人文地理学によるリスケーリング論の再検討にむけた基礎的研究
Reconsideration of Rescaling in the Human Geography
花谷 和志(兵庫県立大学学部生)*
Kazushi HANATANI(Undergraduate student, University of Hyogo)
キーワード:スケール, リスケーリング, 領域・場所の政治, 淡路島
Keywords: Scale, Rescaling, Politics of Territory and Place, Awaji Island
1. 研究目的本研究の目的は, リスケーリング論を人文地理学の視点から再検討する基礎的研究を試みることにある. 特に, 地理学界において重要視されてきた場所, 領域, 境界といった古典的概念を引用し, 人々の生活するローカルな場所で生起するスケールの再編に伴う領域概念の変容を捉えてみたい.
2. 研究背景現代社会における地方自治のあり方は大きく変化しつつある. 戦後の高度経済成長期を経て人口増加社会から減少社会へと転じ, 政府は基礎自治体への各種の権限委譲を行った. また高齢化が進行し福祉需要が増大する中, 民営化・規制緩和・分権化を軸とした新自由主義的行財政改革が推し進められ,公共部門における市場サービスの導入が図られた(町村2004). 1995年の合併特例法の制定に伴った「平成の大合併」もこの動きの一つであり, 行財政学的観点から自治体による公共サービスの効率化が図られてきた.
一方で公共部門における市場原理の導入は, 自治体間の人口の奪いあいといった競争的な側面を招きかねない. そこで, 自治体間競争を生み出す可能性のある公共部門からのトップダウン型のスケール再編(リスケーリング)に代わる, 生活圏域に基づくボトムアップ型のスケール再編の動きを捉えることが求められている.
3. リスケーリング論を取り巻く現状と論点山﨑(2012,2013)によると, リスケーリング rescalingとはスケール scaleの派生語であり, グローバル化する現代社会の動態的な社会空間的プロセスを分析する概念である. リスケーリングについての研究は玉野(2014), 丸山(2015)ら地域社会学を中心に展開されてきたが, その分析単位は主に国家や都市といった公共的側面の強いものであった. 他方, 人文地理学, 特に政治地理学の分野からのリスケーリングの研究は, 地域社会学と比較して, より場所や地域といったローカルなスケールを重視する傾向がある. しかしながら, 人文地理学における市町村合併の研究では, 日常生活圏との関係が重要である(森川2011)とされているにもかかわらず, 住民が生活する身近な領域から発生するスケールの再編を捉えきれていないように映る. 事実上記のような視点を持つ実証的研究は, 既存の研究を管見する限りそれほど多くはない.
4. ケーススタディそこで今般は, 兵庫県淡路島での事例に基づき考察した結果を発表する. そのうえで 1)ローカルなスケールに根ざした人々の生活圏域を捉えることの有用性 2)場所・地域スケールで住民により発信される公的なスケールの拡大への対抗策を探究する手がかりとなりうる知見を得てみたい.
5. 参考文献町村敬志(2004)「「平成の大合併」の地域的背景―都市間競争・「周辺部」再統合・幻視される広域圏―」『分権・合併・ローカルガバナンスー多様化する地域 地域社会学会年報第16集』地域社会学会編
森川洋(2011)「通勤圏との関係からみた「平成の大合併」」地理学評論
山﨑孝史(2012)「スケール/リスケーリングの地理学と日本における実証研究の可能性」『リスケーリング下の国家と地域社会 地域社会学会年俸第24集』地域社会学会編
山﨑孝史 (2013)『政治・空間・場所―「政治の地理学」にむけて(改訂版)』ナカニシヤ出版
玉野和志・船津鶴代編(2014)『東アジアの社会変動と国家のリスケーリング』調査研究報告書 アジア経済研究所
丸山真央(2015)『「平成の大合併」の政治社会学―国家のリスケーリングと地域社会』御茶の水書房 ほか.
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