日本地理学会発表要旨集
2017年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 108
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発表要旨
熊本地震に伴う阿蘇地方への道路網及び公共交通における影響について
*能津 和雄
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抄録

1.はじめに
2016年4月14日の前震、16日の本震の2度にわたって震度7を記録した熊本地震は、4200回以上にわたって発生が続いてきた。地震の被害は建物だけでなく交通網にも広がっており、その結果直接被害を受けなかった地域まで深刻な影響を及ぼしている。道路網や公共交通が受けた被害は地元住民の日常の通勤通学のみならず、物流や観光客の流れにも波及しており、地域における経済活動に支障をきたしている状況にある。
本報告では、阿蘇地方と周辺地域を結ぶ道路網と公共交通に焦点を当て、どのように地震の影響を受けてきたかを明らかにするとともに、復旧の過程をたどることで今後の復興に向けた道筋を示すことを目的とする。
2.道路網における影響
阿蘇地方への道路交通は、熊本市と大分県大分市を結ぶ国道57号線が大動脈として機能してきた。この国道は「阿蘇谷」と呼ばれる阿蘇五岳北側のカルデラ内を東西に横断している。一方、阿蘇五岳南側は「南郷谷」と呼ばれ、南阿蘇村立野から分かれる国道325号線が東西方向の交通路になっており、宮崎県高千穂町へつながる路線を形成している。南郷谷へは熊本市から西原村を経て南阿蘇村につながる県道28号線俵山バイパスも通じている。阿蘇外輪山北部の小国町・南小国町へは国道442号線が横断し、西は大分県日田市中津江村から福岡県八女市へ、東は大分県竹田市と結ばれている。
南北方向に関しては、国道212号線が大分県日田市から熊本県小国町と南小国町経由で阿蘇市へ通じており、福岡県方面からの重要なルートになっている。これを補完する形で国道387号線が熊本市から大分県日田市中津江村を経て再び熊本県に入り、小国町を横切って北東方向の大分県九重町引治を結んでいる。大分県由布市湯布院町からは九州横断道路を構成する大分・熊本県道11号線(別府阿蘇道路・通称「やまなみハイウェイ」)が九重町飯田高原・同八丁原より牧ノ戸峠を越えて熊本県南小国町瀬の本に入り、産山村をかすめながら阿蘇谷へ降りて阿蘇市一の宮町宮地へと通じている。
以上の道路網のうち、国道57号線と国道325号線が分岐する南阿蘇村立野で大規模な土砂崩落が発生し、熊本方面から阿蘇谷へ入るメインルートが遮断されている。この場所の復旧は絶望的な状況で、既に別ルートでの建設工事が始まっている。阿蘇谷方面へは二重峠を越える県道339号線と同23号線(通称ミルクロード)しか交通路がない状況である。このため交通が集中するだけでなく、険しい山道であることから慢性的な渋滞により通勤通学から物流・観光にまで支障をきたしている。一方、南郷谷へもやはり険しい山道である広域農道「南阿蘇グリーンロード」に頼らざるを得ない状況にあったが、2016年12月24日に県道28号線俵山バイパスが一部迂回しつつも復旧したため、状況はかなり改善した。
小国町・南小国町方面では国道212号線が大分県日田市内で土砂崩落のため2016年8月まで通行止めとなり、福岡県方面からの宿泊客が多い杖立温泉や黒川温泉は大打撃を受けた。
3.公共交通における影響
鉄道に関しては、阿蘇谷の東西方向に大分市と熊本市を結ぶJR豊肥本線が通じており、南阿蘇村の立野からは南阿蘇鉄道が分岐して南郷谷へ向かい、高森町と結んでいる。
豊肥本線も国道同様に立野での土砂崩落で甚大な被害を受け、肥後大津-阿蘇間の復旧は全く見通しが立っていない。一方、阿蘇-豊後竹田間は2016年7月9日に復旧し、大分から阿蘇までは特急列車の運行も再開した。南阿蘇鉄道は高森-中松間のみが復旧したが、立野へ通じていないことから、本来の役割であるJRへの連絡路線としての機能を果たせない状況にあり、事実上遊覧列車のみの運行となっている。
長距離バスに関しては、国道57号線を利用する特急バス「やまびこ号」がミルクロード経由で運行されているが、JRから乗客が移っていることもあって利用者が多く、6往復から7往復へ増便されている。福岡方面から南小国町黒川温泉を結ぶ高速バスは前述の国道212号線の通行止めの影響を受けて、2016年10月まで迂回運行となったものの、本来の便数である4往復は維持している。その反面、別府と熊本を結ぶ九州横断バスは、大幅なルート変更を強いられた上に、4往復から2往復へ減便している状況である。
4.今後への展望
現状では、地震前の交通網に完全に戻すことは不可能と言わざるを得ない。このため、可能な形で交通網を再構築することが喫緊の課題と言える。特に公共交通については、観光客の周遊ルートも含め、抜本的な見直しが必要になるといえよう。
 ※本研究はJSPS科研費26360076(研究代表者:能津和雄)の助成を受けた研究成果の一部である。

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