日本地理学会発表要旨集
2018年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 213
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発表要旨
パラメータ推定の実行に伴う問題を解消するログサム型時空間アクセシビリティ指標の定式化と応用
*増山 篤
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抄録
地理的空間における活動機会への近づきやすさは、「アクセシビリティ」と呼ばれる。土地利用・交通に関する計画を考える上で、人々にとってのアクセシビリティの程度を的確に評価することは重要である。そのため、地理学を含むさまざまな分野おいて、さまざまなアクセシビリティ指標(以下、AM (Accessibility Measure))が提案されている。

 アクセシビリティの程度は、いくつかの次元に規定される。そのうち最も明白なのは、地点間の移動時間・距離である。これに加えて最も重要なものとして、個人の時間的制約がある。この次元を考慮したアクセシビリティ指標をSTAM(Space-Time Accessibility Measure)と呼ぶことにする。

 計量地理学および地理情報科学においては、さまざまなSTAMが提案されてきた。しかし、そのほとんどは、個人の意思決定プロセスを明示的に考慮した上で導出されたものではなく、理論的基盤を欠いている。このような理論上の難点を指摘した上で、Miller (1999) では、新たなSTAMを導出し、定式化している(以下、MM (Miller’s Measure))。より具体的には、MMは、ロジットモデルの枠組み(ランダム効用理論)から導かれるログサム型指標である。

 MMはランダム効用理論によって基礎付けられているだけでなく、それ以外にも理論的に望ましい特徴を有する。Weibull (1976) は、AMが満たすべきいくつかの性質を公理として挙げているが、MMはこれらの公理を満たす。

 MMは、既存のSTAMと比較したときに、理論的な意味で好ましい特徴を持つ。しかし、実用面において、難点を残している。具体的には、パラメータ推定計算の実行に関する問題を残している。MMはいくつかのパラメータを含んでいる。したがって、具体的な個人や場所についてその指標値を計算するには、定められたパラメータ値が必要となる。これらパラメータ値は、時空間行動に関するデータから合理的に推定されたものであることが望ましい。しかし、仮にそうしたデータがあったとしても、その推定計算が容易ではない。

 今しがた述べたMMの改善点は、選択肢集合および確定効用関数に関する仮定に由来する。この指標の導出過程では、時間制約内で到達可能な活動機会のいずれかを訪れることが選択肢であると仮定し、また、非線形の効用関数を仮定している。これら仮定とMMの長短との関係をみると、非線形効用関数を仮定することによってMMがWeibull (1976) の公理を満たすものとなる一方、パラメータ推定計算が困難なものとなっている。

 STAMに関する先行研究を踏まえ、この研究では、MMが持つ理論的に望ましい特徴を損ねることなく、なおかつ、パラメータ推定計算の容易なSTAMを定式化し、その利用・計算法を示す。まず、MM における選択肢集合と確定効用関数を合わせて再検討した上で、同研究と同様にロジットモデルの枠組みを用いたSTAMを導く。具体的には、いずれの活動機会も訪れないことを選択肢として加え、線型効用関数を仮定したときのログサム型STAMを導く。このSTAMは、
ランダム効用理論によって基礎付けられる Weibull (1976) の公理を満たす 個人の時間的制約の大きさ(時間予算)が判明している限り、既存の統計パッケージによって容易にパラメータ推定を実行できる ことを特徴とする。なお、ただ一つのSTAMを定式化するのではなく、確定効用関数に関して若干異なる仮定を置くため、式形が若干異なる二種類のSTAMを定式化する。次に、定式化したSTAMのパラメータ推定方法と、これに関連する諸計算(二種類のSTAMのどちらをどのように選ぶか、具体的な個人・場所に対する指標値を求めるにはどのようにすればよいか)を議論する。最後に、弘前大学人文社会科学部生の帰宅途中における買い物行動というテーマに対し、本研究で定式化したSTAMを用いたケーススタディ結果を示す。
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© 2018 公益社団法人 日本地理学会
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