抄録
1 はじめに
国連は2015年,貧困問題や地球環境問題,自然災害など世界が抱える諸問題に対し,持続可能な17の開発目標(Sustainable Development Goals : SDGs)を定めた。これにより,持続可能な開発のための教育(Education for Sustainable Development:ESD)がますます世界的に促進されている。しかし,この取り組みは各国によって違いがあり,それぞれの国の政策や教育制度に影響される。
サモアは南太平洋に位置し,小さな面積(約3000㎢),少ない人口(約19万人),グローバル化した世界での大きな市場からの遠隔性は典型的な小島嶼開発途上国(Small Island Developing States:SIDS)の特徴を有する。自然災害に対しても脆弱であり,頻発するサイクロンや地震,津波,火山噴火による大きな被害も経験している。南太平洋島嶼国はSDGsを考えるうえで,多くの課題を持つが,アジアやアフリカの途上国に比べて,扱われる機会は少ない。本稿では,高等学校地理歴史科の新科目「地理総合」を見据えて,サモアを事例にSDGsを考える授業実践を報告する。
2 授業のテーマ
サモアはポリネシアに位置しており、「遠隔性」、「狭小性」、「隔絶性」など典型的なSIDS(小島嶼開発途上国Small Island Developing States)の特徴を持つ。地球温暖化による海面上昇の被害を受けやすく、島国固有の問題(少人口,遠隔性,自然災害等)による脆弱性のために、持続可能な開発が困難だとされる。サモアを初めとして南太平洋の島嶼国は,ヤシの木の有効的利用や家畜の飼育など,もともと高度な循環型社会であったが,グローバル化の進展にともなって大きく変容している。古くからニュージーランドやオーストラリアとの結びつきが強く,MIRAB経済の特徴を有するが,
現在は中国からの企業の進出も目立つ。かつてはヤシの葉で袋や容器をつくり,残飯は家畜が処理するという風景が,海外からの安価なプラスチック製品の流入により,大きく変化している。
授業ではサモアの暮らしをテーマにグローバル化の影響をSDGsの視点から考察していく。