抄録
1 はじめに
内陸盆地に位置する長野市は人口約38万人の中都市であり,夜間を中心にヒートアイランド現象が見られ,郊外の接地逆転強度が大きいほど,ヒートアイランド強度は大きくなることが指摘されているが(榊原ほか,1998),ヒートアイランド強度の時間変化については良くわかっていない.一方で,長野市の中心部には山風が吹き込むことが指摘されており,夏には市街地の気温の低減効果があるとされる(浜田,2001).しかし,この効果とヒートアイランド強度の関係も不明瞭である.そこで,本発表では長野市においてヒートアイランド強度の時間変化を明らかにすることを目的とし,加えて郊外の接地逆転と山風がヒートアイランド強度に与える影響について考察した.
2 方法
2017年10月から2018年3月の日から,長野地方気象台において18時から翌06時の平均風速が2m/s未満かつ降水量0mm以下(0.0mmを含む)かつ雲量の平均(21時と03時)が5以下の日の45日間を解析対象とした.ヒートアイランド強度の算出地点は,都市が長野駅善光寺口,郊外が都市から6kmほど西にある住宅地と農地が広がる場所の芝生広場である.双方とも設置高度は2.5m,シェルター,温度計はOnset社製のHOBOを使用した.10分ごとに観測し,30分移動平均値を使用した.郊外の接地逆転は,郊外の芝生広場に隣接する10階建てのマンションの屋上の避雷針(対地高度約40m)にシェルター,温度計は地上のものと同じものを使用した.
3 結果
ヒートアイランド強度の時間変化は,対象日の平均では日没前後に急激に拡大し,夜半過ぎから横ばいになる時間変化が見られたが,個々の事例をみると,雲量が0に近い時には日没後数時間以降に都市で気温の変動(急減少,急上昇)が大きく,それに伴いヒートアイランド強度の変動も大きくなっていた(郊外では気温変動が小さい).これは,山風の吹走による影響であると考えられる.そのため,ヒートアイランド強度が最大になる時間は事例によって様々であった.
夜間の郊外の接地逆転強度とヒートアイランド強度の関係をみると,郊外の逆転強度が大きいほどヒートアイランド強度が大きい関係が見られ,これは先行研究の結果と整合的であった.しかし,都市での気温変動が大きいため,同じ逆転強度でもヒートアイランド強度が±1℃程度のばらつきが見られた.