日本地理学会発表要旨集
2018年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P214
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発表要旨
近年における山形盆地のオウトウ収量変動の要因
*神居 幸恵
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抄録
1.はじめに
 本研究では,オウトウ収量とそれに影響を与える気象要素との関係性を明らかにすることを目的としている.オウトウの収量に影響する被害のうち,気象と関係するものとして凍霜害,結実不良,実割れが挙げられる.神居・森島(2017)による山形県東根市を対象にしたオウトウの収量とそれに影響すると考えられる気候要素との比較から,開花期間の低温と降雨がミツバチの訪花活動を介して結実不良を引き起こし,それが出荷量に最も大きく影響することが示唆された.しかし,山形県東根市を対象に行ったこの研究の対象期間は,資料の関係上過去10年と短い.そこで,開花期間の天候と収量の関係をより長期にわたり検証するため神居・森島(2018)では同様の調査を山形盆地で行った.その結果,過去10年においては東根市と同様の関係性がみられることが明らかになった.しかし,過去40年でみると訪花活動時間と収量との間に有意な関係性は認められなかった.
 このことは,オウトウの収量に影響を与える要素を気象だけでなく,栽培技術の進歩や主要栽培品種の変化なども考慮して調査する必要があることを示す.そこで,農家へのヒアリング調査を行い,その結果とこれまでの研究結果をもとに考察していく.



2.ヒアリング調査の概要
 これまでの研究結果を踏まえ,山形盆地内でオウトウを栽培する2軒の農家(農家A,農家B)へのヒアリング調査を行った.調査項目は,栽培方法,栽培品種とその変化,販売方法,セイヨウミツバチの活用,凍霜害と実割れ被害への対策などである.


3.結果と考察
 栽培方法に関しては2つの農家に大きな違いは無かった.栽培品種については,両農家とも佐藤錦が中心で,次いで紅秀峰,受粉樹としてナポレオンが栽培されていた.農家Aはこれに加え,紅さやかを栽培していた.凍霜害ヘの対策はどちらの農家も現在は行っていなかった.この理由を,摘果を行い実の数を調整するため,多少の被害であれば収量に影響しないためとしている.実割れの対策についてはA,Bともに雨よけハウスを使用していた.このことから,収量に対する実割れや凍霜害の影響は小さいと考えられ,これは神居・森島(2017)が前提としている条件を示すものである.逆に,雨よけハウス導入前や凍霜害の対策をしていた時代においては,これらの被害が収量に与える影響は現在より大きかったと推測される.セイヨウミツバチに関しては,農家Aは使用していたが,農家Bは10年ほど前から使用していなかった.この理由として,高齢となり,人手も不足しているため,収穫しきれないほどの結実は必要ないことを挙げている.これまでの研究ではすべての農家がミツバチを利用していることを前提にしていた.ミツバチを用いない農家の存在が,訪花活動時間と収量の関係性にどのように影響するのか考慮する必要がある.
 販売方法はA・BともにJAへの出荷のほか出荷統計には集計されない贈答用としての出荷があった.農家Aに関しては収穫量の5割を贈答用が占めている.また,人手不足のため,両農家とも収穫に時期のみアルバイトを雇っていることがわかった.農家Aはオウトウのハウス栽培や花き栽培も行っており,農家AとBの間に,農業に対する積極性の差を感じた.
 栽培技術や栽培品種の変化や,農家の高齢化,人手不足などの人間活動の変化などがヒアリング調査で明らかになった.オウトウ栽培におけるこのような時代背景の違いに伴い,収量と訪花活動の関係性も変化し,また,違う要因が収量に大きく影響することも考えられる.今後は,アンケートやヒアリング,資料を用いた調査を行い,人文的な側面からオウトウの収量の変化を分析し,その上で,気候の影響を考察していく.
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© 2018 公益社団法人 日本地理学会
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