日本地理学会発表要旨集
2018年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 814
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発表要旨
岐阜県を事例とした公共長狭物の歴史定期検証
*飯沼 健悟
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抄録

はじめに

岐阜県の美濃地方において確認できる明治期に作製された地籍図には,地租改正地引絵図と更正地図があり,更正地図は不動産登記を公示する法務局で公図として備え付けられている。

公共の道水路,いわゆる公共長狭物の境界を確認する管理庁,土地境界の調査を業とする土地家屋調査士は,公共長狭物の境界を探索する際に,公図を参考として土地境界の確認を行っているが,公共長狭物については,判例から時効取得が認められず,そのため過去に遡る調査を行うなど,非常に慎重且つ適正な土地境界の確認が求められている。

本報告は,これまで公共長狭物の境界に関する学術的研究が行われていないことから,公共長狭物が調査された成果である明治期の地籍図について考察を行ったものである。



岐阜県(美濃地方)の地租改正地引絵図

岐阜県美濃地方における地租改正地引絵図は,概ね明治9年に完成している。それには地租の対象である民有地の配置,地番,地目,等級,そして十字法による縦横の間数およびその反別が記載されており,これは全国的にも見受けられるものである。

それらに加え,岐阜県の地租改正地引絵図には,地租の対象外である公共長狭物についても調査がされ,その長さ,幅員及び反別が記載されている。

岐阜県は地租改正地引絵図の作製にあたり,明治6年(1873)9月『郡村取調方規則』を公布し,第6条において「…堤敷道敷溜池井溝敷之類共有墓地等自今無税ニ定ラレ候條其反別ノミ可申立事…」としている。これにより,地租改正の調査と併せて,地租の対象外である公共長狭物等の調査が行われていたことが確認でき,地租改正地引絵図との対照ができる。これは岐阜県における特色でもある。しかし,その調査方法については,史料等から確認することはできない。



岐阜県の更正地図

岐阜県は,地押調査として明治18年(1885)年2月25日『地籍編纂心得書』,同年5月12日『地籍帳及地圖整理手続』を公布し,地租改正成果の再調整を行い,明治21年(1888)に概ねの地域で完了させている。

併せて,地図更正ノ件(1885)による地籍図の再調整も行っているが,それは,同時期に県内で行う地籍編纂事業による公共長狭物の精密測量による地籍図を基礎として調整を行った。この作成経緯から,この時期に作成された地籍図を更正地図と称して区分するには,今後深く調査をする必要があるが,現在の岐阜県では更正地図として区分されている。

『地籍編纂心得書』第3条では,「國郡村字界及ヒ道路堤塘河溝等ノ製圖上筋骨トナルヘキモノハ實地精密ニ測量スヘシ」とし,調査方法について指示をしている。地籍編纂心得書による成果は確認することができていないが,作製された地籍図は幾つかの地域で確認でき,併せて調査過程を記された実地野帳が保存されている地域もある。

その野帳からは,公共長狭物の調査方法は,精密測量として中方儀,小方儀による多角測量を行い,支距法により公共長狭物の境界の屈曲点を測量していることが確認できる。



地租改正地引絵図と更正地図との比較

このように,岐阜県では明治初期に公共長狭物の調査が2度行われていることが確認できる。この二つの地籍図に記載された数値を対照してみると,相違する箇所を見つけることができる。1・2か所程度ならば,公共長狭物に何らかの変動があったとも考えられるが,相違する箇所が多数見受けられるため,これは更正地図が丁寧な調査で行われたことにより,より現地の状況を正確に反映させたことによる変動であると考えることが妥当である。つまり,地租改正地引絵図と比較して更正地図の記載は,現地の公共長狭物の状況を正確に表しており,現在,現地測量をした結果とも概ね一致することが確認できる。



まとめ

慎重かつ適正さが求められる公共長狭物の土地境界を確認するためには,歴史的段階を経られ,公共長狭物の状況が丁寧に調査された成果である明治期の地籍図は,土地境界の確認において最も重要な資料の一つである。

現在,法務局では全国にある土地境界の問題の解決を積極的に図っている。土地境界問題を解決する上でもこれらの理解を深めていくことは重要である。
本研究は岐阜県の数ヵ所の地域において検証したが,今後は地域を広げて研究する必要があり,今後の課題としたい。

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