可欠である。そして,既存の住民自治組織である集落や自治会といった地縁的組織との関係や,集落生活圏と重なることが多い公民館や校区を単位として活動してきた既存組織との関係も考慮する必要がある。さらに,任意の地域づくり組織やNPOなど,地域運営組織をとりまく組織は非常に多い。  言うまでもなく,地域課題は地域によって異なるため,地域運営組織のあり方は,地域特性を強く反映している。本報告では,これまで十分に研究されてこなかった地域運営組織の設置状況に関する地域的特色を明らかにする。具体的には,総務省が行った調査結果を分析するとともに,いくつかの事例を用いながら,設置のプロセスや既存組織との関係から,地域特性が組織化にいかなる影響を与えているかについて明らかにする。  総務省の調査によると,1,590市町村のうち,494市町村(約31%)で地域運営組織が設置されている(2015年度調査)。また,地域運営組織が活動している494市町村のうち,市町村の全域に設置されている市町村は153市町村(約31%)であり,他の市町村は一部に設置されているに過ぎない(同)。国のKPI(重要業績評価指標)においては,地域運営組織の形成数を3,000としているが,平成の合併以前の1999年に3,232の市町村があったことと比較すれば,地域運営組織の設置数は決して多くない。  しかし,設置地域を見る限り市町村によってその設置状況に偏りが見られる。すなわち,特定の市町村には多くの組織が設置されているが,全く設置されていなかったり,1組織のみ存在していたりする市町村も多く見られる。  一連の結果から,地域運営組織の設置状況に関する地域的特性を,以下の2点に整理することができる。第1は,地域運営組織の設置は,市町村が政策的に誘導しており,そこでは全市的に展開している。これらの市町村では,地域運営組織の広まりという観点においては有効であるが,住民感情として「行政から押しつけられた」という思いの蔓延や,組織の形骸化・形式化が懸念される。中国地方では岡山県岡山市において,各学校区単位で「安全・安心ネットワーク」が設置されているが,その活動実態は相当ばらつきが生じている。  第2の特徴として,地域運営組織が存在していないとされる市町村では,地域運営組織とは異なるカテゴリーに分類されている組織がその役割を担っている市町村も存在している点である。具体的には,自治会・町内会,公民館,社会福祉協議会などが考えられる。島根県松江市の地域運営組織は1団体のみが挙げられているが,実際には学校区を単位とした公民館が地域自治,地域福祉,地域防災,地域教育など,地域課題解決のために重要な役割を果たしている。  調査の結果,設置数は少なく,地域課題を解決する組織として全国的に定着しているとは言い切れない。ただし,このことは既存の組織がその役割を担っている地域や,逼迫した地域課題が少ない地域も存在していることを裏付けている。今後は,個別事例を積み上げることで,地域特性を明らかにする必要がある。

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