抄録
住宅市場で長期間滞留する空き家の実態把握については十分とは言い難い.そこで本研究では,住宅流通が比較的活発な大都市地域を対象に,市場で長期間売れ残りとなった流通空き家(デットストック)の地域的差異やその多寡の要因について明らかにすることを目的とする.
本研究では,国土交通大臣指定の近畿圏不動産流通機構が保有する近畿2府4県の成約事例データを用い,売買物件の既存マンション及び既存戸建住宅の市場滞留期間(成約日数)や価格変更幅(価格開差率)を把握した.成約日数は既存住宅の売り出しから成約に至る日数を,価格開差率は売り出し価格から成約価格までの値引幅を示し,当該数値が拡大する地域ではデットストックが増加しやすいことを表す.
既存マンションの成約日数は2013年から15年にかけてほとんど変化していないが,既存戸建の成約日数は長期化しており,相対的に戸建取引が困難になる傾向にある.価格開差率も既存マンションは13年から15年までほぼ横ばいであるのに対し,既存戸建は拡大しており15年10~12月期の既存戸建の開差率も大きく戸建に対する需要が弱いことがわかる.
府県地域別の成約日数は,大阪のベッドタウンである奈良県が最短だが,和歌山県は最長となっており,地域的な需要の多寡が表れている.価格開差率は,需給がタイトで価格水準が高い京都市が低いが,奈良県は最も高く,値引きによって成約を促す傾向がみられる.
既存住宅市場では,戸建住宅や経年住宅がデットストック化しやすく,特に和歌山県でその傾向が強いことが明らかとなった.これは住宅ストックの空き家率の高さとも符合するが,こうした地域では単に流通市場に委ねるだけでは放置空き家の解消は困難と考えられる.空き家問題の解決には,流通以外にも当該住宅の性能改善や用途変更,除却など地域に応じた多様な選択肢を用意する必要がある.