抄録
Ⅰ はじめに
2014年6月、地域で育まれた伝統と特性を有する産品を保護するため「特定農林水産物の名称の保護に関する法律(地理的表示法)」が公布され、翌年6月より施行された。同法は、地域で育まれた伝統と特性を有する農林水産物食品のうち、産地と品質などの特性が結びつき、その結び付きを特定できるような名称が付されるものについて、その地理的表示を知的財産として保護し、生産業者の利益の増進と需要者の信頼の保護を図ることを目的としている。2016年12月現在、地理的表示保護制度に基づき、品質、社会的評価その他の確立した特性が産地と結び付いている農林水産物産品が24種登録されている。
地理的表示保護制度のメリットとして内藤(2015)は、①国による一定品質のお墨付き、②品質保証の仕組み構築、③不正使用に関する行政の取締り、④地域全体の共有財産としてのブランド振興などを掲げている。北海道産昆布は、既に産地や品種などによる呼称により市場から一定の評価を得ているともいえるが、制度活用により上記をより確実なものとし、産地において資源としての認識を高めるためにも有益である。本研究では、北海道産昆布に地理的表示保護制度を活用することにより、地域資源として付加価値を向上させる有効性を検討することを目的としている。
Ⅱ 問題の所在
わが国において、生活習慣の変化や食生活の多様化は、一般家庭の食卓に大きく影響し、かつて当たり前であった「食」が大きく様変わりしている。北海道は日本一の昆布生産地であるが、その消費量は全国的に見て余り多くない。昆布の消費が多い地域では、古くからだしや食利用などにより伝統的な調理法化が継承され、豊かな食文化を有する。北海道産昆布は、日本の食文化において、伝統文化を育む和食のだしとして重要な役割を担いながら、その生産活動や昆布の効能などが十分に理解されていない。
一方、昆布漁師の高齢化や後継者不足による担い手の減少および天候や生育環境など自然環境の変化により、昆布の生産量が年々減少している。北海道内の昆布産地では、漁業後継者の確保や育成に向け、漁業後継者・新規就業者・就業希望者などに対する各種支援制度設置などの人材育成に取組み、漁師の減少を食い止めるための諸施策が実施されている。
Ⅲ 今後の課題
地理的表示保護制度の活用により、北海道の昆布産地において地域資源としての理解や地域に対する矜持を醸成し、産業として生産から出荷に至るより確かな仕組みづくりを構築することにより、漁業後継者の人材確保と安定供給を維持し地域に豊かさをもらたす取組みが必要である。
参考文献
高橋梯二(2015)『農林水産物・飲食品の地理的表示』農文協
内藤恵久(2015)『地理的表示法の解説』大成出版社
付記
本研究は、日本学術振興会「課題設定による先導的人文学・社会学研究推進事業」実社会対応プログラム(公募型研究テーマ)「日本の昆布文化と道内生産地の経済社会の相互連関に関する研究」(研究代表者:齋藤貴之(星城大学)、研究期間:平成27年10月1日~平成30年9月30日)の成果の一部を使用している。