抄録
1.浅間山北麓ジオパークの地域概要 群馬県吾妻郡嬬恋村吾妻川右岸域と長野原町全域をエリアとする浅間山北麓ジオパークは2016年9月に日本ジオパークに認定された。 2.調査目的 ジオパークの加盟申請書やパンフレット類などの記述、加盟審査プレゼンテーションでの内容などを用い、浅間山北麓ジオパークにおいて構築されたジオストーリーについて論じるとともに、ジオストーリーの観光面や教育面での活用方策についても提案する。 3.テーマ 浅間山北麓ジオパークのテーマは「浅間山とともに未来へ―破壊と再生がつなぐ人々の営み―」である。浅間山北麓ジオパークは、浅間山とともに暮らしてきた人びとの苦労や、現在の豊かな暮らしに至る一連のストーリーに焦点を当て、地域の未来を担う子どもたちや来訪者に伝えていくことを目指して活動している。 4.ジオストーリーの概要 日本の各ジオパークではテーマを設定し、それに基づいたストーリーを構築することが求められている。ジオパークの数が増加するとともにジオパークの差別化を図ることが難しくなりつつもある。しかし、テーマ設定とストーリーの構築の作業をすることにより、その地域ならではの大地の物語に焦点をあてることができる。すなわち、テーマとストーリー設定の切り口を工夫することで各ジオパークともオリジナリティあふれた整備が可能となる。日本には火山を主要テーマとしたジオパークは多くあるが、それぞれのジオパークでテーマやストーリーは異なり、見どころとなるジオサイトの選定内容も多様である。 浅間山北麓ジオパークでは、ジオパークを推進する目的として、火山活動の恵みを享受し災害と向き合ってきた地であることを次世代につないでいくこと、また人びとが出会い交流する地としていくことである。天明三年の浅間山大噴火においては、土石なだれが発生し、当時の鎌原村が壊滅状態となった。477名が死亡し、残された93名のほとんどが村の高台の鎌原観音堂に逃げた人であった。残された93名で新たに家族を10組ほど作り、村を再生させ、今もなお嬬恋村の鎌原地区にその末裔が暮らしている。観音堂に隣接する形でおこもり堂が設けられ、鎌原観音堂奉仕会の方々が毎日当番制で、観音堂をお守りし、来訪者に火山災害の伝承を行っている。火山噴火災害と復興の歴史、そして233年前の災害を現在まで語り継いできた伝統は大切な文化であり、財産でもある。鎌原村は天明三年噴火災害に関するジオストーリーの中心となる場所であるが、天明三年噴火に関連する資源は他にも多くみられる。例えば、鬼押出し溶岩が一面に広がる大地の中を散策することのできる鬼押出し園や浅間園遊歩道、また国の特別天然記念物「浅間山溶岩樹型」も天明三年噴火時の火砕流によって作り出された。溶岩樹型近くの鬼押出し溶岩の側端部では風穴が確認され、これも天明三年噴火の恵みである。 このように、天明三年噴火というテーマに基づいても、多くの魅力的なジオサイトや地域資源を組み合わせてジオツアーコースとすることができる。 浅間山北麓ジオパークの加盟申請書によれば、時代別の分類によるジオストーリーもあり、浅間山に関連した多種多様な資源を、さまざまな切り口からストーリーを構築することが可能である。