日本地理学会発表要旨集
2017年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 511
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発表要旨
企業による農業の展開 - モヤシ生産を事例
*松尾 忠直
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キーワード: モヤシ, 栽培, 企業, 持続, 日本
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抄録

1. 背景と目的
日本の企業による農業は、技術革新により施設栽培において進展してきた(松尾2009)。構造改革特区が制定されて以後は、土地利用型の農業においても、それは顕著に見られるようになった。近年、後藤(2015,2016)にあるように、さまざまな進出がみられるようになり、食料自給率の維持・向上という観点からみても重要な役割を担うようになっている。
本発表では、日本の企業による農業の一例としてモヤシの生産を取り上げる。特に、モヤシの産地の分布の変化に注目し、その背景としての企業による生産を紹介する。さらに、企業による農業の一例としてキノコ類の中から生シイタケの生産を取り上げ、若干の比較をしたい。その上で、企業による農業がどのように進展してきたのか、生シイタケとモヤシを生産する企業において、どのような特性や共通性がみられるのかを明らかにする。
そこで本発表では、モヤシを生産している企業の実態を明らかにし、企業がどのように持続的な生産を可能にしているのかを考察する。対象地域はモヤシの生産が盛んな栃木県やその周辺である。

2. モヤシ生産の特徴
モヤシは温度や湿度の制御された施設(工場)の中で生産されており、キノコ類の生産と似ている。収穫と包装の作業は自動化されている部分が多くなっている。キノコ類の生産では収穫と包装の自動化が難しいものがあるため、この部分ではモヤシの生産のほうがより省力化ができ、コスト削減に結びついている。
統計によると、ここ10年くらいの日本のモヤシ生産量は40万トンから45万トンを維持しており、生産量の急激な増加は見込めない状況にある。100グラムあたりの価格は下がる傾向にあり、より一層の経費削減が必要な状況にある。
スプラウト類はモヤシに代表されるように企業による生産が多くみられ、キノコ類よりも、より工場的な生産がみられる。調査対象の企業は、首都圏近郊に工場が複数あり、1日で数百トンのモヤシを生産できる。この企業は首都圏のスーパーマーケットなどへ出荷している。出荷先は工場から近接した地域が多く、生シイタケのように航空便を用いて北海道から首都圏へ出荷するような事例はみられなかった。

3. 企業による農業の比較
モヤシと生シイタケを生産する企業を比較すると、生産物の流通に関しては、差異がみられる。すなわち、モヤシは生シイタケよりも、狭い範囲での流通がみられる。生シイタケでは、菌床栽培の開発以後に進出した企業が多くみられるが、モヤシでは小規模な栽培から企業化した事例がみられる。

参考文献
後藤 拓也 2015. 企業による農業参入の展開とその地域的影響 : 大分県を事例に. 経済地理学年報 61(1): 51-70.
後藤 拓也 2016. 食品企業による生鮮トマト栽培への参入とその地域的影響 : カゴメ(株)による高知県三原村への進出を事例に. 地理学評論 89(4):  145-165.
松尾忠直 2009. 北海道における生シイタケ栽培への企業参入と生産構造の変容.季刊地理学 61(2):  89-108.

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