日本地理学会発表要旨集
2017年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 506
会議情報

発表要旨
空き家管理事業の展開とその可能性
*西山 弘泰由井 義通若林 芳樹櫛引 素夫
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
1.はじめに
空き家への社会的関心が高まる中で,あたかもすべての空き家が社会に悪影響を与えているといったような偏った認識が広く流布しているように感じられる。社会全体からみて,空き家の増加は好ましいこととは言えないが,個々の空き家所有者の声に耳を傾けたとき,「空き家のままにしておくのも無理はない」と考えさせたれるケースも多々存在する(表1)。処分するというのが経済的に最も合理的であるとわかっていても,それを選択することができない。そうした空き家所有者はどうすればいいのか。これが本研究の出発点であり,問題意識である。
国や地方自治体では,空き家の増加を抑制するため,リノベーションやコンバージョンに注目している。しかしながら,さまざまな理由により空き家にせざるを得ないケースも多く,今後そうした空き家がさらに増加することが予想される。いわば宿命というべき空き家の増加に対処していくためには,管理不全の放置空き家を増やさないための仕組みづくりが重要になる。
そこで本研究では,近年事業者の参入が相次いでいる空き家の適切な管理を請け負う空き家管理事業に着目し,その実態や今後の可能性を検討する。
2.空き家管理事業の概況
これまでも空き家の庭の手入れは造園会社などが請け負うケースは存在したが,2012年ごろから空き家が注目される中で,空き家管理を全面にPRし,事業を展開する業者が現れるようになった。ただし,空き家管理を単体で行っている事業者は存在せず,本業に付随したサイドビジネスと位置づけているものが大半である。
事業の内容は,主に定期的な巡回(見回り)や除草,庭 木の剪定,家内の通風・清掃,郵便物の転送,破損箇所の修理,害虫・害獣の駆除,近隣住民への挨拶,報告書作成・送付などである。事業者によっては,個々の空き家所有者に対し相談窓口を儲け手厚いサポートを無料で実施しているものも存在する。これらの業務は中小零細企業だと事業者単体で行うが,中堅から大手では協力企業(下請けの零細企業)または子会社に委託する場合がほとんどである。料金は作業メニューや敷地・建物の規模によって異なるが,100円からサービスを提供している事業者もある。年契約の場合,平均1万円前後/月となる場合が多い。
空き家管理サービスを活用する利用者は,その大半が遠方に居住している。表1に示したような理由により当サービスを利用しているが,周辺に悪影響を与えてはいけないという責任感が強く,比較的金銭的に余裕のある層である。空き家管理サービスについては,インターネットを閲覧し問い合わせてくることが多く,契約時には電話や電子メールでのやり取りがほとんどとなる。
3.空き家管理事業の現状と可能性
空き家管理事業に参入するのは,不動産業者を中心に,警備会社,清掃業,建設業,リフォーム業,各地のシルバー人材センターなどである。社会貢献や行政とのタイアップを意識し,NPOの形態をとる事業者もあるが,その多くは不動産会社を母体としている。近年では,電力会社が検針時に,新聞社が新聞配達時に空き家の巡回サービスを実施しており,乱立状態の様相を呈している。これらの業者のほとんどは,空き家管理事業そのもので収益を上げることは念頭にない。例えば不動産業者は将来的な土地の売買や賃貸住宅の建設を,警備会社は防犯カメラの販売促進を,電力会社は電力自由化に伴う顧客の囲い込みを,というように空き家を通じた本業への波及効果を期待している。
ほとんどの業者は収益が全く上がっておらず,また今後も爆発的な市場拡大や大幅な収益向上は見込まれないとしている。さらに期待したような波及効果も乏しい。よってどの事業者も空き家管理事業に対して手探り・様子見の状態であり,将来性が不透明な市場であることから,今後事業から撤退する業者も現れることが予想される。空き家管理事業が事業として確立されていない背景は,利用価値のない空き家に多額の管理費を払うことに価値を見出す空き家所有者が多くないこと,業界団体が存在せず社会的認知や信頼性が乏しいことなどがあげられる。その課題を克服し,事業エリア内(事業所から概ね1時間以内)に50~100件の顧客を確保できれば,単体の事業として成立していく可能性がある。そのためにも,社会全体で空き家管理の重要性を浸透させていくと同時に,空き家管理業界全体で研鑽を積み,認知度や信頼性の向上を図っていくことが求められる。
Fullsize Image
著者関連情報
© 2017 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top